GOSICK

GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)
GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)桜庭 一樹 武田日向

富士見書房 2003-12
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starミステリー風キャラ小説
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作者の

桜庭一樹は最近ラノベだけじゃなくて一般小説を良く書くようになっているみたいだけれど、絶対ラノベ界から離れて欲しくない作家の一人。桜庭一樹の作品を読んだのは今回取り上げた「GOSICK」が最初なのだけれど、この本を読んでいなければ当然名作の「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」も、最近出た「少女七竈と七人の可哀想な大人」も読んでいなかったと思います。実はこの作品単体だと星4.5位だと思うけど、桜庭スキなんで5つ。

この

GOSICK」シリーズは基本的に「ミステリ」の構成をとっていて、一巻は奇妙な豪華客船に主人公達が偶然乗り合わせる所から始まります。しかしそこから何者かの手によって事件は始まる。船に閉じ込められた者達、そしで発生する異常な出来事。過去から伸びる陰惨な陰謀と邪悪の影。一体なんの為に? 果たして犯人は?こうして「GOSICK」は始まります。
そこで活躍するのが主人公の一人ヴィクトリカです。ヴィクトリカはここでホームズの役として活躍します。卓越した英知(本人曰く「知恵の泉」が「混沌を再構成する」)を持って謎に挑みます。

ヒロインの

ヴィクトリカはその高過ぎる知能のため場合によっては恐れられる人物でもありますが、猛烈に可愛い女の子でもあります。お菓子とか大好きらしく良く食べている描写がありますが、いいなあ!ちなみに知人はヴィクトリカのお菓子を食べるシーンに触発されてマカロンを食べるようになりました(ハイカロリー注意)。
ヴィクトリカについての文章上での細かな描写ももちろんですが、採用されているイラストもなあーんとまぁ愛らしいこと!(孫を褒めるおばあちゃん風) フリルがフリフリでふわふわで、もふもふです。ほっぺたもプニプニで猛烈な可愛さです。もともとその手の趣味は皆無でしたが、今もしヴィクトリカそっくりのビスクドールがあったら本気で購入を検討します。

ヴィクトリカはまた同時にいわゆるツンデレ属性のヒロインでもあります。とても精妙に描かれているせいか、派手さはありませんが可愛さ加減ではあの有名なゼロのルイズに決して劣りません(あそこまで過激な行動はとりませんが)。
ここまではまあ魅力ばかり挙げてみましたが、ヴィクトリカは体がとても小さく、動きがのろく、実は声がだみ声(本なので分かりませんが)、一般常識に欠けるという欠点だらけの人間でもあります。もちろんそれが魅力だという意見もありますが、そんなヴィクトリカにたいして意外に強引(半ば無理矢理)に何かと世話を焼き、足りない所をフォローしながらもヴィクトリカに罵倒され、それでも気に入られているのがもう一人の主役・久城一弥です。ヴィクトリカをホームズと表現しましたが、その場合久城一弥はワトソンとなります。

久城はもう一人の主人公

久城一弥はイラストでは柔和な感じに書かれていますが、性格は非常に男らしく骨太で、いわゆる堅物・真面目で融通が利かない人間です。
基本的にヴィクトリカに対して非常に優しく、何よりもまずヴィクトリカを優先する様な少年ですが、自分が「そうあるべきだ」と感じたらヴィクトリカの話を全く聞かない様な所もあります。微妙にサムライの匂いを引きずっている明治時代の日本の少年って所でしょうか。そこがまたヴィクトリカの持つ西洋の近代合理主義的な性格と対比されて面白いです。ヴィクトリカが「英知」をもって事件にあたるとすれば、久城一弥は「勇気」をもって事件にあたると言えます。ここも対照的で面白いですね。
もの凄く簡単に言えば二人の関係はただの恋愛関係としてしまう事が出来そうですが、実は複雑で、ホームズとワトソンであると同時に、女王と絶対の忠誠を誓う騎士のような関係でもあり、深窓の令嬢とその優れた執事の様でもあります。この二人の関係は非常に強固に感じられ、心地よいです。

また

物語の基本的な舞台となるソヴュール王国(ヨーロッパに用意された架空の国)と聖マルグリット学園の緩やかな空気はまるで二人の主人公のために用意された穏やかな揺籃のように感じます。美しく優しいイメージがあちこちにちりばめられていますが、あまりにも美しいため、それが二人を襲う過酷な運命の前に用意された前払いの褒美ようにも感じる程です。あながちハズレでもないような所がちょっと不安ですが。
GOSICK」をミステリと表現しましたが、ミステリとしては微妙ですので、それを期待して読むと残念ながら肩すかしを食うと思います。桜庭一樹が本質的にミステリ作家では無い事が理由なのかもしれません。しかし、「GOSICK」にはそれを補って有り余る魅力があります。最新刊が今日辺りに出ているはずなので、もし読んでいないようならこれを機会にぜひ一度手に取って見て下さい。
あ、あと「あとがき」は必見ですよ。女性作家であとがきが面白いといえば桜庭一樹竹宮ゆゆこが現代ラノベ界の双璧だと思ってます。