<本の姫>は謳う(3)

“本の姫”は謳う〈3〉 (C・NOVELSファンタジア)

“本の姫”は謳う〈3〉 (C・NOVELSファンタジア)

ストーリー

力のある「文字(スペル)」を求めて旅する少年・アンガス・ケネスの旅は続く。
しかし彼の人生は、かつてこの大地で生きた一人の天使・アザゼルの人生と奇妙な一致を見せつつあった。それは決して幸せとは言えない符号・・・。
また、彼を命の危険に曝し続けることに<本の姫>が難色を示しつつあり、彼の目に宿った「文字」を回収して旅を終わらせようと考えたのだが・・・アンガスはそれを拒否する。
世界に「文字」がばらまかれた理由とは一体何か。アンガスの旅はまだ続いていく・・・その旅の先にあるのは一体何か。そしてもう一人の主人公であるアザゼルの人生の先にあるのは一体何か・・・二人の主人公の人生が共鳴し合うようにして物語を盛り上げていく。
<本の姫>シリーズの3巻。キャラクターたちの奥行きがどんどんと深くなり、世界の謎もどんどんと深くなる、本格ファンタジーノベルの最新刊です。

文句なしに

「面白い」と言ってしまえますね。というか最近ではトップクラスに安心して読める楽しさを提供してくれていると思います。
なんというんですかね・・・海外のファンタジー作品に近い匂いがするというか・・・ディヴィッド・エディングスとかの書いた「ベルガリアード物語」のような印象を受けますね。いや、話はもちろん全然違いますが、いつまでも読み続けていたいというか。
この話は次の4巻でちゃんと決着が付くらしいですが、次の作品は全10巻位でお願いできないですかねぇ。もちろんこのシリーズの続編でも楽しそうですし(構成に無駄がないので無理っぽいですけど)、新シリーズでも楽しんで読めそうです。
なんでしょうね、この読めば読むほど面白くなる感覚というのは。ドキドキワクワクする部分もありますが、それを超えて「しみじみ面白い」んですね。
作品の語り口が二人の主人公(アンガスとアザゼル)を交互に語る様になっていますので最初の入り口はちょっと入り込みにくいんですが、一度その緻密な格子型に組み上げられた物語の中に入ってしまうと、いつまでも耽溺していたい気持ちにさせます。

あと

微妙に嬉しいのがこの3巻にして巻頭についている世界地図のほとんど全ての地域を回ってくれたことですね。
この手の架空世界のファンタジー作品ではとりあえず設定だけして登場する機会がなかったのかなんだか分かりませんが、地図にあるにも関わらずその土地に訪れないまま(あるいは説明不足のまま)終わってしまったりする作品があったり。
あるいは端から世界地図を用意する勇気がない(続けられるかどうか分からないからか?)作品もありますが、この話はちゃんと終わりの見えている作品ですからそれもありません。だから一冊ごとにその作品世界について詳しくなっていくのが嬉しいですね。
1巻では砂漠から始まったのに、その後は雪山から森林地帯から湿地帯、寒村を訪れたかと思えば次は都会へ・・・次はどんな土地が待っているのだろうという旅人に似たときめきを読者にもたらしてくれます。うーん良い。

キャラクター周りも

いよいよ深まってきて実によいです。
3巻にしてその性格がはっきりしてきたセラが今回は特によいですね。アンガスとの事についての嬉し恥ずかしいやりとりは実に微笑ましいものがあります。

「わあああああッ!」セラは大声で叫んだ。「それ以上は言っちゃダメなのですだわ!」
「ム……何故ニ?」
「それは……乙女のヒミツだからなのです!」
「秘密なのですカ? しかし姫が彼に惚れておられるのは周知の事実では——」
「あああああああ! 聞こえませんわ! 私には何も聞こえませんのですわ!」
セラは真っ赤になって耳を押さえると、脱兎のごとく部屋を横切り、先ほどまでアンガスが寝ていた仮眠室へと隠れてしまった。

2巻まではほとんど口を開かないキャラクターだっただけに、この変身は嬉しいですね〜。

ただ

<本の姫>の方はそう単純ではありません。
「文字」の回収が進むにつれて明らかになってくる秘密の数々と、アンガスに訪れる異変。<本の姫>の苦悩は徐々に深くなっていきます。アザゼルを直接守ることが出来ない無力感に苛まれるリバティの様に。

「私は歯がゆいのだ。ジョニーもアークも、ウォルターもセラもお前を支えてやることが出来る。けれど私には、倒れたお前を支えることも助け起こすことも出来ない」

アンガスと<本の姫>の関係は、複雑です。なんとも・・・複雑で・・・どこに着陸するのか想像もつきません。また、姫はこんな事も口にします。

「お前も考えたことがあるんじゃないか?」
姫の声が、夜の静寂に問いかける。
「文字の意志とは私の意志なのではないか、と」

「文字」が回収されるごとに自分を取り戻していく<本の姫>。しかしその数々の「文字」は世界のあちこちで混乱を呼び起こしている、その理由が分からないことに対する不安・・・。
物語の中にある不安は、アンガスと<本の姫>の中にある不安でもあります。

総合

星5つにしちゃうなあ!
物語は同じペースで進み続けます。一歩一歩確実に道を延ばしながら。それを追いかけるのがとても楽しいです。
アンガスの道、アザゼルの道。それら二つはこの3巻で遂に一つの大きな流れになっていくことになります。悲劇的な結末を迎えたように思えるアザゼルの物語はそれを追いかけるアンガスの物語に暗い影を落としていますが、きっとそれをアンガスは跳ね返してくれるのではないかと思います。正確には「アンガスとその愉快な仲間たち」の間にある無形の「力」がですが。
そうそう、イラストは山本ヤマト氏ですが安心のクオリティで楽しませてくれますね。表紙と口絵だけですが、それでも作品の印象を補強するのに十分すぎる仕事をしてくれています。いやあ、好きだ〜。

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