θ 11番ホームの妖精

θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

明日書くとか言いつつも、ついカッとなって書いた。反省なんてしない
つーかアマゾンよ〜、書影をさっさとつけんかいコラ!? 俺の滾るパトスはそんな「?」マークでは納得させられんぞ!

ストーリー

東京上空2200メートルに浮かぶ駅。
その「最新鋭のまま寂れている駅」には一人の駅員と駅員の護衛(ペット?)と、優秀なAIがいました。
少女姿の駅員の名前はT.B。護衛の名前は狼の姿をした義経。AIの名前はアリス。彼らは3組で昨日も、今日も、きっと明日も変わらずにC.D.——「高密度次元圧縮交通」の駅の一つである「東京駅11番ホーム」を管理しています。
空中にぽつんと存在する東京駅11番ホームに訪れる列車は数少ないのですが、「訳ありの3組」の居るこの駅にはいつもトラブルが舞い込みます。世界をひっくり返してしまいそうなトラブルが。
この話は、科学技術とロマンと・・・あと優しさをエネルギーに想像の翼をはためかせ、大空に飛び立った先にある物語。

おいおいおいおいおいお

い!
もっと早く読んでおけば良かったよオイ! 面白え。とっても面白え。
久しぶりに正統派(?)でほんわかと面白くてしかもグッと来るようなSFに出くわしたって感じで興奮が止まりません。いや〜こういう出会いがあるからラノベ読むのが止められないんだよな〜という一冊です。

上の

ストーリーにもちょっと触れたけれども、交通/運搬手段としてC.D.(high Compress Dimension transport)という技術が世界を覆った結果物理的な距離が縮まっている世界が舞台となっている物語です。
それに加えてコンピューターネットワークの進歩によってありとあらゆる所に人は繋がる事が出来るようになってもいる。しかし、民族や国家間の衝突は未だ残っていて・・・ってなんか書いていたら攻殻機動隊の前文みたいな感じになってきちゃったな。
でも実際にそういう世界観をベースにして物語は綴られます。
しかし、決定的に違うのは、この話が地上2200メートルに浮いている「東京駅11番ホーム」を一歩も物理的に出ない所です。スラムも出なければサイバーパンクと言えそうな空気も無いです。イメージとしてあるのは突き抜けるような青空と透き通った風ですかね。
しかし「東京駅11番ホーム」は本当に訳ありな場所でして、色々な方面から「厄介者」「消したい過去」「汚点」「明らかに出来ない機密」という扱いになっています。
その結果、じゃあ「厄介者」の所へ「厄介祓いしてしまえ」とばかりに列車と一緒にかな〜り困ったものがやって来たりするので、「東京駅11番ホーム」は結構普段から大ピンチだったりします。

しかし

そこを少女駅員のT.Bと義経が頑張って頑張って・・・時には悪口を言い合い、時には労りあい、時には厳しく、時には優しく、駅の平和を守るのです。少女は約束のために。狼の義経は・・・まあ、言わぬが華でしょうかね。
ちょっと二人の会話を抜粋してみます。

「うふ、私専用の騎士様です」
「うるせぇ。馬鹿で自己中なお姫様は手がかかってしょうがねぇぜ」
言っていることは勇ましいのですが、自慢のふさふさ尻尾が縮こまって小刻みに震えています。
義経
「……なんだよ」
「愛していますよ」
「……死ね。お前なんか煎餅みたいに潰れて死んじまえ」

他にもありますよ〜?

「馬鹿が。そんな脅しで俺が怯むと思うか、なめんな」
「じっとしていなかったら、怒りますよ」
「知るか、怒ったらどうするってんだ」
私は手持ちで最高の微笑みを顔に作りました。


「嫌いになります」


「………………」
義経は電池の切れた玩具のように固まりました。
「じゃ、行ってきますね」
「…………ぉ……おぃっ! ちっ、ちょっ、ちょっとまっっ! おま、お前! 待てっ、待てっておい! 聞けよ! 待てって! おぉぉぉぉおおい! Tぃぃぃぃ・Bぃぃぃぃぃ!」

不思議な連帯感と言うか、不思議な距離感と言うか・・・いや、人間(?)と狼ですけどね。この二人のやりとりはとっても気持がいいので是非読んでみて下さい。他にも印象的なセリフを幾つか。

「シータ……か。どういう意味なんだい?」
「『θ』という記号は、円の中に一本線を引くでしょう? 人は誰でも、いつも自分では抗えない世界の流れに翻弄されていると思うんです。世界の回転はとっても速いから。きっと、そういうものを追いかけたら人は壊れちゃうんです。だから、θ。どんなに世界がくるくると回っても惑わされず、その真ん中でじっと自分を保つことが大切だと思うんです。自分というものを一本の線にして、まっすぐ曲げない。あなたも強くあれますように、そういうおまじないです」

・・・他にもありますけど、まあ明日にでも追記しますかね・・・本当は今日書く予定じゃなかった感想だしなコレ・・・。ふふ、これが溜まっちゃって出さないと眠れなくなるって状態ですか?(なんかちょっと違います)。

という訳で追記

「私はたくさんの人と出会って、たくさんの人と言葉を、心を交わしました。その一つ一つも私の鎖。鉄道職員であることも、このホームの駅員であることも、私を縛ります。でもね、縛られるって、諸々の重さを感じることって、裏を返せば、それだけ自分が必要とされているってことなんです」

「『責任』はね、必ず『誇り』を連れてきてくれます」

「人はね、愛して、愛されて。そういうのって、キャッチボールなんですよ。あなたがちゃんと『愛してる』って投げ返してあげないと、どんなに愛していても、相手はあなたのそばにいるのが不安になってしまうのです」

・・・どの言葉もちょっと良いでしょう?

総合

星5つ。断然★★★★★。
現代社会から繋がっているような未来世界の世界情勢や科学技術、国と国との間にある思惑、それぞれの人の立場なども小さな駅に持ち込んで物語は時にアクションで、時に知的に、時にユーモラスに、時に温かく紡がれます。
うーん、作風が全然違うのになんとなく「時載りリンネ!」を思い出しましたねえ・・・。なんだろうか? 作品の根っこの方にある優しげな雰囲気が似通っているのかも知れないですね。
あとそれから、コンピューターとかについて一定以上詳しかったりするとなんとなく「ニヤリ」と出来る瞬間があったりして、その辺りも微妙にマニア心をくすぐる作品です。
もし購入を迷ったら、本屋さんの店頭でこの本の口絵カラーイラストだけでも覗いてみるといいんじゃないかな。T.Bと義経が元気な姿でそこにいますので・・・。

「東京駅11番ホームは、いつでもあなたのお帰りをお待ちしております」

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