SAS スペシャル・アナスタシア・サービス

ストーリー

唐突な出来事だった。一家三人でごく一般的な生活を続けていた山階立夏(やましなりっか)はある日突然現れた3人の少女によって日常が突然別の物に変わってしまった事を知る。それは双子の妹・紗友(さゆ)が遠くバルト海傍の小国・リヴォニアの王位継承権を持っているという事実が明らかになるとともに、そのリヴォニアが今継承権に関わる問題で、複数の国家を巻き込んだ問題に発展しているという出来事。
そしてそれを説明してくれたのは、3人の少女(アナスタシア、フランツィスカ、エーファ)だった。彼女は紗友を護衛する為に遣わされたという。そしてそれを証明するかのように襲撃を受ける立夏と紗友。3人の護衛たちとの銃弾の飛び交う共同生活が始まる。

なかなかソリッド

3人も少女が出てきて、しかも護衛って事なのでどこまでお色気路線に行ってしまうんだろうとか思ったんですけど、意外や意外、描写されるシーンがなかなかに固くて渋いアクションシーンだったのが驚きでした。

エレクトリック・スタビリティ・プログラムが自動的に働き、スピンを防ぐ制動が開始され、即座にブレーキを戻すエーファ、さらにアクセルを踏み込み、車体が45度傾けられる。そのまま横滑り。
車体が完全に路線から出る前に――路面電車がわずかに速い――接触した。回転する車体の後部が電車に擦られ、ぶつかり、撥ね飛ばされる。

・・・表紙イラストは女の子(アナスタシア)がドカンですけど、作者本人はM:I2とかのアクション映画(ジョン・ウー監督作品とかね)が好きなのかな〜って感じがしましたね。あんまり浮ついた描写は無くて、全体的に落ち着いた語り口で話が進みます。

そうは言っても

今時のラノベにはある程度のお色気要素が必要不可欠(?)なのも事実でして、その辺りは基本的に妹の紗友が担当してくれます。
実は今までは二卵性双生児だと思っていたのがそうでは無いという事が明らかになり、もともと非常に仲の良かった二人の関係が揺らいでしまって、妹が妹ではなく「女の子」になって戸惑う立夏と、それを積極的に押し進めてもいいんじゃない?とか思っている感じがある妹の紗友がまたちょっと微妙でいいです。

アナスタシア達は

基本的に落ち着いていてシリアスなキャラクターですが、やはり少女は少女。立夏や紗友との共同生活によって少しづつ精神的な距離を近づけていきます。特に3人の護衛の中心にいるアナスタシアの変化は魅力的。立夏、紗友、アナスタシアの三角関係はなかなか微笑ましい物があります。
この話は色恋方面ではそんなに派手な出来事は無いんですけど、全体的に落ち着いた作風なので浮き上がって見えます。フランツィスカ、エーファも年相応の可愛らしい所を魅せてくれて、物語に華を添えてくれます。
また、立夏が紗友を守る為に訓練をしたいと言い出して、それを鍛えるのがアナスタシアなんですが、妙なリアリティがあって何となく懐かしの「パイナップルARMY」とか思い出しましたね。
・・・ラストの方の展開はちょっと強引で意味不明感が強かったですけど、まあ許すかなあ。

しかし・・・

あんまりにも見るに耐えないと思えたのがイラスト。これは酷い。

  • p28の逃走中の車内のイラストの人物配置が本編内の描写と全く違ったり
  • p156の草むらの中で監視任務にあたっていたフランツィスカのイラストが激しく馬鹿臭かったり
  • p199のイラストの主人公がp28のイラストとほとんど違わなかったり
  • p271では眠らされているはずの紗友がしっかりはっきり起きていたり

・・・枚挙にいとまがありません。一回ちゃんと気にしながら読めば気がつく事ばかりです。表紙を始めとしたカラーイラストの色遣いはなかなかキレイと思えましたけど、これでは駄目ですね。かつて無い程最悪です。編集部が悪いのか、絵師が悪いのか分かりませんが、これでは作者が浮かばれません。
たま◇なま」の時にもイラストが酷いと思いましたけど、HJ文庫はもう一回編集に関する姿勢を考え直した方が良いと思う。いい加減過ぎ。

総合

星2つになりそうだったけど、ギリギリ星3つにしておこうかな。
シリアスなアクションに関する描写とかはそんなに嫌いじゃないって事がその主な理由ですが、そういった描写が好きでは無い人はかなり読むのが苦痛に感じる可能性がありますね。まあ私は楽しめましたけど。
しかしとにかくイラストが酷いので(星マイナス1)、それを確認する意味でも一見の価値があるんではないかと思えますな。