疾走れ、撃て!

疾走れ、撃て! (MF文庫 J か 3-13)
疾走れ、撃て! (MF文庫 J か 3-13)神野 オキナ

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ストーリー

中学を卒業すると同時に軍隊に招集されるようになっている日本。
何故ならば、今の日本は侵攻をを受けているからだった。それも異次元からの正体不明の巨大生物から。それは「龍」や「単眼嵐巨人(サイキス)または(ダイダラ)」と呼ばれる存在だった。
奴らは「導柱(ペナント)」と呼ばれる物体を出入り口として出現し、日本の各地で散発的な戦闘行動を起こしていた。彼らに対抗するべく日本も軍を組織して対処していたが、それだけでは流石に全て捌ききれず、学生を兵士として徴兵することが義務づけられるようになっていた。
主人公の田神理宇(たがみりう)も今年中学を卒業して軍に徴兵された一人だ。過酷な訓練を経て、実際に配備された先に待っていたのは一兵卒としての戦い・・・ではなく、「護衛士官」という特殊な兵士としての戦いだった。
「護衛士官」は「敵」との戦いにおいて重要な役割を果たし、強大な魔法で敵を打ち倒す「魔導士官」を護衛する役割を負った兵士である。そんな突然の展開に驚きを隠せない理宇だったが、貴重な仲間達にも囲まれて、なんとかかんとか護衛士官としての道を歩み始めるのだった・・・。
現代日本にちょっと異世界的な要素を加えた軍隊小説の新シリーズです。

えーっと

そうですね・・・ハインラインの「宇宙の戦士」読んだことがある人にはこんな説明でわかりやすいかも知れません。

「『宇宙の戦士』を10倍位に薄めて、軍隊賛歌を無くし、ライトノベル的なファンタジーと恋愛要素を加えた作品」

という感じです。読んでいなければ・・・まあなんというかそんな感じの軍隊小説だと思ってくれれば良いです。とにかく軍隊的マッチョ要素を減らして(もちろん残ってますけど)読みやすくなっている作品です。
訓練シーンなんかももちろん出てきます。この辺りの描写については結構リアリティがあるんじゃないかと思いましたね。少なくとも軍事マニアではない私には特に違和感を感じない程度には書き込まれていると思います。

そして

作品を彩るキャラクター達ですが、主人公の田神理宇は極一般的な能力の兵隊ですが「訳あって」軍隊でも特殊な位置につけることになります。しかし彼を支えるために用意されたキャラクターもちゃんといますので、彼の不足を補ってみんなで活躍するという感じですかね・・・。彼一人が超戦士となって戦うとかいう話では「基本」ありません。
そもそも、彼が守る事になった「魔道士官」というのがロリロリな感じで寡黙かつ引っ込み思案な少女である・紫神虎紅(さきがみこべに)という少女であり、彼女は確かに能力持ちですが、田神を見て

「良かった…………優しい人で」

なんて言ったりする情緒的な面ではごく当たり前の少女です。どうやら「護衛士官」には何らかの「素質」が必要らしく、それを満たしていて、「護衛士官」の素質を持っていて、その候補の一人であった田神の性格を心配していたようです。なんとも変な話ですが。
そして田神の方も、彼女を「魔道士官」と知らない時に会った際には、

「…………なんかこー、あの娘、妹がいたらこんな感じかなあ、って」

なんて言っています。彼にとって魔道士官殿はなんとなく保護欲をそそられる相手の様ですね。

また

上でも書いたとおり、田神をサポートする兵士達もちゃんといまして、徴兵される前からのつきあいである金髪少女の華社ミヅキ鳥越深冬佐武俊太郎といった仲間達がいます。特にミヅキは理宇に対して複雑な感情を持っていましてなんとも微笑ましい存在です。

「…………ばぁか」

自分をまだ意識してくれていない理宇の後ろ姿に小声でこんな事を言ってしまう感じ、と言えば分かりやすいのではないでしょうか。それ以外の部分では非常に闊達で行動力に優れた少女なんですけどね〜。

こうした

キャラ立ちの良い登場人物に囲まれた作品で、全体では面白いと言えるのですが不満が無いわけでもありません。
正直に言って理宇が活躍しすぎなんですよね・・・いや、確かにそれなりの努力もする少年ではありますが、ラストシーン近くでは新兵の枠を超えていると言わんばかりの大活躍をしてくれてしまいます。
まあ、ファンタジーライトノベルとして見ればそれ程違和感は無いんですけど、現代軍隊作品として見た場合にはかなり違和感があります。

それと、

魔道士官の存在がやっぱりちょっと作品全体の空気から浮いているのも気になりますかね。
やっぱりその辺りは「本来くっつかないはずの二つの要素(魔法と軍隊)を無理にくっつけてみた」という印象から逃れられていません。個々の描写は安定しているのでそれほど違和感を感じるほどではないのですが、全体で見渡すと結構浮いているかな〜なんて思ったりしました。いえ、結構厳しめに言ってますので、楽しく読めることは楽しく読めますけどね。
また、基本は軍隊物ですけど、作者は「軍隊コメディ」と言っていますので、余りにもえげつない展開だったりすると読みたくないような人でも読めるんじゃないかな〜なんて思います。つまり私の事ですけどね。

総合

うーん、現時点では星3つかな?
次の2巻が出たら読んでみるのが確定している星3つです。多分次の2巻では今回感じた違和感は前例が出来たので緩和されると思いますので、そういう意味ではこの1巻は前奏曲みたいなものかも知れません。
そうそう、正面衝突の様相を呈している恋の鞘当ても楽しくなりそうですし、「杖」と呼ばれる秘密要素や、リヴァーナと呼ばれる存在も気になります。やっぱり次も「買い」ですかね。
イラストはライトノベルとして全体的に無難なところでまとまっている印象です。強いて言えば登場人物の一人で意外に重要な役所の五巳鷹乃がカラーイラストになっていないことくらいでしょうかね。もちろん登場人物は他にも沢山いますので、その辺りを次巻以降でフォローしてくれると嬉しいなあなんて思います。

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