マージナル(3)

マージナル 3 (ガガガ文庫 (ガか1-3))
マージナル 3 (ガガガ文庫 (ガか1-3))kyo

小学館 2008-04-19
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ストーリー

人間と獣を分つ倫理の境界線上に立つもの・マージナル。
主人公である摩弥京也(まやきょうや)はそのマージナルの一人であり、快楽殺人の指向を持ちながらもその一歩を踏み出さずに人としての暮らしを続けていた。ある意味において彼は「異常犯罪者予備軍」とも呼べる存在でもある。しかし、同時にその誘惑と戦い続ける人間でもあった。
そんな彼の前に一人の逸脱者が現れる。そして二人は惹きあうように、あるいは憎みあうようにして戦いを始める。京也は自己の持つ異常な幻想に埋没すまいと内面と戦い、逸脱者は自己の持つ異常な幻想に埋没し続けるべく内面と戦い、そして同時にお互いを滅ぼそうと戦う・・・。
内側にも外側にも敵を持ちながら現実での戦いは続き、お互いがお互いを追いつめ始める。時に、何も知らない人を巻き込みながら。
異常者を描きながらも妙に人間くささが感じられる危険なシリーズの3巻です。

ガガガ文庫では

このシリーズは結構注目している作品ですね。
異常な精神の持つ魅力・・・とでも言うべきものがあると同時に、それに必死に抵抗する主人公の姿が嫌いになれません。京也はヒロインである南雲御笠(なぐもみかさ)に抗いがたい魅力を感じると同時に、彼女を殺したくなるという複雑な状況にいます。
また、前作で起こった京也の異変が一体何を理由にしているのか、その辺りがこの3巻で丁寧に書かれて行きます。雁字搦めになっている京也の姿は痛々しいですね。

そして

彼をそんな風に変貌させてしまった理由ですが・・・それは封印したはずの過去が追いかけてきたためです。
その過去とは、彼の昔を知っている一人の少女・宇佐見風香の姿で現れるのですが・・・。2巻ではなんとなく作品から浮いた印象を持っていた風香ですが、この3巻では非常に重要な役回りを持ってきますので、要注目で読み進めて欲しいですね。
もちろん、御笠も重要な役回りを持っている事は変わりませんし、京也の妹であるも注目株ですね。

この話は

上でも書いていますが、マージナル(境界人間)とオーバーライン(一線を踏み越えた者)の戦いの物語でもあると同時に、真なる敵——自分の中に潜む唾棄すべき衝動——との戦いの物語でもあります。
一点の穢れなき美しいものを汚したい、壊したい。足跡のない一面の雪に自分の足で第一歩を踏み出し、そして滅茶苦茶になるまで踏み荒らしたいという衝動との戦いです。多かれ少なかれ、そんな衝動は誰にでもあるものだと思います。
なんと言いますか・・・主人公の京也はいわゆる異常者でありながら、敬虔な宗教者のようでもあります。自身が「赦された」と思える日まで決して屈しない、という指向を持っている所が個人的にお気に入りなんですね。その無謀とも言える反骨は・・・なんだかちょっとロックンロールです。

総合

星4つ。
前作はちょっと準備という感じで微妙に緊張感に欠ける感じがありましたが、京也の心の動きを追い始めると途端に緊張感がうなぎ上りになりますね。ある意味において常に戦い続けている少年ですから・・・。
それに、今作では物語全体でもそれなりに大きいとも言える動きもありますし、今後の話の展開にも注目したいです。うん、4巻が早く出て欲しいですね。
2巻から3巻にかけて昆虫標本の話がこの物語では出てきますが、その辺りの下りが気に入りましたね。物語を貪る私のような読者の中にも間違いなく「虫の死に行く様」を楽しむ精神があるのでしょう。
物語の作り手が虫に針を刺す事を楽しみ、読者はその様を傍目で見て楽しむ。あるいは作り手が虫を交配させて楽しみ、読者はその様をやはり傍目で見て楽しむ・・・。なんとも皮肉に満ちていますが「人間そんなもんでしょう」という結論に達した所でこの感想を締めたいと思います。

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