量産型はダテじゃない!

量産型はダテじゃない! (富士見ファンタジア文庫 (180-1))
量産型はダテじゃない! (富士見ファンタジア文庫 (180-1))柳実 冬貴

富士見書房 2007-09-20
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なんだかラノベと直接関係ないエントリが大ヒット状態でオジサンは一体何をやっているのかな〜? という疑問を感じなくもないですが、これは面白かったですねえ・・・。

ストーリー

——時はアルタイル星暦3421年。第一次UD戦争の最中の事。
「UD」とは戦闘用に作られたヒューマノイド「アルティメットドール」の事を指している。そしてこの世界では人と機械知性体とのいつ果てるとも知れない戦争が続いていた。
その果ての見えない戦場の中に一人の「英雄」と呼ばれるヒューマノイドがいた。名をシュナイダーという。一機で戦況をひっくり返すだけの力を持ち、戦い踊る戦闘機械。彼はその力のために白光の騎士と呼ばれた。
この物語は、最新鋭のヒューマノイド・シュナイダーの華麗な戦いを描いた作品・・・ではなくて、数十年前に作られた無骨/低価格/量産ロボであるところのポンコツロボナンブの気合いと根性の物語である。

いやあ〜好きだわこれ

なんというんですかね、ガンダム世代の脳の隅っこの方を突きまくってくれる作品じゃないでしょうか。
実際タイトルは某アムロの台詞から付けているのだろうし、作中にも「どう読んでも元ネタはシャアです。本当にありがとうございました」みたいな台詞が出てきますが、それが量産型のポンコツ*1であるところのナンブの口から発せられるというのが妙なユーモアを生み出してます。

どこまでも量産型

そもそもこのポンコツロボのナンブですが、本当に素晴らしい性能を誇っています。本人の申告によれば——

「メインウェポンは三五口径アームマシンガン! ジェネレーター出力メインメモリ容量共に並! CPUは三四〇一年に生産中止となった激レアTWBS社製を使用! そして最高跳躍力なんと三メートル! 深緑色のトロイオン銅合金の装甲がキラリと光るっ! 開発コンセプトはずばり低コスト! ガイスト軍主力量産型、UDS-132『アイゼン』でござる!」

・・・これはあれかな、昔の「ぴゅう太」みたいなノリですかな・・・。しかも「ござる」口調。もうこれは見事なまでの完成品って感じですね。
しかしこのナンブ、ポンコツですが熱いタマシイ(?)の持ち主でありまして、彼の台詞はいちいち暑苦しく、泥臭く、スマートじゃない。つまりゴリゴリとカッコいいのです

「このナンブ、外見は地味に見えて実は性能も地味でござるが、気合いと根性だけは何者にも屈せぬと自負しております故!」

堪らないね、こういうの。
・・・まあその、気合いと根性以外は見事に量産型って感じなので普通に見事弱かったりするんですが、ナンブの熱く燃えるタマシイが彼をただの量産型にしておかない、そんな感じでしょうか。本気でポンコツだけど。その辺りは表紙のイラストを見てくれてもすぐ分かる感じです。
・・・しかもロボのくせに妙にスケベだし。

ヒロインの少女・ヘキサ

天才科学者ですが14歳、そしてぺったんこ。
しかも作中で何もかもうまく事が運ばないなんだか不運なんだか馬鹿なんだか利口なんだかよくわからない少女ですが、えーっと、某赤いEVAに乗っていないのがちょっと不思議って感じの負けず嫌いを発揮して、物語を牽引してくれます。

「こんなところで、止まってらんないのよ!」

彼女はシュナイダーの産みの親であり、彼に欠けているパーツの右腕「グロリアス」を届けるために本人自ら戦場に赴いてしまう。まるで母が子に力を与えようとするかのように。
そして偶然ヘキサに助けられ、彼女を守ると決意したナンブがくみ合わさって、この物語は進みます。そして彼女も物語の中での出来事を通じて成長して行きます。
なかなかステキ少女ですねえ・・・。

アンリミテッド鉱石

これが結構話のキーですね。もちろん話にはすっとぼけた軍人コンビとか、敵軍の手強いUDなどが出てきてシュナイダーへとパーツを運ぼうとするヘキサを妨害してくれるのですが、このアンリミテッド鉱石が謎の存在として中心にあります。
無限のエネルギーを生み出し、しかも使う者の決意や意思にすら応えるという、謎の鉱石。
この石がナンブの気合いと根性を支えるのですが・・・さて、ヘキサは無事シュナイダーの元へと「グロリアス」を届ける事が出来るのか? そしてナンブはヘキサを守りきる事が出来るのか? そのオチは是非自分の目で確かめて欲しいですね。

この話は

色んなメッセージが込められているように感じましたね。
ポンコツだけど熱いナンブ、最優だけど自分に芽生えた感情を信じられないシュナイダーの比較。守るものと守られるものの比較。古いものと新しいものの比較。憎しみと愛。死ぬものと生き残るもの。
そうしたものを見て行く中で、「本当に尊いものとは何か?」という事を語りかけてきます。

総合

星4.5って感じですけど、応援の意味も込めて星5つにします。
キャラクター全員が上手く使えていたかというとそうとも言い切れない感じがしますし、キャラクター描写ももう一つ(例えばヘキサね)と思った所が無い訳ではないのですが・・・とにかく主人公(?)のナンブの存在が堪らない。素晴らしい。シビレル、と言っても良いかも知れませんねえ・・・彼の生き様に星全部、って気分です
最後に、ナンブのカッコいい所を引用します。・・・この引用がどうか本書を読んでみる切っ掛けになりますよう。

大丈夫、まだやれる。自分はまだ動く。心は決して折れていない。
そうだとも、自分には誰にも負けない決意がある。量産型? 旧式? それがどうした。そんなことはわかりきったことだ。自分は弱い、どう努力したところで性能には限界がある。
でも、弱いからこそ——培ってきた誰にも負けないものを持っている。
そうだ……そうだそうだとも!
忘れるな。身体は折れても心は折れぬ。それがあの日、大切な者達を失った自分が得た最大の兵器だということを。あの少女を、たった一人で戦っていたヘキサ殿を、ここで守らなければいつ守る! 誰が守る!
罪滅ぼし、そうかもしれない。後悔の念を晴らすため、その通りだ。後ろめたいのは事実。誇れない事も事実。
だがそんなものは!
今目の前で絶望に暮れている少女を見捨てる理由になど、なるはずがない!
「メインウェポンは……三五口径アームマシンガン……ジェネレーター出力メインメモリ容量、共に並……開発コンセプトはずばり、低、コスト」
立ち上がれ! 立ち上がれ!
どんなに惨めだろうと構うものか、元より武器は一つだけだ。
震えるボディもなんのその、ナンブは意思だけを糧にして、
「そして拙者の……最大の武器は」
立ち上がる!
「気合いと……根性ぉおおおおおおおッ!」

うおお・・・ロックだ・・・ロックンロールの魂だ・・・。モニターが涙で曇って見えないぃいいいい・・・。

*1:多分これ以上に主人公のナンブを上手く表現出来る言葉はないのではないかい?