カタリ・カタリ トキオカシ(2)

カタリ・カタリ—トキオカシ2 (富士見ミステリー文庫 80-2)
カタリ・カタリ—トキオカシ2 (富士見ミステリー文庫 80-2)萩原 麻里

富士見書房 2007-05
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前書き代わりの魂の叫び

完結?
ふざけんなー!! 続きを出させんかー!! 大人の事情など知った事かー!! 富士見ミステリーがレーベルとして無くなるのかどうかなんぞ知らんが、じゃあファンタジアで続きを書かせんかー!!

ストーリー

神に若返りの呪いをかけられた一族「時置師(トキオカシ)」。
彼らには必ず<対>が存在して、自分に定められた<対>が見つからない限り、他人の時間を奪う事でしか若返りと止める事が出来ない一族です。そして<対>の存在を唯一の拠り所として生きている呪われた一族。
主人公の藤沢誠一は、完全瞬間記憶能力を持つ少年で、時置師の<対>としての能力であり、そして時置師に見いだされた少年です。
彼にとっての時置師は観池眞名という少女なのですが、彼女と、彼女の姉妹である眞依も眞名と同じく時置師。彼女とその<対>である夕霧智里と共に、時置師にかけられた呪いについて調べているのですが、その調査は遅々として進まず、途方に暮れていた矢先、意外な所から情報がやってきます・・・というあくまで第二巻と言い張りたい作品

前作の感想でも書きましたが

特殊なタイムトラベルもの」ですね。
若返りの呪いをかけられた事によって望むと望まざるに関わらず強制的に過去に彼らは飛ばされます。1巻の時もそうでしたが、それは唐突で、予期する事が出来る類いのモノではありません。今回は時置師の謎について調査中に唐突にやってきます。1巻は明治時代でしたが、今回は大正時代ですね。
まあミステリーとは言い難い作品ですが、昔と今、民俗学、時置師の一族とその特殊性などなどが複雑に絡まり合って面白い物語を紡いでくれます。
時置師の存在とは一体なんなのか? 呪いの正体とはなんなのか? という所に結局のところ物語の最終的な問題は集中していく訳ですが、それよりなにより、数奇な運命に翻弄されていく時置師たちのキャラ描写と設定が珍しくて秀逸です。

一番特徴があるのは

<時置師とその対>は魂レベルで求めあうように宿命づけられていて、相手と出会った瞬間からお互いに必要な存在であると理解してしまい、深く愛さずにはいられないという所です。そこに年齢差や地位や立場などは一切関係ありません
宿命なんて書くとなんとなく反発したくなる様な感じですが、もう愛して愛して止まなくなる訳です。時置師は<対>出会う事で若返りの呪いから離れる事が可能になり、同時に魂の安息を得ます。そして<対>も同じように時置師を深く愛します。完全なる相思相愛。もういちゃいちゃどころでは済みません。
なにしろ本編内には時置師(12歳:少女)とその<対>(36歳:エリートサラリーマン)などという組み合わせがあったりします。12歳のランドセル少女です。この二人が立場も何もかも越えて深く愛し合ってしまうのですから、その結びつきの深さが分かってもらえると思います。
ああ、どうして俺は時置師の<対>ではないのでしょう神さま!? 12歳〜!!! ランドセル少女に激しく愛されてみたい!!
・・・まあ錯乱はこの程度にして、ちょっと数人紹介してみます。

藤沢誠一

主人公の少年ですね。
1巻で観池眞名と出会って以来、ぴったり一緒にいる事になりますし、その事について大きな違和感も感じません。外見もよろしく、記憶力は前述の通りで意外に優秀。他の女生徒にもモテているようですが、あまりに眞名が彼に取って強烈なためか意識が他に行っていません。
しかしながら眞名曰く「たらし」のような所があるらしく、本人は自覚的ではないですが女性に喜ばれる事(フラグ立てとも言う)を無意識に行っているようです。本人はどうも眞名一筋のようですが、眞名含めて周りがそう思っていません。その辺りを除けば至って普通の少年です。

