SAS スペシャル・アナスタシア・サービス(3)

SAS3 (HJ文庫)

SAS3 (HJ文庫)

ストーリー

山階立夏(やましなりっか)と双子の妹・紗友(さゆ)が遠くバルト海傍の小国・リヴォニアの王位継承権を持っているという状況の元、3人の少女・アナスタシア、フランツィスカ、エーファが護衛として二人の側に現れてから早半年が過ぎ去った。
そんな状況の中、父から持ち込まれた南の島でのバカンス。しかしそのバカンスには「礼服付きで」行く事になるという・・・。ただのバカンスではなく、やはり王位継承に関する何らかの政治的意図を持った旅行となりそうだという予感を持ちながら旅立つ立夏。しかし南の島の青い空と白い砂浜は少しだけ若者達を開放的な気分にさせて、微妙な距離が一気に縮まっていく。
政治闘争と、恋愛物語、そしてアクション。それらがいい塩梅でブレンドされたシリーズ3巻です。

前半から中盤は

「沈まないタイタニック」とでもいう感じでストレートな恋愛ものとして楽しむ事が出来ますね。
この作者の魅力は落ち着いた語り口で綴られる心情描写ですね。優しくて、大人しくて、誠実で・・・そこが読んでいて非常に心地よいのです。
主人公の山階立夏はある意味「ハーレムど真ん中」という状況に置かれている訳ですが、そんな中にあっても真面目な性格を全開にしていて、浮ついた所がないのが魅力的です。
南の島、若い体、弾ける水着・・・があちこちに溢れているという展開な訳ですが、単純に鼻の下を伸ばしているような少年ではない所がとても良いですね。

特に今回は

妹(厳密には従姉妹)の紗友からのアプローチは結構過激なものがあるのですが、それに戸惑う姿も悪くないです。
・・・いえ、単に過激なアプローチがあるというよりは、今までも立夏と紗友は同じ様に過ごしてきているはずで、そしてこれからも徐々にそうして過ごしていって徐々に深まるはずだった物語が「王位継承権争い」という横やりのために、一気に答えを求められる状況になってしまったというだけの事なのでしょう。

紗友のことは可愛いと思う。心の底から可愛いと思う。ものごころついてからずっと、そう思ってきた。
紗友はいわば立夏の分身で、自分のことを大切にするのと同じ感覚で、紗友のことも大事に考えていた。いつも一緒にいて、同じ時間を過ごして、記憶の大半は紗友と二人で築いたものだ。

しかしそこにアナスタシアが入ってくると、彼の思考は千々に乱れます。

アナスタシアのことが好きだ。紗友のことを愛している。多分、そのことは真実で、真実なんだけれど、その好きとか愛とかいうのはどういう種類のものなんだろうか。そのことがわからなかった。

真面目だなあ・・・。

立夏と同じ様に

紗友とアナスタシアも似たような悩みを抱えています。

立夏の腕につかまったり、じゃれるようにして背中にもたれかかったり、後ろからしがみついてみたり、そうして近づいたところで、ゼロ距離はゼロ距離のまま——。
それ以上接することも離れることもできなくて、兄妹だから、きっとその関係に縛られて動けないでいる。

距離を縮めたい、でももう兄妹としての距離はゼロ距離。そんな関係で縛られた鎖を千切るために紗友は行動します。
それは恋する娘としては決して不自然ではなくて、そこには確かに絶対的な愛情と信頼とがあって・・・少しも背徳的な匂いがしない純情、とでも言うべきものでしょうか。
アナスタシアはアナスタシアで、立夏との関係を悩んでいます。

「待って、待って、立夏——。私も……立夏のことを考えると、それが頭のなかを回って、ずっと離れないんです。どうしていいかわからないくらいに。こんな気持になったのは初めてで……」

恋と愛、どちらも嘘ではないけれど、どちらかを選ばなければならないとしたら・・・立夏はどうするのでしょうか。
個人的には立夏という少年の若くても可能な限り誠実な行動をみていると「両方モノにしちまえ」とか思っちゃったりするんですけど、それはきっと私が汚れた大人だからでしょうねえ・・・。

物語は

そうした立夏たちの恋模様に政治を上乗せして語られることになります。
裏のある今回の旅、仕組まれた護衛の少女達、そして王家の行く末を案じる想い・・・色々な計算と思惑の上に立夏たちは立たされます。
しかも王位継承の敵であるグレゴール立夏達の間に亀裂を入れようとして行動を開始しました。狙われたのは紗友その人です。暴力のカードで交渉のテーブルに立ち、そして紗友の心に棘を打ち込みます。この「抜けない棘」が今後物語にどういう影響を及ぼすのか・・・変に心配ですね。

総合

星4。面白。
立夏という若者がとても気に入っています。優柔不断とも言えますが(女性読者はきっとムカつくんでは?)、男の視点から見ると結構いいヤツです。というかこの話のメインキャラには「悪い人」が出てきませんね。
もちろん紗友とアナスタシアは微妙な関係だったりする訳ですが、それでも二人とも「立夏を幸せにしたい」「立夏の手助けをしたい」という想いがあるのが良いです。うんうん、いい子達だ・・・。
ところで今回はフランツィスカの立場がグンと紗友寄りになりましたね。立夏に恋するアナスタシア、紗友に友情を感じるフランツィスカ、という構造になっていきますが、じゃ、エーファは? という感じですか。さー、どうなるんでしょうかね。幸せな未来がまっているといいんですが・・・立夏が二人いれば良いのにねえ・・・。
まったくモー助氏のイラストはやっぱり気になるなあ・・・落ち着いた文体で語られる作品なので、絵柄が妙に合わないんですよね。カラーイラストはまあ十分だと思いますが、本編の白黒イラストがどうも印象が悪くてねえ・・・。

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