リバーシブル 1.黒の兵士

リバーシブル 1.黒の兵士 (スニーカー文庫)
リバーシブル 1.黒の兵士 (スニーカー文庫)水月

角川書店 2006-07-29
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なんか「奨励賞」とやらということで読んでみたのだけど・・・正直微妙な感じ。
イデアは悪くない。主人公が「調停者(メディアター)」と呼ばれるコンピュータの未来型(一番分かりやすい例えだと「スカウター」)ユーザーインターフェースかつOSを手に入れることによって発生する物語。
この「調停者」(なんか漢字だけだとなぜか先行者を思い出しちゃうな・・・)は信号の入力方法として「脳に直接信号を送り込む」という方式を採用しているため、目や耳で感じる「現実世界」の信号に、「調停者」で作り出した擬似信号の「仮想世界(エフェクトなどを含む)」を重ね合わせる事で、現実世界を異なった形で認識できるようになったりする。
また、「調停者」を付けている人間は「耳から入力された音を『調停者』に増幅・調整させる事」によって通常の何倍もの聴覚を手にしたり、目からの映像を『調停者』に補正させる事」によって通常ではありえない視力を手にしたりすることが出来る。当然触覚などにも影響を及ぼすことが出来るので・・・まあちょっとした超人のような能力を手にしたり、色々やりたい放題しようと思えば出来るようになっている。
当然無線などの通信機能も兼ね備えており、例えば男性「A」と女性「B」が通信して情報のやり取りを「調停者」に補正させる時があったとすると、男性「A」は女性「B」の実際の視覚に割り込みをかけて自分の顔をアイコンにしてしまったり、俳優と掛け合わせてよりいい男に見せたりする事が出来る。まあ、現実が変化する訳ではもちろんないのだが・・・。
また、こうした機能のほかにOSには可愛らしい妖精型の高度なAIで「ヘルパーかつエクスプローラかつブラウザかつデスクトップマスコット」のような機能がついている。まさしく未来のユーザーインターフェースだ。これは面白かった。
主人公たちはこの「調停者」を利用することによってある非常にコントロールが難しいネットゲーム「マスケラ」のプレーヤーとして活躍する事になるのだが、仮想空間だとばかり思っていたゲーム世界が、実は現実世界にも関わってきてしまって・・・というのがこの話の本筋になります。
個人的には「調停者」のイメージや機能描写についてはもう少し単独で突っ込んで描写しても良かったのではないかと思うのですが、こちらについてはまあこんなものかと思います。あまり書き込んでも読者を置き去りにする可能性があるし、どうもSF不遇の時代の様な気もするから。
あと、[現実世界]-[仮想空間]を行ったり来たりとか、[仮想空間]が[現実世界]に影響を及ぼしたりとかは漫画の攻殻機動隊や映画のマトリックスを引き合いに出すまでもなく、最近では比較的メジャーなテーマですが、OSとユーザーインターフェースを兼ねる「スカウター型コンピュータ」というのは中々発想として面白いし、しかも可愛い妖精型エクスプローラというのがいかにもラノベチックで良い。
まあここまでは良いんですが・・・。
発想や世界観は良いけど登場キャラクターの魅力がイマイチ無いのが最大の問題。主人公の「樹(いつき)」はどうも特徴と魅力に欠けるところがあるように感じたし、また物語後半の展開は登場人物が自分の身を危険にさらす事になる動機付けが弱く、かなり強引なように思う。それから登場人物に一般的な倫理感や恐怖感が乏しく、ちょっとただのテロリストっぽい。ヒロイン(たぶん)の「伊緒(いお)」も行動が意味不明に唐突で、感情の動きが上手く書けていないかな。比較的良く書けていたと思うのは個人的には「相馬さん」でしょうか。全体的な人間関係も濃いのか薄いのか分からない。むう。
この辺りいかにもデビュー作といった強引さがあって、ちょっとその辺が目に付きます。でも物語全体に疾走感があるのはまあ評価出来ると思う。この疾走感を出したいためにあえてキャラ描写を削ったのだとすれば・・・うーん。どう考えたものやら。虻蜂取らず?
イラストも中々良いのですが、もうちょっとメカやら風景を交えた映像とかそういったものを増やして欲しかったなあ。読んでもらえると分かりますが、世界観も折角作者がちゃんと1から作り上げているのだから、その辺りの補強(仮想世界「マスケラ」の風景や地図情報とかね)を描いても良かったと思うし。この辺の選択は誰がやっているのかなあ?編集者?うーん、デビュー作だしねぇ・・・あんまり冒険は出来ないのかな。
前にもどこかで書いたような気がするけど、可愛い女の子のイラストを増やせば良いって物じゃないと思う。あんまりそんなのばっかり目につくようになると、あざとく感じて不快になるし。何事も程ほどが一番。それともあれかな?可愛い女の子描くのが得意な絵師はいても、風景とか近未来の描写とかは苦手な人が多いのかなあ?なんかそういう事ありそう。
それからネットゲームの「マスケラ」を絡めた現実/仮想のアクションも良いけど、個人的にはもっと「調停者」に直接的に深く関わって話を展開させて欲しかった。これ付けただけで半分くらい超人になれる訳だし。折角ラノベらしい「妖精型デスクトップマスコット」なんてものがあるのだから・・・これはラノベでしかやりにくい分野ですよ。どうでしょ?
まあ2巻も出ているようではあるし、機会を見て続きを読んでみようと思ってはいるけど、まだまだかな。星2.5位にしても良いけど、作者の意気込みも感じるし、SFっぽいのが珍しい。今後への期待も込めて星3つの青田買い。もう少し頑張れば良いものになると思う。作者ファイト!