リミテッド・ヴァンパイア(1)髪喰鬼と吸血鬼

リミテッド・ヴァンパイア (1)髪喰鬼と吸血鬼 (角川スニーカー文庫 171-13)
リミテッド・ヴァンパイア  (1)髪喰鬼と吸血鬼 (角川スニーカー文庫 171-13)仁木 健

角川グループパブリッシング 2008-07-01
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ストーリー

空から落ちてきた美少女は自らを「髪喰鬼」(かみくいおに)の文月文(ふみつきあや)と名乗った。そして、偶然ただそこに居合わせただけの高校生・真端由自(まはなゆうじ)に突然自らの血を与え、髪喰鬼にとって特別な「受血者」へと変貌させてしまう。
・・・受血者とは、髪喰鬼の血を与えられる事で造られる、髪喰鬼にとって特別な食料でありエネルギー源となる髪を生やすことの出来る存在・・・らしい。
髪喰鬼にとって受血者は非常に重要な存在で複数を同時に存在させられず、また変身させられた人間の持つ精神力が髪の持つ栄養価にも直結するため慎重に「受血者」にする人間を選ぶのが常だったのだが、ある理由から危機的状況に陥っていた文は咄嗟に由自を受血者にせざるを得なかったのだという・・・。

不本意だけど、あなたは私の受血者になっちゃったのよ。覚悟を決めなさい」

文はそんな風に由自に対して言い切るのだった。
そんなものに突然変身させられてしまった由自だったが、異常とも言える適応能力を持ってして、髪喰鬼達の中に入り込み、そして歴史の向こうで行われていた髪喰鬼と吸血鬼との戦いの中にその身を投じていくことになる・・・その内に宿した激しい性欲を糧にして・・・ってあれ?
なんというかここまで開き直られると困るライトノベルですが、意外に楽しめる辺りがなんとも・・・という新シリーズです。

えーっと

一言言うとすると、

「呆然」

ですかね。
ここまで某漫画の主人公の少年をストレートに模倣したタイプのキャラクターを堂々とメインに据えたことについてですけど。まあぶっちゃけ「GS美神」の横島クンですけどね。
もーなんていうか、そのままずばりですよ。生きる原動力が性欲で、しかも性欲が時々生存欲求を上回り、結果として異能の力を呼び出す元にもなっているという・・・いや、ここまで開き直って真似しているとこれはパクリとか思わないもんですね。これはオマージュですな。多分だけど・・・。
少しだけ違うところがあるとすれば・・・って探す方が面倒ですわ。まあどの位似ているかって事は、以下の台詞で分かってくれると思います。

「人間じゃないなんて、大した問題じゃない。女は魔物だ。なら逆も真。魔物は女だ!」

そーいやあの漫画でも人魚に対してそんなこと言ってるシーンがありましたね・・・。

「違う!! ただ生胸を押し当てられただけで、もう絶対逃げる気がなくなってる自分に嫌気が差したんだ!! 分かったんだ! 俺の女好きは、趣味や性格じゃねえ、業だ!! 死ぬまで一生振り回されるんだ!! ああ、やってやるさ、何だってやってやる!!」

そのうち時給250円とかで働き出さなければいいですけど・・・。

対する

ヒロインの文月文ですが、こちらは比較的最近の正当派ツンデレの血統ですね。
吸血鬼ならぬ髪喰鬼という設定は特殊で、その辺りは目を引きますが・・・力のある鬼であることは間違いなく、世界でもトップクラスの力を「かつては持っていた」存在として描かれます。ただ、年経た怪物の割にはかなりコミカルに描かれていますね。

扇風機は、黒く長い髪を植毛された首だけのマネキンに、ずっと、風を送り続けている。
「ふけー、ふけー、ふきつけろー。おいしくなーれー、おししくなーれぇー♪」
風にたなびく髪を凝視しつつ、妙な歌というか呪詛を送り続けるのは、髪喰鬼文月文。
呪詛だけではない。椅子に座ったまま両手を左右に振って踊っている。可愛い。

これは髪喰鬼による食事作りの一コマ。「風梳き」という調理法らしく、夏場はあっさりとしていて良いらしいです。・・・そうめん?

また

他のキャラクターもなかなか個性的に書かれていまして、その辺りは流石にベテラン(?)の匂いを感じますね。

  • 会話の最初に「フッ」を付けずにはいられない変な男で髪喰鬼でもある大山悟
  • 文の「受血者」になるはずつもりで、そのために心身を鍛えてきた女性の松平美姫
  • 退魔の力を持ち、それを使って魔物と戦い続けてきた妖滅師兄妹である遠野敬太・香
  • 普段はお守りの姿をしておきながら、力を注ぐと槍に変わる特殊なアイテム・雷牙

車田正美とか獣の槍とかなんかそういった古今東西の漫画のネタをあっちこっちから引っ張ってきて、煮込んだらこんな感じになったというか・・・そんな印象がありますね。でもキャラがちゃんと立っている所までは描写がしっかりしているので読めてしまうんですけど。

総合

まあなんだかんだいいつつも星3つはあげるか・・・。
あっちで見たことある、こっちも見たことある、という印象をばらまきつつもそれでも上手いこと再構成してちゃんと一個の別の話に仕立て上げているという作者の手腕を評価してのことですね。
また、ラストでの一種のどんでん返しは予想の範囲とはいいつつも痛快でしたし、読んでいて「ほほぉ〜、ここでライトノベルらしさを全開にしてきたか〜」という印象を持ちました。見せ所というか、カードを切るタイミングを見切ってますね、作者。
多分次も買うんじゃないかなと言う感じです。オリジナリティという意味ではもう赤点ですけど、その安定した料理手腕に星をあげますね。安心の定食屋の味・・・とでも言いましょうかね。
あ、あと世界観関連ではなかなか面白いと思った所がありましたね。音が勝手に出るとか、そういう辺りですけど。

ふふ ふふふ ふふふふふ くすくす ふふ
   あは ふふふふふふふふふ あははははははははははっ

こんな感じの描写ですけど・・・この作者の技ですかね? あっちこっちで多用されますけどね。悪くないです。あ、あとがきにもありやがんの・・・。