樹海人魚(2)

樹海人魚 2 (ガガガ文庫 な 1-2)
樹海人魚 2 (ガガガ文庫 な 1-2)羽戸 らみ

小学館 2008-03-19
売り上げランキング : 248815

おすすめ平均 star
starまさかの続編

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

人魚と呼ばれる怪物がいる。
人魚は不死。決して滅びず、一定期間をおいて月型郡に現れる奇怪な生命体。
主人公の森実ミツオ(もりざねみつお:通称ザネ)は、その人魚達と戦う「指揮者」と呼ばれる特別な存在の一人だった。指揮者達は「歌い手」と呼ばれる人間寄りに調律された人魚を使役して、敵対する人魚と戦う任務を負っていた。
そのザネの持つ秘密が一つ明らかになった1巻に続いてこの2巻では、あらたな敵が月型郡に現れる。<彷徨市>と呼ばれる奇怪な能力を持った二人の人魚。彼らに翻弄される対人魚機関「Do-or(ドア)」。彼らは彷徨市を撃退する事ができるのか。
奇怪な物語……というか奇怪な作家が描き出すファンタジー作品の第二弾です。

多少の分かりやすさは出ましたが

相変わらず中村九朗は中村九朗です。
なんと言うんでしょうが・・・飛び越えてはいけない所をあっさりと飛び越えてしまうという印象がつきまといますね。そこはアッサリ流していい所とちゃうがな! と思った事が読んでいて何度かありました。

ミツオは死んだ。
どれくらい死んでいただろうか。
ミツオがぽっくりと死んでいると、だんだんと空が明るくなって来た。

いや、死んでもいいんですけどね。なんですかねこの描写。コメディ・・・ではないんですけどね。なんと言えばいいんでしょうかこの「間」は。
ドラムが8.2ビート、ベースが8.4ビートでリズムラインを作っているような異様な空気。観客総立ちでも誰も踊れねえというような感じの文章です。本当に変な作家ですねえ・・・でも不思議と中毒性があるんですよね。

まあ中村九郎の異常性については

今までも度々語っているのでこの辺にして、ストーリーの方にいきましょうかね。
大筋としては人間達(?)と人間を襲う人魚との戦闘ものですね。
話の中に出てくる概念には「歌い手」「指揮者」「楽団」と言った言葉が出てきますが、そのまま読んでいると脳みそがフニャフニャになってきますので、「歌い手」=「戦闘マシーン」、「指揮者」=「操縦者」、「楽団」=「小隊」とかって感じでイメージすると入り込みやすいですかね。
まあそれでもさらに理解しがたい「赤い糸」とかの概念が出てきたりしますが・・・まあここまで来れば気合いで乗り切れます。け・・・ど・・・。

「わけわかんないの。霙のやつ、大泣きして、でも、笑うんだよ」
「はぁ?」
「哀れとかじゃなくてさぁ。霙は、嬉しかった、って言うんだ」
「ザネが霙の事を覚えていないことが、嬉しいのか?」
「なんでも、横断歩道を渡るのを手伝ってくれたらしい。自分のこと覚えてないのに、ザネは何度でも手を引いてくれる、って。笑って、泣いて、また笑ったけど、結局は泣くんだ」

うーむ、なんですかねこれ。

基本は

森実ミツオ真奈川霙雪下奈々の3人を中心に語られます。
そしてまあ上記の引用の通りに霙はミツオを憎からず思っていて、それはどうやら奈々の方も同じようです。結果としてこの3人、なんとも変な三角関係でもあります。
で、当事者同士の正面衝突なんかもありまして。

「やめて」
「やめないであります。バービーがお得意のポーカーフェイスの下に隠している理由が、自分には推測できる、でありますからね」
「やめて」
「感情、であります」
奈々は小さく舌打ちし、視線を逸らした。

・・・まあ霙(変な喋り方)、奈々(バービー)がそろっているとこんな感じですが、別々に出てくるとと中々に素直で捻くれてて(どっちなんだ)、可愛らしい少女たちです。

まずは、奈々

彼女は雪むすめの話を持ち出します。

「奈々は確か、溶けるくらいなら人間には近寄らない派だ、って言ってた」
「他人に期待したって、後悔するだけだもの」
奈々はそう言って、いつもの奈々様の顔をする。
「だけど、もし、あたしが人恋しくなったとしたら、相手に体温を下げてもらうわ」

とかなんとか。
でもですね、その後では・・・。

「溶けてしまってもいいと思う温もりとか、あるみたい……」
「そんなのない」
「あるよ。この胸の内で、ずっと、消えることなく灯り続けている。あたしには消すこともできるよ。でもこのままでいい。どうせいつか溶けるなら、この熱で溶けて消えたい」

激しく情熱的だったりする氷の少女です。

で、霙ですが

彼女は奈々のライバルというポジションにいながら、奈々に近い存在でもあるようです。

「自分には少し、わかるでありますよ。独りでいて、平気な顔をしていても、ある時誰かが声をかけてくれた時に、気づくであります」
「何?」
「独りでいたいわけでは、ないのだと……」
霙はひとつ洟を啜った。
「声をかけてくれた相手のことが、好きでもなんでもない人だとしても、好きになるでありますよ。ありがたくて、涙さえ、零れるかもしれないであります」

間違ってもケロロ軍曹をイメージしてはいけません。本当にダメですよ!
冗談はともかく、彼女も実に情熱的です。

「必ず、あとで迎えに行くから」
「たとえ死に別れようと、生まれ変わって、でありますか?」
霙は頬を赤らめる。

ツンデレ奈々 vs ストレート霙、でしょうかね。どちらも変で、そして魅力的です。

総合

星、4つ!
中村九郎作品ではひょっとして初めて評価不能にならなかった作品か? どうだったっけな・・・まあそんなことはどうでもいいと言えばいいんですけど。
前半こそ独特な世界観がオーバードライブ気味で私という読者が乗り損ねた感じがありますが、後半になると中村九郎時空に慣れた関係でするすると読み進めることができました。それでも十分に変な本なんですけどね・・・。
願わくは3巻はもうちょっと早いタイミングで出して欲しいです。じゃないと読み慣れるのに時間がかかるので・・・。

感想リンク