疾走する思春期のパラベラム(4)心的爆撃

疾走する思春期のパラベラム 心的爆撃 (ファミ通文庫)

疾走する思春期のパラベラム 心的爆撃 (ファミ通文庫)

ストーリー

佐々木一兎(ささきいっと)は城戸高校の映画部に所属する高校生でありながら、同時に<パラベラム>と呼ばれる精神の力を銃器の姿に物質化し、戦闘能力とすることが出来る能力者でもある。そして彼の所属する城戸高校映画部の部員は全員パラベラムであり、一兎の大切な仲間でもあった。
彼ら城戸高校映画部は、彼らに敵対する姿で現れた<灰色領域>と呼ばれるやはり同じパラベラム集団と幾度かの戦闘を経ながらもなんとか学生生活を続け、そして夏にはちゃんと一本の映画を作り上げ、今回ついに文化祭でそれを上映するチャンスを得たのだった。
しかし、彼らを取り巻く状況はそれほど甘くなかった。攻勢を強める<灰色領域>、怪しい動きを続ける<乾燥者>。そして今回敵勢力は城戸高校映画部に所属する一人・伊集院睦美を狙ってくる。彼女を狙ってきたのはかつての恋人・那須一子だった。

この作者の作品は

なんかエロかったりグロかったりするんですが、それでもそれを超えた所で「楽しい」と思える者があるんですよね。
物語の先の読めなさ*1もその「楽しさ」の理由の一つとしてありますが、それ以上に感じるのは一人一人のキャラクター造形の上手さと、描写の割り振りの巧みさ、でしょうか。
佐々木一兎は主人公でありながらこの話では(他の話でも?)大活躍しませんが、それでも存在感を失いませんし、他の城戸高校の面々も一人一人に割り振られた文字数は多くないのに特徴をきっちりと書ききっているという印象を受けます。

今回は

城戸高校映画部随一の美人で、ミステリアスなところのある伊集院睦美がクローズアップされます。
彼女の過去と、現在。今のような姿にどうして彼女がなっているのか、昔の恋人との間にどんな事があったのか、どうやって彼女がパラベラムになったのか、そう言った辺りが丁寧に書かれます。

睦美は昔の睦美とは違う。違うが、もちろんあまり変わっていないところもある。一番変わっていないのは、周囲の人間を馬鹿にしがちな点だ。睦美は何か一芸に秀でた人間が好きで、そうでない人間を甘く見る。世間の常識や一般的な権威に縛られやすい人間を軽蔑する。今の睦美にはそれがあまりよくない感情だという自覚があるが、恐らく生まれつきの性格なので修正するのは難しい。

しかし同時に現在の彼女は映画部の面々を大切に思っている事が書かれ、同時に映画部員全員も彼女を気にかけているところが描かれるのがいいです。睦美はその天才性によって孤高の人と自分では思っているのかもしれませんが、彼女は自分で思っている以上に大切にされています。

「普段しっかりしている人の様子がおかしいから、余計心配なんだよ……」

「……睦美さん、何かあったら、みんなを頼ってくださいね」

彼女は一人ではありません。

そうはいいつつも

物語が進んでいるのは事実でして、今回敵組織の<灰色領域>にかなり大きな動きが出ます。
それを行ったのは<乾燥者>集団ですが・・・。<乾燥者>達は人類に対して敵対する存在であるので、同じ人類である<灰色領域>に対しても牙を剥きます。その結果行われる<心的爆撃>。そしてその爆撃は城戸高校映画部すらも襲います。彼らがこの爆撃を生き残る事が出来るか? が今回の話の中心です。
あと、一兎と関連の深い少女・四神美玖にも今回一つの動きが生まれます。一兎の運命も過酷なものだと言えるでしょう。

総合

星4つ。安心して読んでいられる感じがしますね。
上記の感想の書き方だと暗そうな印象ですが、今回も相変わらず長谷川志甫がぶっとばしているので意外と空気は明るいですね。

「……この流れならいける! と思ったのにー。一兎は確かな記憶力の持ち主だ」
「そんなんでごまかされたらバカと通り越してちょっとかわいそうな子だろ! まったく……」
「……あ、あたしはよく友達に同じ手を使われてた……だから上手くいくかと」
「かわいそうな子は目の前にいたんだな……」

友達に程よく騙されるおバカで可哀想な子。その名は長谷川志甫です。

フゥッハー
フゥッハー


(ラップ)新宿歌舞伎町のSMクラブでナンバーワンの女王様、新サービス・ドリル浣腸を考案。傷害事件となって、警察沙汰に。刑事の質問に対して女王様は「悪気はなかった」とコメント。

志甫は変な歌まで作詞作曲。でも確かにこの曲に出てくる女王様に悪気はなさそうだー。でも凄く痛そうで読んだだけでケツの穴に緊張が走ったわー*2
でも志甫は真面目なシーンだと空気の読める良い子で、その他の普段のシーンでは空気抜き担当の大切なキャラクターだったりする大事な存在です。志甫はこの話に欠かせないムードメーカーですね。
しかしうなじ氏のイラストはいいなあ・・・なんとも言えない色気があるというか、それでいて清潔感もあるというか・・・好きですねえ・・・。

感想リンク

*1:まあ私に限った話なのかもしれませんが。

*2:微妙に棒読み。