ぼくと魔女式アポカリプス(2)

ぼくと魔女式アポカリプス 2 (2) (電撃文庫 み 7-5)
ぼくと魔女式アポカリプス 2 (2) (電撃文庫 み 7-5)水瀬 葉月

メディアワークス 2007-01-06
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おすすめ平均 star
star痛々しい情景描写が標準装備
star早くも?
starなかなか

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表紙はエロい、買いづらいのは1巻と同じだけど・・・。
いやいやいやいやあ。これは面白い。個人的には私的ランキングのかなり上位の所まで食い込みそうな気がする。ここ数ヶ月で読んだ本の中で1、2を争う感じの楽しさでした。やっぱりネタバレ風味になる可能性があるんで注意。極力避けるけど。

非常に簡単なストーリーの紹介

前巻であのような結末を迎えつつも、なんとか日常に復帰しつつ有る主人公・宵本澪が突然ドロップキックで首の骨をへし折られる所から話がスタートする訳ですが、ドロップキックをかました張本人は、なんと宵本澪にとって大切な「失われた面影」を持った娘、蘭乱爛崎寝々(らんらんらんざきねね)という自称「正義の味方」だった。彼女は宵本澪と砧川冥子の前に現れて、正義を語る変な言葉使いの娘・・・彼女は何者なのか? ただの代替魔術師なのか? 愛すべき変人か? 敵か? 味方か? そしてその目的は? というストーリーでしょうか。1巻のラストで出てきたレイテンシアも交えて、相変わらずの怪しいテンションでお送りする2巻です。

評価の上がった理由とキャラ紹介

正直、この作者のねちっこく、どちらかと言うと卑猥な言葉の多い文体は好きとは言いがたいのだけど、それでも読ませる読ませる。前作と比べて大きく作品の評価が跳ね上がっております。その理由ですけど、前作での経験を経て、主人公の宵本澪が成長したと感じた事が大きいでしょうか。相変わらずの皮肉げな所は変わらないのですが、彼は、ひねているだけではいられなくなった。彼は自分自身の持っている優しさや誠実さを隠しきれなくなったからです。相方のエベネゼルも(ほんの)ちょっと個性が出てきてイイ感じです。
ヒロインの砧川冥子も実に良い。今回はあまりエロっちい活躍は(表紙イラスト程には)無いのですが、段々可愛らしい所も、強い所も、弱い所も見えてきて、確かにヒロインとしての存在感をじわり、じわりと確立しつつあるなと思いました。存在がどっしりとしていて揺るぎない感じ。帽子型魔女・アヴェイラーズは相変わらず××な台詞を連発しますが、これは芸風という事で。
そしてさらに今回株を急上昇させたのはエルフのレンテンシアです。彼女の胸に抱えた生き様は1巻でも語られましたが、さらに補強される様な話が展開します。彼女の言葉はいいです。愚かな小娘のようであり、賢明な老婆のようでもあります。彼女のストーリーを追うだけでもこの本を読む価値があるのではないでしょうか。・・・その分、砧川冥子の登場シーンが削られていますけど。
新キャラの蘭乱爛崎寝々は名前を最初こそ「これも西尾の影響なのか?」とか思いましたけど、その性格と行動やら発言やらを見て行くうちに段々とそんな事は忘れるほどキャラの立ち方が素晴らしいです。

以上の結果このようになりました

私的には絶対おすすめの星5つ。続編も間違いなく購入しますね。ちょっと文体に癖が有るのは間違いないですけど、1巻を読破した人なら凄く楽しめる出来ではないでしょうか。ただし、相変わらずグロ注意ですが。

以下余談(ネタバレなど含む)

前作の悲劇によって宵本澪はモラトリアムの時期を無理矢理脱落させられ、最悪の苦痛と共に大人にならされてしまったように思います。2巻の頭の辺りでもうそのように感じました。
前作で彼は、真実にレイプされるように心をひんむかれ、陥った状況にレースのように停滞する事を禁止されて、現実と戦わない限り失う事を無理矢理覚えさせられてしまった。哀しい事に、本当に哀しい事に、幸せなゆりかごのような猶予期間は1巻で終わってしまったのだと思います。
しかし、そんな世界に足を突っ込む事になりながらも、なお輝きを失っていないと思える彼の生き方を、私は美しいと思いました。1巻の冒頭で彼は「ゆっくりと死に始めた」と表現しています。1巻の時は「死につつある者達の物語」を作者が表現したつもりなのだと思いましたが、それは私の勘違いでした。彼の全ての始まりはあの時だったと、宵本澪得意の皮肉げな言葉で「ぼくはあの時生まれた」「生きる事を始めた」と表現したかったのではないかと思います。
実は水瀬葉月、凄いんじゃあ? と思わせる一冊でした。