ゼペットの娘たち
ゼペットの娘たち (電撃文庫 み 11-3) | |
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ストーリー
機鋼人形と呼ばれる人形がある。
心臓部にゼペット鋼と呼ばれる特殊な鉱物と命を宿す計算式の組み合わせによって作られた人形は、名工の手に掛かるとまるで本物の人間のような振る舞いをし、そして外部からの刺激を受けて心すら成長させることの出来る最高の人形だった。
サツキ・クガはそんな機鋼人形を作り出すことの出来る機鋼人形師。若干17才という若さだが、既に普通の職人などよりはるかに優秀な技術と情熱を持った若者だった。・・・ちょっと機鋼人形の事となると寝食を忘れて没頭する変態的な・・・いや、行き過ぎな所があるにせよ、だ。
そんなサツキは一件の依頼を受けて一人の可憐な姿をした少女の機鋼人形を作り上げていた。名はハリケーン。しかしその名前にそぐわない穏やかで繊細、それに優しい心根を持った人形で、いつもサツキの側に居たがっている。
しかしサツキは彼女を可愛がって大切にしてくれる主人を捜すために田舎から大きな街・マリスにやってきたのだった。お供に犬型の機鋼人形・トルネードを連れて。
そんな彼らが街で出会う幾つかの出来事と人々との交流を描いたファンタジー作品がこれです。「カレイドスコープのむこうがわ」の作者による新シリーズでもありますね。
おお〜
なかなか面白い! というのが読了後の感想ですかね。
何か劇的な出来事が起きるわけではないけど、キャラクターの心の動きや仕草の表現が秀逸なので楽しめます。
特に本編中で暴走しがちなサツキのブレーキ役として頑張ってくれるトルネードがまた犬というのがポイント高いです。犬だというだけで楽しいですし・・・いやあ、可愛いんですわ。
「トルネード、お座り! 伏せ!」
不意にサツキが声を張り上げると、言われたとおりにトルネードは座り、ぺたんと床に伏せる。が、すぐさま乱暴に立ち上がる。
「サツキ、また変な設定付け加えただろ! こんな犬みたいなこと、僕はいやだってば!」
「よしよし、かわいいぞ、トルネード」
幸せそうにゆるんだ顔でサツキが頭をなでると、トルネードは尻尾を振った。
「ああ。また勝手に尻尾が動く! これも取り消せって言っただろ!」
「なんでいやなんだ? すごくかわいいのに」
「くそ、馬鹿にして、この変態」
「また言うか」
トルネードはサツキに飛びつき、サツキは逆手でトルネードの前足を受け止め、両者はそのままの姿勢でにらみ合う。
どうみても愛犬が主人と戯れる姿にしか見えません。本当にありがとうございました。
ちなみにこのトルネード、毛並みの良い白い犬です。彼の見せ場は結構ありますし、ちゃんとイラストにもなっていますのでその愛らしさ倍増です。特にp185のイラストは見事すぎてついついポストイットを貼ってしまいました。かわいい・・・!
それにもちろん
機鋼人形で汚れを知らない人形娘のハリケーンも可愛いのですね。サツキべったりなのは困りものですが、
「だって、寝顔を見るの好きなんです」
ハリケーンは笑顔で言って、サツキの腕に両手を添え、肩に頬を寄せた。眠っている彼も好きだが、起きている彼も好きだ。黒い目や話し方も好きだ。
こんな反応されたら、俺だったら借金背負っても手放さないぞオイ。
寝顔なんて特に無防備な顔で時には変な顔もするだろうに、それを見ているのが好きだとは・・・ううううう、その思慕が素晴らしい・・・!
もちろんハリケーンはただの可愛いだけのキャラクターという訳ではありませんし、まだまだ成長していく過程の人形でもあるので色々と変な天然ボケっぽい事も言ったりやったりしてくれます。街で出会った人に思いがけず「そういう場合はこうしておけばよかったのでは?」という感じのことを言われて、
「どうしてもっと早くそれを言ってくれないんですか?」
「いや、会ったの五分前だから」
なんて事を人に言わせてしまったりします。天然ですが、やっぱり可愛いです。・・・なんというんでしょうかね、天然でも男性読者に媚びている感じが無いのがとても良いのだと思います。
また
サツキとハリケーンとトルネードを囲むサブキャラクターたちも魅力的な人物が多く、楽しませてくれます。
- サツキと同じ機鋼人形師でかつ、ライバル(?)でもあり仲間(?)になっていくと思えるニコ・メイビスと、ニコの作った人形のエレガンテ。
- サツキと取引があり、マリスに店を構える商店主の陽気で気前のいい男のランディ・クロノス。
- サツキととある切っ掛けで縁が出来ることになる資産家の3兄妹のアレックス/ジンク/エリカ・ロックハイム
などなど。
どのキャラクターも愛すべき特徴に充ち満ちていて、読んでいるだけでなんとなく幸せな気分になれますね。
総合
星4つ〜。女性にもおすすめの作品ですね。
特に重大な事件が起こるわけでもないので盛り上がりに欠ける? って言われればその通りなのかも知れませんが、私は全然気になりませんでしたね。その位にはキャラクター達とこの物語の中にある世界観と機鋼人形の愛らしさにやられてしまったという事でしょうかね。
話的にはどうやら次がないと落ち着かないようなところで終わっていますので、私は2巻を期待して待つことにします。うん、早くまたこの話の登場人物達に会いたいですね。
あと、個人的にはこの本はイラストが猛烈に気に入りましたね。宮田箏治氏が描いているとの事ですが、口絵カラーの柔らかいタッチの登場人物紹介を兼ねた絵も良いですが、本編内の白黒のイラストもとても良いです。
購入に迷ったらこれらのイラストを見て頂いても良いのじゃないかな〜なんて思いますね。上でも書きましたがp149、p185辺りは実に印象深いです。うーん可愛い・・・。