GOSICK〈5〉ベルゼブブの頭蓋

GOSICK(5) ―ゴシック・ベルゼブブの頭蓋― (富士見ミステリー文庫)
GOSICK(5) ―ゴシック・ベルゼブブの頭蓋― (富士見ミステリー文庫)桜庭 一樹  武田日向

富士見書房 2005-12-10
売り上げランキング : 54751

おすすめ平均 star
star量の割には妙に章の多いお話です
starGOSICK X -ゴシック・ベルゼブブの頭蓋-

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

GOSICKの5巻、急展開です。
GOSICK4巻の感想はこちら
前巻の引きで不吉な予言が語られましたが、それの少なくとも一部が実現してしまいます。ヴィクトリカが聖マルグリット学園から姿を消してしまうのです。ヴィクトリカは「ベルゼブブの頭蓋」というリトアニアにある施設に半ば連行されるような形で連れ出されてしまうのです・・・。
今回は久城によるヴィクトリカの奪還物語という位置づけが強く、ミステリという分野には入らないと思います。まあ、その痕跡らしきものは残っていますが・・・。しかしそれでも十分楽しめる本です。なぜか? 今まで薄もやの中にあった二人の微妙な関係の、じつはその強い結びつきをゆっくり確認する話だからです。
この本を読みきってから思うのですが、ヴィクトリカと久条の関係を「恋愛関係」というのは微妙に違う様な気がするのです。そういう側面が無いと言う訳ではありませんが、もっと強い、魂の結びつきというか、ソウルメイトとか、運命共同体というか・・・愛とか恋とかいう言葉で括れない、未分化で幼くて原始的で、それだからこそとても強い繋がり。そういった風に感じます。もちろん単純に恋愛ものとして楽しむ事もできますが・・・。ちょっと引用してみます。

「くるのが、おそい……」
「……ごめんよ、ヴィクトリカ
「待っていたのに」
「うん……。そうだね……」
ヴィクトリカは、哀しそうな顔をして近づいてきた一弥の顔を、両手のひらでばしばしとはたいた。一弥は「いたい、いたい」と言いながらももっと近づいてきて、ミニハットをかぶったヴィクトリカの頭を、くりくりと撫でた。

撫でるのです。くりくりと。キスとかするんじゃないんです。それでも分ちがたく繋がっているのがこの二人なのです。本書の後半で久条はある意味もの凄いぶっちぎり発言をするのですが、それでも私の印象は変わりません。その発言に答えて、ヴィクトリカはこう言うのです。

「君、守ってくれ。どうか、どうか守ってくれたまえよ……」

美しく、賢く、そして簡単に折れてしまいそうな程か弱いヴィクトリカ。5巻はヴィクトリカの弱さが語られる話でもあります。そして久条の強い誓いが語られる話でもあります。ここに至り、彼らは正しく有るべき所に収まった様な気がします。「鋭い英知を秘めつつもか弱い姫」と「頑固で決して曲がらない騎士」という関係に。色々思う所もあって、彼らの関係をただの「恋愛関係」としてしまう事は、非常に無粋な感じがしてしまいました。
4巻まで読まれた方なら全く問題なく入れるでしょう。重要な人物も姿を現しますし、見逃せません。おすすめです。
ミステリとしての側面を今までこのシリーズに重視してきた方に取っては星3つ位かも知れませんが、私はお腹いっぱいの星5つです。6巻にそのまま話が繋がりますので、ぜひ続けて6巻も手に取って下さい。

ところで、イラストの話ですが今回も素晴らしいのは変わりませんが、1巻の頃と比べると、ヴィクトリカが、その、微妙に、僅かながら「もっとぷにぷに」「もっとちっちゃく」「もっとふくふく」に描かれていませんか? いえ、凄いツボなので構わないですけど・・・。読者のニーズに応えたのかしらん。