AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

ストーリー

佐藤一郎高校デビューに成功した。
高校デビューとは中学校までの自分を捨て去ってリニューアルし、高校では全く別の自分に変身して人生をやり直すことを言う。佐藤一郎はそれをやってのけたのだ。
結果として惨憺たる様相を呈していた中学生活とは全く違う生活が送れるようになり、学校のクラス内ヒエラルキーでも上位を狙えそうなポジションに付けるに至ったのだが・・・その佐藤一郎の希望に一筋の暗雲が立ちこめる。
佐藤良子。同じ佐藤姓を持つ少女がクラスメイトにいたのだが、彼女は学校にも来ない、来たかと思えば制服は着ずに謎の魔法使いチックなローブ姿、そしてさらには意味不明な言葉を口走る・・・。
彼女はそう、異世界から使わされた使者だったのだ——な、なんだってー! ・・・ってありなのかそんなの? なし崩し的に巻き込まれる佐藤一郎(通称メンズ)の青春は一体どうなってしまうのか?
という感じで進む電波ゆんゆんストーリー・・・なんだけども意外と正当派な青春ラブコメディです。

こ・れ・は

傑作。
ただし誰にとっても傑作という訳ではないです。特定の青春を送っている(あるいは送ってきた)人々にとっての痛がゆい傑作と言えるでしょう
どんな青春を送っている人たちかというと・・・ままならない現実に対して全身全霊の妄想でもって対抗しているタイプの人たちですね。最初の切っ掛けは何なのかは分からないけれども、とにかく妄想によって「My設定」を自分の中に構築した人たちにとっての傑作です。
この本の中ではそんな連中のことを「妄想戦士」と呼んでいます。もっとぶっちゃけて分かりやすく今風に言うといわゆる「邪気眼」という奴ですね。それがかなりキてる本です。

個人的な話を言えば

私自身は完全なる妄想戦士だったことは多分無いですね・・・というかなりたくてもなれなかったというのが正しいかも。
彼らに共通して存在する希有な特徴としてはその溢れんばかりのイマジネーション能力だと私は思うわけですが、当時(思春期ど真ん中)の自分にはその創造性とでも言うべき能力が完全に欠落していまして、結果として妄想戦士になり損ねたという感じです。
それともあれかな? 自分で気がついていなかっただけでやっぱ妄想戦士だったかなあ・・・もう分からなくなってるけど。
しかし・・・友達にはいましたよ妄想戦士完全体。彼にして見りゃミカエルやガブリエルは戦友的な扱いで、使い魔のサキュバスはおねだり上手で夜眠らせてくれなくて・・・などなど。
とにかくその口から溢れ出る妄想は止まるところを知らず、もうちょっと頑張れば神話の創造くらい出来るんじゃないかという勢いでした。・・・正直私はそんな彼を結構どん引きで見ていたわけですが・・・その特定の人間(例えば友人の私とか)の前でだけ見せる邪気眼っぷりを除けば実にいい奴でした。

でもさあ・・・

確かに当時の私は彼の話や設定にどん引きでしたが、それはなんというか・・・私も一度は邪気眼だったからなんですね。それが早いうちに来るか遅く来るか、それだけの差です。大した違いはありませんねえ。
というか邪気眼をあざ笑う人は全員かつて邪気眼だったのでしょう。じゃないと邪気眼がどんなに変な妄想の結果生まれてくるものか分からないし、それが恥ずかしいことだとも思えないですから。だってさあ・・・奇妙な妄想に一度たりとも浸らない子供なんて、います?

俺たちは皆、競って狭量であろうとしている。
狭量でなければ、怖くて怖くてたまらないのだ。型に押しこめられて安心したいのだ。目立ったらキモいというレッテルを貼られるから。
けど俺は、俺たちは、本当は。
神を、魔術を、怪物を、神秘を、奇跡を、伝承を、終末を——生きる心添えにしたい。好きでもないカラオケに行ったり、お洒落に大枚を投じたり、気の合わない人間に尻尾を振ったりしたくない。

そうそう、何歳になっても実はそんな感じですよ。
ただ年を取ると若い頃と違ってその見せ方が巧みに——あるいは狡猾に——なるだけでね。大人と子供の差なんて多分その辺りの経験値の多少の違いくらいですよ。あるいは使うおもちゃの値段くらいかな? 大本の本質は変わらないですからねえ・・・。

ちなみに

この本で最後の最後まで本物の邪気眼だった人が一人いますね。
主人公の佐藤一郎? いや違いますね。彼は邪気眼に浸った挙げ句にそれを卒業しましたし。じゃあヒロインの佐藤良子? これもどうでしょう? その辺りは各自作品で確認してもらうとして、私はやっぱり違うと思います。
じゃあ誰よ? ってことになりそうですが、いるじゃないですか、自分の立つ舞台の表と裏が入れ替わった最後まで自分で作った自分のキャラクターから逃れられず、自分の世界に浸り続けた結果呆然としている人が一人。その人こそ普段は上手く適応して隠してはいるものの、実は本物の邪気眼(自分の作った自分だけのファンタジーに没入している)ですなあ。・・・いや、結構そういうタイプ、好きですけどね?
こういうタイプも数年か数十年かしたら、当時の自分を思い出したりして恥ずかしさに身もだえたりするかも知れません。

そうそう

本文中にクラスチェンジした大人達(というか教師達)について、

大人はすげーわ。えぐいわ。

なんて述懐があるけれども、これは大人が凄かったり偉かったりする訳ではないというのは、恐らく書いている田中ロミオ自身が分かりつつもこう書いているに違いないな〜なんて思いましたね。
凄くて、えぐいのは、成人した人間が放り出される社会という魔物そのものですね。
・・・その流れの速さに適応するか、いなすか、すり抜けるかなどができなければ、あらゆる意味でのドロップアウトを余儀なくされるのが日本社会の凄くてえぐい所です。何しろ年間の自殺者が3万人の国ですからね。すげーですよ、えぐいですよ。

総合

いやあ、星5つ付けちゃうから是非とも読んで欲しいですね。さあ、田中ロミオの綴る電波ゆんゆんワールドへレッツゴー!
私は流石にリアルタイムでこの物語世界には没入できないのでなんとなく醒めた状態で読めましたが(というかもう一通り過去の自分については身悶えしきったので半笑いな感じ)、同世代の中高生はどうなんでしょうねえ・・・痛くて読めないか、それとも気持ちがいいのか? 色々な人の感想を聞いてみたいところですね〜。
とにかく魔竜院光牙最後の闘いを見届けて欲しいものです。主人公もヒロインも魅力的ですし。あ、あと子鳩さん激萌え。あ、それに続編もあってもいいのよ、ロミオさん?

感想リンク