観池眞名

本来生まれるはずではなかった11人目の時置師(いつの時代も時置師は10人までしかいない)だったため、<対>もずっといなかったのですが、藤沢誠一と出会う事で救われます。見事なまでの美少女。彼女の誠一に対する精神的な傾倒っぷりはもの凄く、嫉妬深いし、過激ですし、愛情表現も一直線です。
ただし、常に勇敢な少女ではないのでいつもはそんなにベタベタしませんが、その分時々「甘えたいエネルギー」が大噴出します。

「ね、誠一くん」
「なに?」
「……キスしてもいい?」
「ああ、キスね。いいよ別に……別……に!?」
ほとんど何も考えずに頷いた誠一は、すぐに気付いて語尾を跳ね上げた。
「な、なんで、いきなり」
「今すごく……したくなったの。駄目?」

さらにその後にはこんな事も言っています。

「これからは出し惜しみしないことにするの。疑ったり迷ったりしない。私、誠一くんのこと大好きだから……誠一くんも出し惜しみしないでね」
「だっ、出し惜しみ?」
「そ、誠一くん天然タラシだから油断できないんだもん。浮気したら本気で怒るからね」
「し、しないって! 俺がいつそんな真似をっ」
「……ふぅん。そんなこと言うんだ。じゃあ美浜さんのことは? 伊読さんとか乃々香ちゃんとか、あ、あとルミちゃんとカヨちゃんの頭、やさしーく撫でてあげてた!!」
「そ、そこから既にNGなの!?」

神さま、もう一度言います。なんで私は時置師の<対>に生まれてこなかったんでしょうか!?

・・・ところで

今作は上からの命令かなんだか分かりませんが、無理矢理完結させろって感じで内容を急がされた感じがあちこちで目立つんですが、それでも面白く読めましたね。なんとしても続編が読みたい所です。しかし急がされたためかストーリーにも解決していない問題も多く、打ち切り感が強く、悲しさを煽ります。
しかし、惜しい、返す返す惜しい。急がせずにゆっくり話を展開させていけばきっともの凄く面白いシリーズになっていっただろうに・・・。あとがきにもまだ登場していない人物たちの設定集がちょっと載っていたりしましたが、文章で彼らが動いている所が見てみたかったですね。設定だけでも魅力的なキャラが複数いましてですね、例えば<先生と生徒の禁断の関係>とか・・・ああ読んでみたい。
本当にね、コレ打ち切った富士見ミステリー編集部、ひいては富士見書房は馬鹿じゃねえのか?
酷い言い方かも知れませんが、本音ですね。読者を馬鹿にしてんのか? んな強引な事やってっと、富士見と名のついた所の本は二度と買わねえぞボケ。

総合

星4つ。
特に良いなあと感じるのはやっぱりキャラクター描写でしょうか。特殊な設定のわりには違和感が無く、一人一人なかなかに愛すべき存在として描かれています。
それに主人公達があっちにふらふら、こっちによろめき・・・と煮え切らない態度ではない所が個人的にツボですね。まあ誠一くんはどうも人を傷つけたくないために、まだまだ自分を好いてくれる少女に対して「果断に対処する」という所までは行っていませんが・・・それでも精神的には一筋っぽいんで、好感が持てますね。
またストーリーの方ですが、「もう既に『起こってしまった過去』に主人公たちが介入して現在の正しい時間軸に導いていく協力をする」という題材としてはよく使われる類いのものなのですが、それをちゃんと読み応えあるものとして書ききっています。

鹿澄ハル氏のイラストも前作に続いてなかなかに良いシーンを切り取ってくれますし、見せ方も好きですね。
そして言いたい事はただ一つ。「完結編」とか寝ぼけた事を言わずに続きを出せ。これに尽きますかね。この本に登場する愛すべきキャラクターたちにもう二度と会えないのは寂し過ぎます・・・。

感想リンク

私の感想は余りにもキレ過ぎているので、落ち着いた上記お二方の感想を読んでいないようでしたら是非。大御所のまいじゃーさんだってガックリしているみたいですよ? もー、テメー、富士見ミステリーよぉ、何とかしろよぉ。あぁ!?