扉の外(2)
扉の外 2 (2) (電撃文庫 と 8-2) | |
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うーん、1巻をとても楽しんで読んだ口ですので、この2巻の出来は心配だったのですが・・・正直、予想どおりという感じでした。
ストーリー
前巻で行われた「ゲーム」に最初から参加せず、敗北したクラスである八組。今回の主人公はその八組に所属する理知的な少年である高橋新一。彼はクラスメイトを観察する事で一つの抜け穴がある事を発見していた。それは例の内通者の行き来している場所。
そこから上へと上がった彼は、そこにも下のフロアと同じ様な部屋があり、そして下よりも優れた環境が用意されていると言う事が分かる。それを確認した高橋は、八組のクラスメイトを導いて上のフロアへと拠点を移すのだが・・・そこには下のフロアよりもさらに過酷なゲームが用意されていた。
自由度を増し、お互いの疑念を増幅させるゲームシステムは、クラスメイトの間をどう変えていくのか。問題作の第二弾。
一応ネタバレ指数高くなりそうなんで、続きを読むにしておきましたが・・・発売日なので解禁します〜。
まだ読んでいない人は注意。
人間の本質を描くという意味では
とても面白いんですね。しかし・・・といった気分です。
まあ、主人公に関しては前作程中二病指数が高くないので感情移入そのものはかなり容易になっているんではないでしょうか。その部分は読み物として評価できますね。
で、「しかし」とした部分を説明したいと思います。そのためにちょっと前作で私が書いた感想をちょっと引用しますけど・・・手前味噌ですいませんが。
非常に良く考察されて描写がされて行きます。権力構造を保つためにはじき出され迫害される存在や、恐怖に怯えて戦いが戦いを生んで行く過程、一人の知恵者を神の様に持ち上げてしまう事で小さな社会でのパワーバランスを保とうとする試み、そして生き残るために選択されて行くより優れた戦略。優位に立ったものの取ろうとする行動と、施しの様に見せかけた哀れみ・・・極限状況に追い込まれた少年少女達を利用して、作者はこの辺りをそれぞれの立場から良く描き出しています。
昔受けた(社会学の授業でよかったかな?)の「権力は下から来る」という言葉やら、社会心理学なんて事を思い出しました。
こんな風に書きましたが・・・これ、一回こっきりのものだと思うんですよね。
確かに「新しいゲーム」「新しい登場人物」「新しい要素」を用意して、さらには前作のキャラクターを上手く使って話を作っています。その辺りの構成力は見事ですね。
しかし、繰り広げられる物語は基本的に前作の焼き直し。テーマも切り口を変えただけの焼き直し。一作だけなら「こういう舞台を用意して、こういう結論に導きたかったのか〜。なかなか読ませるし、面白いな」と評価できましたけど、同じ展開をするような作品を二回続けたらダメだと思う。新鮮さが全くないです。
見せ方こそ違いますけど
この本、作者の人間と言う存在に対する失望に満ちた視点は全く同じです。
・・・まるで人間に絶望した作者が、それを必死になって作品をもってして「否定しよう」「希望を見いだそう」としている精神的リハビリ作品に思えてしまいました。悲観的過ぎ。
読めば分かります。人間に対する失望は作品全体から溢れていますけど、希望は「書いた本人が信じていないせいか」とても脆いですね。脆すぎると言ってもいいです。
一巻のラストは
ある意味弱々しくとも希望がありました。しかし二回続けて作品のほとんどに渡って醜い人間の争いを見せられると、一巻のラストの仄明るさが完全に消えます。「同じ展開が繰り返される事によって」希望は絶望に代わり、単純に失意と諦観に支配された物語になる、とでも言いましょうか。
・・・そうだねえ、こう言ったらなんだけど、10年くらい続編は寝かした方が良かったんではないかな? そうすれば全く違う切り口、全く違う人間洞察、全く違う希望・・・と言ったものが描けたかも知れないですね。
その他
幾つかの部分で無理矢理な感じがありましたね。残された他のクラスは?とか。
こういう部分は一冊で完結してしまえば「それっきりのぶつ切りの物語」としてある程度「存在しないもの」として無視できる訳ですけど、2巻が出てしまったのでそうではなくなってしまった訳ですね。主人公たちが混乱に身を置いている最中、他の生徒たちが全く動かない事に違和感がありますし(特に1組)。
結論
星3つ。実際は3.5位でしょうかね?
いきなりの暴落ですが、仕方ないですね。やっぱり二番煎じは美味しくないです。
展開も相変わらず重苦しくて醜い争いばかりの展開で、ルールも緩和されて暴力的な要素も出てきます。このままインフレすると3巻は「バトルロワイアル」位まで行きそう。
こうしたルールの単純な緩和はちょっと「続編としては余りに安易だったんではないかな?」とか思います。
映画で例を出せば「エイリアンがウケたので、じゃあ2ではエイリアンを沢山出そう!」って発想ですね。ただし、「エイリアン」と「扉の外」の決定的な違いは、
- 「エイリアン」の場合
- 1作目(サスペンスホラー)
- 2作目(アクション)
という物語のベースの切り替えをやっていますので全く違う作品に仕上がっていますので楽しめますが、この話はその切り替えがありません。どちらかと言えば、
- 適当なホラー映画(「13日の金曜日」とか)
- 1作目(ビックリ型ホラー:殺人鬼が強くて怖い)
- 2作目(ビックリ型ホラー:殺人鬼がもっと強くて怖い)
に近いですね「扉の外2」は。そりゃあ1巻の仄かな希望も絶望に変わります。変な言い方ですが、生き残っても続編で殺されそうですからね。
・・・しかし、色々悪くは書きましたがまあ、出来自体は悪くないですので読んでみるのはありかと思います。しかも話はさらに続きそうな感じですね。
余談
それにしても勝つ事の意味が良く分からないゲームですねえ・・・前作の「ゲーム」の実質的勝利者である正樹愛美の扱いを見るとそう思います。あと実質的敗者の蒼井典子の扱いもそうか・・・。やっぱりモルモットの実験場みたいですね。それはそれで楽しいですけど。
次も同じ様な展開だったら買うのを止めるかな・・・。
そうそう、あとがきに書かれた内容がかつて無い程ヤバいです。この作者、ちょっとアレかもしんない・・・。
感想リンク
まいじゃー推進委員会! 今日もだらだら、読書日記。 ライトノベル名言図書館 MOMENTS 積読を重ねる日々
「今日もだらだら、読書日記」のうららさんが言うとおり、1巻を楽しめなかった人が楽しめる作品に仕上がっている可能性大ですが・・・。もっと色々な人の評価が見たいので、皆さん買って読んで下さい。・・・なんか変だけど。「積読を重ねる日々」さんのキャラクター考察も面白いですね。