under 異界ノスタルジア

under―異界ノスタルジア (電撃文庫 せ 2-1)
under―異界ノスタルジア (電撃文庫 せ 2-1)瀬那 和章

メディアワークス 2008-02-10
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おすすめ平均 star
star新人作家らしい話
star冒頭の部分に惹かれて

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巡回しているラノベ感想サイトでの評判は芳しくないようですが、個人的には好きな部類だな〜。

ストーリー

3年前に放火事件を起こし、恋人と一緒に失踪した兄から一通の手紙が届いた。

「同封した手紙をとある探偵事務所に届けて欲しい」

今まで一切の音沙汰がなく、身勝手な行動を取り続けた兄に対して怒りを感た少年・霧崎唯人(きりさきゆいと)だったが、失踪した兄を見つけるための手がかりになるかも知れないと思い直し、指定された探偵事務所へと足を運ぶことにした。その先に「異界」と呼ばれる一般には伏せられた怪異そのものが待ち受けているとも知らずに・・・。
人を喰い散らかすコインロッカー。幽霊以上の「何か」の現れる住宅。そしてそれらを操り地上に死をばらまく「異界使い」達の棲まう世界・・・それらと日常の世界が交錯する場所で繰り広げられる死闘の果てにある真実とは一体何か。
シリアスな空気で送る異能バトルライトノベルです。

えーと、

新人賞ですか。銀賞だったかな? ちょっともう忘れちゃってますけどまあいいや。
バランスという意味では上手いこと作ってあるなあという印象がまず最初に来ますかね。例えば「ほうかご百物語」が陽気路線で大賞を取った訳ですが、こちらは真逆な位にシリアスでまとめています。
ちょっとホラーとグロ指数が高いので(大したことは無いんですけどね)、そういう意味では大賞は厳しかったろうなあ・・・とか思いますけど、良くできているんではないでしょうか。私は結構好きです。
あちらこちらにモチーフとなった作品の匂いを感じなくはないんですが、それらを上手く消化して作品内に取り込んでいるという印象を受けました。ストーリーのまとまりも良いんじゃないかと思います。ただそれでも「金賞」の「君のための物語」には勝てなかったとは思いますが、ある意味正統派ライトノベル(シリアス)と呼べるような気がします。

また

キャラクター造形も悪くないですね。
正直な所主人公である霧崎唯人くんにもうちょっと見せ場があれば良かったと思いますが、それを除けば違和感を感じる程気になる所は殆どなかったという感じです。
存在そのものが不自然ながら、何故か作品から浮かない美少女・月士那灯香(つきしなとうか)、交渉やら営業やら荒事までやりつつも重度のジャンキー・秋雨芥太郎(あきさめあくたろう)、口が悪くて不気味な仮面を被っている少女・都狩レム(とがりれむ)、口調も荒く行動も荒くかつ下品な都狩ノイン(とがりのいん)などなど、個性的なキャラクターで彩ってくれます。
まあどこかで見たことあるような・・・という感じはするんですけどね。でもそれぞれのキャラクターを破綻無くまとめあげている印象を持ちました。小説というよりは漫画の影響が強いのかな? まあ私が漫画をほとんど読まない人なのであまり分かりませんでしたが。

それと

シンプルながら上手いこと見せたなあ・・・と思ったのは世界観ですね。
この世とあの世、この世界と「異界」。異界とは何か。そこには何が潜むのか。正直予想を上回るようなものではないんですが、それでも見せ方が上手いのか、その辺りを気にさせませんね。
最初に持ってきたコインロッカーのエピソードがなかなか良かったというのもあります。「そういうもの」っていうのは身近にあればある程リアリティを増すものですしね。それこそ「リング」の呪いのビデオみたいに。
ただそれでも、ホラーというのにはちょっと弱いですね。グロというのにもちょっと弱い。その辺りについてはもっと容赦なく描写して欲しかったかなとかは思いますが、まあ十分じゃないかなとか思います。ホラーは一歩間違うと笑える話になりますし、それはグロについても同じですね。難しい所で上手く舵取りをしたなあとは思います。

総合

星4つ・・・にしてましたが3つに減らしました。えーっと・・・理由は良くわかりませんがなんとなくです。
ただし一冊で完結する作品としてみた場合はだめです。大賞にも金賞にも他の銀賞作品にも勝てません・・・が! 明らかに続きを出すことを前提にしているラストシーンですので、これはこれでアリじゃないかと思いましたね。普通に続きが楽しみな新シリーズの開幕という感じです。
次の話では出来ればもうちょっと人間の「悪意」や「狂気」や・・・あるいは「愛」? に薄ら寒いような怖さを乗っけて欲しい所ですが、その辺りを期待して待ちましょうかね。あと主人公君の成長も期待したい所です。まだまだ先がありそうですからね。
しかし正直残念だったのがイラストです。口絵のカラーはとても良いと思うんですが、本編の白黒イラストが今イチです。せっかく「何でも有り」って感じの「異界」というネタがあるのに、それを殆ど絵に出来ていない所は残念ですね。まあキャラクターの立ち絵を描いたらページが無くなった・・・って感じですが。2巻が出るなら口絵カラーでその辺りの不気味さを強調したヤツを一枚載せて欲しいとか思いました。カラー一枚めの感じからするといけそうじゃないかと思うので、こちらも期待して待ちますかね〜。

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