風よ。龍に届いているか

風よ。龍に届いているか〈上〉

風よ。龍に届いているか〈上〉

風よ。龍に届いているか〈下〉

風よ。龍に届いているか〈下〉

前書き

前作「隣り合わせの灰と青春」の続編として位置づけられている作品です。ただし、前作で登場したキャラクター達は登場する事は基本的にありません。名前だけとかならあるんですが、まあそれでも前作に登場した主人公達の匂いはそこかしこにあります。その辺りの理由は、まあ本編に譲るとして・・・。
また舞台も狂王トレボーの城塞から離れ(諸説あるようではありますが)、リルガミンと呼ばれる王国が舞台となります。初版の宝島社から発売されていた本(ちなみに初版だけで絶版したらしいです!)はもう入手困難の可能性がありますが、確か再版されていますので入手は容易でしょう。しかしこの作者、運が無いですね正直・・・。再版がかからなかったのもつまらなかったというより、どうも大人の事情っぽいですし。
ところで、再版のかかったこの下巻には当時の初版本にはない「不死王」という作品が付属しているらしいので、正直私もこれは読んでみたいとか思っていたり・・・。

やはりゲーム「WIZARDRY」のノベライズ作品です

前作はシリーズ一作目「狂王の修練場」を舞台にした作品でしたが、今作はゲームシリーズ3作目の「リルガミンの遺産」を下地とした作品となっています。謎の天変地異に襲われるようになったリルガミン王国を救うために、王家は冒険者達にリルガミン近くに存在する龍神・ル’ケブレスの治める山に行き、伝説の宝珠を探して手に入れるように指示します。そして以前の冒険と同じ様に、冒険者達は宝珠を求めてスケイルと呼ばれる山の中に張り巡らされた迷宮を旅する事になります・・・。

あれ、ゲーム2作目のノベライズ作品は無いの?

無いんです。
本家の発売順は1作目「狂王の修練場」、2作目「ダイヤモンドの騎士」、3作目「リルガミンの遺産」だったのですが、日本での発売順(特にファミコンでの)は、2作目の作りが特殊だった事から2作目は見送られて、本来3作目だった「リルガミンの遺産」が2作目として発売されたためです。
なぜそんな事が起きたのかと言いますと、2作目は1作目で作成したキャラクターを「コンバート」して持ち込む事を前提に作られた作品で、当時のファミコンではデータを別のゲームに移して使用するという事が難しかったためです。そのため発売順が2→3が3→2という現象が起きました。
この本は3作目(日本での2作目)にあわせて執筆されたものですので、2作目を元にしたベニー松山氏によるWIZノベルが存在しないのです。

本書を読むにあたっての前提知識の紹介

「善」と「悪」の属性の存在

前作を紹介したときには特に触れませんでしたが、登場キャラクター達には「戒律(属性)」と呼ばれるものが一人一人にありました。それは「善」「中立」「悪」の3属性です。
それぞれ特色を持っており、善は中立の人間と同じパーティを組む事が出来ますが、「悪」とは組めません。逆も同じです。また、「善」のパーティは攻撃的ではない敵モンスターを見逃したりする事が出来ますが、「悪」のパーティではそれは基本的に許されません。
じゃあ全員中立にしておけば良いじゃないかとなりそうですが、例えば戦士/盗賊の上級職である「忍者」には「悪」の属性の者しかなれませんし、逆に「侍」などは「悪」だとなる事が出来ません。そもそもパーティの回復役として重要な位置を占める「僧侶」は「善」または「悪」の属性の者しかなる事が出来ません。結果としてパーティは「善」「善ー中立混成」か「悪」「悪ー中立混成」にならざるを得ませんでした(実はある技を使う事で同時に行動する事は不可能ではなかったのですが・・・)。
ちなみに前作の「隣り合わせの灰と青春」で主人公のスカルダが所属していたのは「善」のパーティでした。

属性を利用した「リルガミンの遺産」のゲーム作り

リルガミンの遺産は少し特殊な作りになっていまして、フロア毎に入れる属性が決まっていました。これを破ろうとした場合、龍神・ル’ケブレス(最近はエル’ケブレスというそうですが)に、阻まれてしまいます(迷宮の外に強制的に飛ばされてしまう)。そのためユーザーは「善」を主体としたパーティと「悪」を主体としたパーティを同時に育てて、協力してスケイル(迷宮)を踏破していく必要がありました。

本書では「悪」の属性の主人公です

主人公の名前はジウラシア。属性「悪」の忍者です。ひたすら戦いを求めて一人で迷宮内を探索して己の技を磨く事すらあるストイックと言ってよい主人公です。口はちょっと悪いですが・・・属性「悪」の割には飄々とした主人公で、十分に好感が持てる性格です。もちろんパーティを組んでいる位ですからその他の登場人物もにぎやかで、笑顔で残虐行為を行う「悪」の僧侶・ザザや、ホビット指輪物語とかに出てくるあのホビットです)の盗賊・フレイに、口も悪けりゃ手も早い女魔法使いのディー、善人と正義の固まりのようなロードのマイノス、とぼけた感じの侍・ハイランス、そして上級職になる事無く己を鍛え続けた高レベルの戦士・ガッシュなどなど、魅力的なキャラクターがわんさかと出てきます。

オリジナリティー溢れる展開

前作の紹介でも「設定の空白をついて上手く物語を作っている」と表現しましたが、今作もそうです。もっとも後半になればなるほど独自の見解と発想による話になっていき、あくまで舞台を「リルガミンの遺産」にしただけのオリジナル作品の様相を呈してきますが、それでも面白い。のっけからゲームをプレイした人間にとっては予想を超えた話となって行き、物語は怒濤の展開をしていきます。
リルガミンを襲った天変地異の原因とは? 襲い来る「ゼノ」と呼ばれる怪物は一体なんなのか? 突如として沈黙した龍神・ル’ケブレスはどうなったのか? 過去の冒険者達の逸話、ダイヤモンドの騎士達の戦いの挿話、過去の女王の悲恋、そしてそれを見守り続ける超越者の存在などなどなど・・・全てが見事に織り重なって圧倒的なラストへと向かいます。とにかく必見です。

やっぱりどうしても高評価

これも私の脳みそにどっぷりと根を張ってしまった一冊です。星5つ以外ありません。
夢枕獏的に断言しちゃいます。
この物語は絶対に面白い
とにかくおすすめです。まだ読んでいない人が少し羨ましいです。だってこれからこの本を初めて読むチャンスがあるんですから・・・。