サイレント・ラヴァーズ(4)真実を君に

ストーリー

大規模都市カイオンの中心都市・セキレイの攻略に成功した七都市連合軍。
その結果をもってして彼らの中では戦争終結のムードが漂い始めていた。しかし、和平交渉は難航しそうな実情も同時に存在していた。戦後に発生する賠償問題はカイオンに対して一方的に多くの犠牲を強いるものとなる気配が軍上層部で強くなっており、それが新たな戦争の火種となる可能性があったからだ。
それと同時に、カイオンと七都市連合の和平交渉を妨害する動きがカイオン軍側の一部に見られ、アンタレス含むクロスナイフ小隊はその妨害工作を阻止するべく、動く事になった。これが最後の作戦になればいい・・・と自らに言い聞かせながら。
また、人間のセツナの魂を宿したアンタレスは驚愕の事実を知る事になる。彼の婚約者であるヒバナを「セツナ」と名乗る男が訪れるというのだ・・・! セツナは自分だ! しかし、もう一人のセツナは確かに現れた・・・。その事実を前に動揺するアンタレス。彼の苦悩の果てにあるものとは一体何か。
過酷な運命の元で戦い続ける恋人達と、その行く末を描いたシリーズの最終巻です。

うーん

全体で見た時にやはりこのシリーズ自体は好きでしたね。
1巻を読んだ時にはさっさと退場しそうだなあ・・・と思った小隊長のアラシが最終的に非常に人間臭くて良いキャラクターになってくれたなあという感じでしょうか。
ただ、個人的にはもうちょっと小隊の他のメンバーの特徴が前面に押し出されていれば良かったなあとも思います。特にフブキ、ケンザン、イサリの3名がそうですね。もうちょっと掘り下げが欲しかったというか、特徴を出して欲しかったですね。イマイチ印象に残りませんでした。

・・・その上で

今回の話ですが・・・うーん、作者の人は今回の話の大筋を最初から決めていたのかな?
もう一人のセツナが現れるという展開ですが、これが、なんとも、微妙だなあ・・・という感じがあります。別に悪いとか言うつもりは無いのですが、ここまで貫かれていた「アンタレス」=「セツナ」の図式を「アンタレス」≒「セツナ」に変更するのは、なんだか物足りないという感じがしてしまいました。
まあこれによって物語の出来が悪くなったとは言わないのですが、私好みの展開ではなくなったという所でしょうか。正直に言うと、

  • 「アンタレスに救いが無さ過ぎる」

という所です。もちろん物語的に彼が救済されないという事を指す訳ではないのですが*1、彼に与えられた救済は「私の想像を超えなかった」というところでしょうか・・・。

『ありがとう、私を守ってくれて……。私、あなたに恩返しらしいことができないまま別れてしまうのではないかと思うと、それだけが気がかりです……』
『おれは君から、大切なものをもらったよ』
『えっ?』
『今、もらった』

(そうだ。おれは、他の誰かのためだけにこいつと戦っているんじゃない。おれ自身のためにも戦っているんだ。強く生きる自分を証明するために、おれはこいつと戦っているんだ。逃げるものか。退くものか。お前はおれの前に現れた大きな障害だ。だが迂回はしない。正面から立ち向かう。生きることは戦うことだ。理不尽と戦って道を切り開いてゆくことなんだ!)

引用した箇所は両方ともとても良いと思ったシーンですが、これだけだとなんだか弱いんだなあ・・・。
作者の人があとがきで書いている通り、確かにアンタレスは英雄たる資格を持っていと思いますが、私個人としてはアンタレスに英雄になんてなって欲しくなかったという感じでしょうか。
達観して英雄に近づけば近づく程・・・ヒトは人間味を失います。それは皮肉にも彼の前に立ちふさがった最後の敵の姿に重なるのです・・・。
ですので、ここをさらにもう一歩踏み出して、なんらかの飛躍を果たしてくれればもっと良かったなあと思います。贅沢な話ですけどね。

総合

うーむ・・・星3つ。
シリアスな思索を展開している時にはとても良いと思えるシーンが沢山あるんですが、絶望から一歩飛び出した大きな希望を描くのにはちょっと足りてないかなあという感じでしたね。個人的にはアンタレスの未来に分厚い雲が多いかぶさっているように想像てしまいました。読了感は決して悪くないのですが、それでもそんな想像をしてしまいます。
なんと言うか・・・「一瞬のうちに閃光のように心に差し込む悟りはとても力強いものですが、それはどれだけの時間、彼を支えてくれるのでしょうか?」という疑問が頭の中にムクムクと沸き上がってしまったという感じでしょうか。
でも楽しませてもらったシリーズですね。次の作品にも期待したいです。お疲れさまでした。

感想リンク

*1:なんとも煮え切らない言い回しですが。