殺×愛2—きるらぶ TWO—

殺×愛2―きるらぶTWO (富士見ファンタジア文庫)
殺×愛2―きるらぶTWO (富士見ファンタジア文庫)風見 周

富士見書房 2006-02
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おすすめ平均 star
starサクヤさんの成長が見られます☆

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ストーリー:とにかく恋愛しておけという殺し愛のお話?

突然世界に訪れた破滅の時間。謎の《天使》と呼ばれる存在が、人間の作り出してきた全てを「回収」し始めたためだ。世界中がこの破滅に直面しており、既に国によっては滅んでしまった所さえあるという状況になっていた。
椎堂密(しどうひそか)はそんな世界で生きる一人の高校生だったが、自分の中に大きな秘密を持っていた。彼が世界を破滅に導く引き金を惹いた存在であるという事。そしてソその出来事以来、普通には死ねなくなってしまった体。
彼を滅ぼす事が出来る者は、彼と相思相愛になった相手だけ。そしてそれこそが世界の破滅を止める方法だという。そしてその椎堂密の前に現れた終末委員会(世界滅亡に対抗するための組織)からやって来た少女サクヤ。彼はサクヤを利用して自分を殺してもらうための手を打ち始める。
「あの人」に会うためにサクヤを利用しようと企む密ですが、そのための恋愛関係が雲行きが怪しくなってきまして、頭上に横たわるのは歓喜の雨を降らせる雲か? それとも悲しみの雨を降らせる雲か? という感じの2巻ですね。

いやー

良くも悪くも、全く異なる読み方が出来る作品ですな。
今回は「なめてんのか貴様」というシーンが少なかったので、優しい感じで行きます。というか、ムカつきつつも変に楽しく読めたのが不思議。主人公を始めとしたキャラクター描写が非常に秀逸に思われるからですが・・・。
という訳で、1巻(通算2巻)が星4つながらイロイロアレだった「殺×愛」ですが、普通に青春すると安心感が高まる感じです。主人公が素直に恋愛しているときは実に好感度の高いシリーズなんじゃないでしょうか。
地雷原のない平野など、一夜で百里は駆けてくれるわ! という感じで爆走した感じで読了ですね。

あり得ない、素晴らしき、お祭り学園生活

ファンタジックな出来事が起こる訳ではないのに、実際には地球上のどこにも存在しない素晴らしき学園生活が書かれています。
しかしそれを承知でお約束をゆっくりと踏んで行く快感とでも言いましょうか。そういう楽しさがあります。
その辺りの「青春空想的学園生活」を支えているキャラクターとして、今回やっとちゃんと登場する高天原A(たかまがはらはじめ)の存在と、お調子者のクラスメイト猿渡三聖(さるわたりさんせい)のインパクトが強いですな。特に高天原
フルメタの短編集から究極生徒会長・林水が間違って長編に出演してしまったというような感じの唐突さですが、まあこの位しないとこの舞台で普通の学園ラブコメなんて書けないでしょうな。

高天原——シリアスの破壊者

とにかく「恋愛原理主義者」である彼女が椎堂の元にあらゆるラヴに関わるネタを強制的に引っ張ってきてしまいます。
そのぶっとび方を少し引用します。以下はサクヤと高天原の会話ですが・・・。

「私の手助けを……。あなたは何者なの?」
「愛で世界を救おうとしている者だっ!」
「愛で……世界を……」
「そうとも。どんな障害に満ちた恋でも成就させる、悩める者の最後の砦。動く愛の駆け込み寺。縁結びの女神。恋愛最終兵器。それが、この私——高天原Aである!」

突然のこの展開に唖然としますが、よくよく考えると恋愛パート(ゲームか?)においてはいつでもこうなりそうな雰囲気が0巻、1巻共にあったよな・・・と思ってみたり。
彼女の手引きで発生するイベントがまたコテコテで、「手作り弁当による恋の駆け引き」、「人の恋みて我が恋なおせ事件」、「とりあえずデートでプリン」、「爆弾処理は愛の言霊」、などなどの春満開的なイベントが半強制的に発生します。

我らが椎堂密くんも

この高天原フィールドでは多少そのグレを削がれるようでして、なんだか上手い事言ってしまったりします。

「……笑ってる。告白はうまくいった、ということね」
「いや、たぶん、ふられたんだと思うよ」
「では、どうして笑っているの?」
「それは……」
説明してやろうかと思ったけど、やめた。
隣に腰掛けているサクヤに、僕は微笑みかけて、
「きっと、きみも、恋をすればわかるよ」

・・・相手が恋愛超初心者であるサクヤで、かつ発言者が一定以上のイケメンでないと、言った瞬間に白い目をされるか爆笑されること請け合いのセリフなので間違っても現実で使用してはイケナイ感じですが——これがこの作品では実にしっくり来てしまうんですな。

シリアスもありますね

今回は前半コメディで瑞々しい恋愛を、後半はシリアスで爛れたっぽい恋愛を描いてます。
この対比(高天原らクラスメイトが一切出なくなるとシリアス)は実に上手く機能していて、後半のちょい役キャラの女性が出てくる話は、語り口の柔らかさ、テンポの良さ、イラストと言葉の融合などが相まって見事なストーリーになっています。ままならない命、ままならない恋、ままならない心、ままならない思い。
これは美しい話ですね。美しくて——苦い。肉の痛みがあるかのような一つの恋の物語。
そしてそれと続けて語られるアダムの再登場。彼は密にある事を要求するのですが・・・次の話がどうなるか興味が出ましたね。
・・・そう言えばにゃみちゃんも出てきますが、彼女は隠れキャラみたいな扱いですね。一回目のプレイでは攻略不可能っぽい感じがなんとも。・・・えー? ファーストプレイで攻略可能にしておいてくれないと俺は買わないぞ?

総合

面白かった。けど4.5位で星4つ。
前半のコメディ展開はよかったけど、余りの方向転換にちょっと付いて行けなかったのが一つと、後半のシリアスパートの方が明らかに面白く感じてしまったため、一冊読んだあとに前半を読むとどうしても「もったいないなあ」と思ってしまい、こういうノリで話を続けて欲しいなあ・・・とか思ってしまったためですかね。確かにコメディあってのシリアスなんですけど、うーん・・・。
「滅びの中での恋」——もう世界設定からして「悲劇」が似合う感じですよね。悲劇の方が相性がいいなという感じですか。
それにしてもこの作者、ラノベ的に必要な言葉を必要なキャラクターに「大まかな心の動きははっきりと分かりやすく、重要な繊細な部分は程よく謎めいて」語らせる事が出来る作者ですね。青少年でも安心です。
G・むにょ氏のイラストは相変わらず良い。というか特にデザインが良い。章毎に書かれる手書き風タイトルとプリン情報が実に楽しい本ですね。あとやっぱり後半p264-265のイラストと言葉を同時に入れる表現方式は実に良かった。