死図眼のイタカ
死図眼のイタカ (一迅社文庫 す 1-1) | |
杉井 光 一迅社 2008-05-20 売り上げランキング : 14657 おすすめ平均 どうなるのか・・・ もったいない・・・・orz 警報:絵柄に反して欝展開です。 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ストーリー
朽葉嶺の家は、古ぶるしい占術を扱う家系で、遥か昔より代々土地の権力者と深く結びついて一つの街・伊々田市を支配していた。
そして今、朽葉嶺の家には4人の年頃の娘が居る。美登里、亜希、奈緒、千紗都。歴史ある旧家に生まれついた事もあって色々なしきたりに通じていたりはするが、普通の少女達。
そして朽葉嶺の家には一人だけ少年がいた。名を朽葉嶺マヒルという。朽葉嶺家の時期当主の婿として他家から迎えられ、幼い頃から朽葉嶺の家で暮らしてきた少年だ。古ぶるしい儀式を母——実際には義母であるが——を手伝いながら、運命とも言える自分の行く末を奇妙な諦観とともに受け入れていた。
そんな朽葉嶺家では次期当主を4人の娘から選び出す儀式である「継嗣会(ひさねえ)」の日にちが迫りつつあった。奇しくも同時期に街では謎の猟奇殺人が起きていた。
そしてさらにそれらの出来事と平行するようにしてマヒルの前に現れた一人の少女・・・その名を「イタカ」と言った。スケッチブックを抱え、マヒルにしかその姿を見る事が出来ず、奇怪な行動を取り続け、さらには朽葉嶺の家を嗅ぎ回っている匂いがする少女。マヒルはイタカとの出会いを元に、血塗られた事件の渦中へと身を投じる事となる・・・。
「神様のメモ帳」や「さよならピアノソナタ」などの作品で有名な杉井光の新シリーズです。
おお〜
なかなか好きな雰囲気ですね。
旧家の中に残っている閉鎖的なしきたりやら伝統やらの向こう側に仄見える得体の知れない畏れを感じさせる匂いがとても良いです。もちろん、歳若い少女が幾人も出てくる事によってその古い社のような匂いは序盤では随分と薄らいでいますが、話が進んでいくうちにその匂いは赤い色を付加されて濃く匂い出します。
ホラーでは無いですが、単なるミステリでもないし、異能ものとシンプルに括ってしまったらもったいないとでも言いますかね。この雰囲気はスティーブン・キングの「IT」を読んだ時にも感じましたし、あるいはクトルゥー神話の各作品を読んだ時にも感じる「アレ」ですね。
キャラクターの造形については
流石は楽しい作品を数々世に送り出している杉井光というべきでしょうか。読ませます。
目立って過激な行動を取るキャラクターはそう多くはないのに、それでもそれぞれのキャラクターの印象を小さな小技を積み重ねてちゃんと輪郭を整える事に成功していると言えば・・・なんとなく会っているかな?
4姉妹は似ているところが多いので、それなりに似通った印象を持ってはいますが、それでもキャラクターが立っていますね。悪くないです。
もちろん
主人公のマヒルについても同じ事が言えますし、イタカについても同じ事が言えます。
それぞれは話の中で重要な役を背負って存在している訳ですが、一つ一つの行動をとってみると今時の他のライトノベル作品と比較した場合にそれほど特徴的とは思えません。しかし、ちょこちょこと挟まれる出来事が作品全体で見た時に柔らかい、あるいは硬い印象として読了後にフワッと浮かび上がってくる感じがしますね。
大好きではないかも知れない。でも嫌いなキャラクターかと聞かれたら、そうではないと答えられる。いや「総合的に見たら好き」と答えられる、そんな感じ。断片で見たら嫌な奴かも知れないけれど、全身をゆっくり落ち着いてみると好きである事に気がつくという・・・なんとも上手い事やってくれていると思います。
総合
期待大の星4つ。もう一押しで5つ星にしそうな感じです。
マヒルの抱える名も無き秘密、イタカの抱える苦しみ、朽葉嶺の家の持つ暗部とその血塗られた匂い。どれも面白く、おどろおどろしく、そしておぞましくて・・・それらが渾然一体となって先を予想させない展開を孕んでいます。
とりあえず本屋でこの本を見かけたら表紙をしっかりと眺めた後、本をめくってみましょう。カラーイラストの一枚目に予想を裏切る一枚が待っています。それだけで読む気がグッと出るのではないでしょうか。表紙に描かれたのはイタカですが、カラーイラストの一枚目には「藤咲」と名前の書かれた微笑む少女が描かれています。イタカと同じ姿で。
どうでしょう? 読む気が俄然湧いてきませんか?