消閑の挑戦者(3) ロスト・エリュシオン

消閑の挑戦者3 ロスト・エリュシオン (角川スニーカー文庫)
消閑の挑戦者3 ロスト・エリュシオン (角川スニーカー文庫)岩井 恭平

角川書店 2005-05-29
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おすすめ平均 star
star転換の巻
starテーマは「友達」。
star待ってました!

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ストーリー

果須田裕杜という超越的な存在亡き後、世界の次の姿を模索し、あらゆる火種を抱えつつある世界。
そんな中を「未完成」と呼ばれながら、同時に「後継者」とも思われつつ過ごす少女・鈴藤小槙(すずふじこまき)は従姉妹の鈴藤いるるに誘われて、ウォリスランド共和国の中にある”混沌の街”と呼ばれるアウルスシティという街を訪れる事になる。なんとなく腐れ縁となりつつある少年・春野祥(はるのさち)もやっぱり一緒にだ。
そこで小槙はイオ・アンセルメという一人の天才少年と出会う事になるのだが、彼は「一日しか記憶が持続しない」という障害を負った少年でもあった。祥は祥で森野イズミというかなりの変人少女と出会って親しくなるのだが、アウルスで出会った彼ら二人とも、同じ秘密を持っていたのだった。
抑えを無くして「暴走する知性が生み出す狂気」と対峙する事になる小槙と祥。混沌の中に新しい秩序は見いだす事ができるのか。波乱の第3巻です。

少しは

マシな関係になったのかなあ・・・と思いつつも相変わらずな二人ですねえ。
街で偶然出会えば取りあえず小槙は他人のフリどころか見つからない様にする始末で、ついでにほっぺたをつねられるという関係は相変わらずです。進歩が・・・進歩がないよ・・・。
といいつつも今回は物語の中心人物に「鈴藤いるる」という優秀かつ変人という困った女性が出てくるので、彼女を間に挟んでなんだか妙なバランスが取れちゃってますが。
それでも基本姿勢は変わらないですね。小槙は、

小槙を取り巻く世界は、とても謎だらけで不安定だ。しかし小槙が出会う人々は、迷うことなく平然と世界を歩いて渡っている。
小槙が知っていることなど、誰でも分かる。ただ理解する速度が違うだけだ。百桁の計算が即座にできたところで、何にもならない。誰だって、時間さえかければ解けるのだから。

最高学府を出ながらも「人間として明らかに勉強不足だなあ・・・」と感じる人がいたりしますが、小槙はタイプは違えどそういう方向の人間ですね。
それとは別に祥は、

「どこよりも近い場所にいる同級生の目に映るだけで、精一杯なんだからな」
拳を握りしめる。焦りにも似た感情に支配されているのが、自分でもよく分かった。
少しでも立ち止まれば、鈴藤小槙という少女の背中すら見えなくなってしまう。

強い意思を持っているために小槙より優れながらも、同時に決して小槙に追いつけない少年とでも言えばいいのでしょうか。心(極端な言い方ですが)を持たないからこそ最高の性能を発揮し続ける小槙と、心をもつからこそ常に最高ではいられない祥。対照的な二人です。

今回は

今までよりもさらに「明確な敵」の存在が最初からあるので、彼らがその「敵」とどのように向き合って行くのかという所が見所ですね。
今回は今までも出てきていた「超飛躍」という能力に焦点が当てられます。小槙にとっても祥にとっても他人事ではないと言いましょうか。
人類の頂点を失い、冷静さと頭を押さえつけるものを失ったことで野心を持つもの達が暴走する今回の話ですが・・・うーん、現実にも地球上のどこかで起きていそうな話で微妙にイヤな話ですね。

「科学の発展に邪魔になることはあっても必要ないものはと聞かれたら、君はそれが何か分かるかい? ——倫理感さ」

といったようなやり取りがあったのがなんの本だったか忘れてしまいましたが、まさしく今回はそういう話です。

それと

平行して新しく生まれる人間関係にも注目です。
小槙は今までと違った出会いをすることになる天才・イオがそうですし、祥にとってはイズミという少女がそれにあたります。祥側はかなり一方的にラブ波動を放出されていますので、その辺りが物語にどのように影響して行くのかも見所ですね。
小槙の方は・・・本人が「心の機微」とか「揺れ動く乙女心」とかそういった人間を豊かにするものを「な〜んにも分かってない」ので緊張感に欠けますけどね。

彼らには今回

こうした出会い以外にも大きな転機が訪れます。
小槙は自らの「わがまま」を口に出し、祥は心を折られそうになります。それだけの敵が出てくる訳ですが・・・変な二人ですね。いざという時には彼らは手を取り合って「最善の道」を模索します。

「ううん。——あたしたちはいつも、肝心なところで別々なところにおるなあ思てん」
「そうだな。考えてみりゃ、けっこう良いコンビだよな」
「なんでやねん」
即座にツッコむ小槙に対し、祥がニヤリと笑った。
「離れてたって、力を合わせられるんだからな。そういないぜ、そんなヤツら」

彼らが今回見つけたものは一体なんでしょうか。

総合

星4つ。十分に楽しい。
まあ欠点と言えば毎回天才が沢山出てくるので、ちょっと天才のインフレっぽい感じがする事でしょうか。まあ見せ方が毎度毎度違うし、同じキャラクターをほとんど使い回さないので、話自体がつまらないとかという事は無いのですが。
あとこんだけ色々新しい野望を持った天才達が出てくると、それ以前の世界の頂点に立っていた「果須田裕杜」ってどんだけの人間だったんだか・・・とか今更になって疑問に感じたりして。超人どころか・・・神様並みの能力があったんと違うんでしょうか。・・・なんか、やっつけられてしまっていますけどね。
そうは言いつつもまあ不満らしい不満はないです。小槙がもうちょっと面白く(人間的に)なってくれれば星5つに届きそうなんですけどね
四季童子氏のイラストは相変わらずの安定感です。十分な感じですね。