タイム・リープ あしたはきのう(上)(下)

タイム・リープ—あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146))
タイム・リープ—あしたはきのう (上) (電撃文庫 (0146))高畑 京一郎

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おすすめ平均 star
star一風変わった味のするタイムトラベル小説。上質のミステリに通じる面白さがあります
star読後感が良かった
star徹夜必至

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タイム・リープ—あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))
タイム・リープ—あしたはきのう (下) (電撃文庫 (0147))高畑 京一郎

メディアワークス 1997-01
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おすすめ平均 star
starもう一度、何も知らない状態から。
star主人公・サブキャラ両方の視点で楽しめます
starラストは「あっ、そういうことね」

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ストーリー

鹿島翔香は気がつくとクラスメイトの少年・若松和彦とキスをしていた。
一体何が起こったのかさっぱり分からない翔香は目の前の和彦をひっぱたいたのだが・・・叩かれた和彦はというといきなり笑い転げだす。その様子に一層混乱する翔香。

「……なんで、若松くんがこんなところにいるのよ」

そう問い詰めた翔香だったが、そもそも今自分がいるのは学校でもなければ自分の部屋でもない、どうみても男の部屋で、しかも和彦に言わせるとどうやら今自分がいるのは和彦の部屋らしい。
いつここに来たのかの記憶もなければ、和彦とキスをしている自分も分からない。完全に混乱する翔香は部屋を飛び出して——滑って転んで階段を転げ落ち——気がついたらいつもの自分の部屋。
・・・夢? と思った翔香だったのだが、学校に行ってみて妙な疑惑が深まる事になる。昨日・・・つまり月曜日の記憶が完全に抜け落ちていたのだ。今日は火曜日・・・一体自分の身に何が起こったのだろう? 翔香は何がなんだか分からないまま不思議な事態に放り出される・・・。
これは1995年に出版されたタイムトラベル作品です。

随分前に

読んだんですが、自分でやった企画「未経験者をラノベの泥沼に引きずり込むための本を教えてくれい!」に引きずられる形で再読したんで感想を。
まず最初に印象に残ったのはタイム・リープ云々よりも・・・なんというんですかね、昭和の匂い? でしょうかね。別にどこがと言うわけでもないのに妙な古さを感じるんですよね。
よく考えてみると初版が1995年な訳ですから、えー、18年*1ですか? そりゃなんか古さも感じるかなあという感じですね。・・・でもいちばん恐ろしいのはこの本が出版された年に生まれた人が今や13歳*2ライトノベルストライクゾーンの年齢だって事ですかね。そら俺も年取るよね〜。

読み返して

さらに感じるのが作品から滲み出る性別不明な印象ですね。作者は男性ですが語りは少女ですから・・・妙なユニセックス感が本編にあります。
これ電撃文庫から出ていますが、女性向けのライトノベルとしても十分通用する感じですね。主人公の翔香はとても標準的な女の子ですから、女性なら誰でもそこそこ感情移入出来るんじゃないでしょうか。
それから若松和彦ですが、これがまた少年向けでない感じというか印象というか・・・イラストの古さと相まって一層女性向けな感じです。

というわけで

キャラクターですが、主人公の翔香は、

コースレコードを……樹立して……しまったわ……」

なんて言いながら学校に駆け込むところもあれば、

鞄の中身は、前夜のうちに揃えておくのが翔香の習慣である。

なんてちゃんとした所もあるまあ本当に普通の少女ですよね。
まあその習慣は朝の時間短縮のために身についたものらしいですが・・・でも俺なんて学校行くときの鞄の中身なんて常に空に近かったしなあ・・・教科書? そら学校に置きっぱなしでしょ?
まあとにかく上記のようにごく普通にアンバランスな少女です。最近のライトノベルにあるような萌えやら強い個性を持った少女ではありません。
でもその「普通さ」、「なんか結構そのへんにいそう」、「・・・地味?」、「ありきたりすぎてパッとしない」が逆に今読むと変に個性的だから不思議ですね。

で、

もう一人の主人公と言える和彦ですが、こちらは結構くせ者です。
訳あって翔香に協力することになりますが・・・、最初は翔香の言うことを一切まともに取り合いません。

「で」和彦は、足を組み替えた。「いったい、君は、どこでラベンダーの匂いを嗅いだんだ?」

これは昔懐かしの「時をかける少女」ですねえ・・・。いやいやいや、アニメ版じゃないですよ? 実写になった方のです。
とにかく和彦はちょっとクール過ぎて可愛くない少年と言えば分かりやすいでしょうかね。でも男性諸氏にとってなかなかためになる発言をしてくれたりします。

「私の言う事、信じてくれないのね……」
「『信じる』って、言うだけでいいなら、幾らでも言ってやるよ。嘘でもいいならな」和彦は、やや強い口調で言った。「君がどう思っているかは知らないがな、鹿島。信じるって事は、大変な事なんだぜ。信じたくても信じられないという事もあるし、信じたくなくても信じざるを得ないという事もある。自分の意志だけで決定できるような事じゃないんだ。ましてや強制されてできるような事じゃない」

・・・将来、人生のどこかの局面で「私のコト……信じてくれないの?」とか女性に言われたら、このセリフを言えば相手を黙らせられそうです! ためになりますね! さーこっから浮気調査だ(過去の俺に涙)。
タワ言はともかく、和彦はこういう少年です。疑り深い分、信じれば深い。なかなかにいい少年ですよ。

この話は

こうした主役を配して語られる作品です。
そしてもちろんタイムリープという現象が起こるのを扱った作品でもありますから、あっちの時間、こっちの時間という感じで翔香は時を跳ね回るわけです。キャラクターのなかなかの魅力と一緒にその辺の描写の妙というのも押しておきたいですね。
最初は全く意味が分からないことが読み進めていくうちに必然性を持っていたことが分かってくる・・・この「過去」の謎が解れていく快感というのはタイムリープもののいちばん楽しいところですね。

総合

星・・・4つかな・・・。
それ程好みの作品というわけでもありませんが、この作品の出来の良さは褒めざるを得ないかな〜というのが正直なところですね。
断片化された時間が一つに収斂していくのはなかなか楽しいですよ? ・・・そうですね、パソコンでディスクデフラグツールを起動して、ハードディスクの領域を示したゲージが徐々に青く変わっていくのを眺めている快感とでも言いましょうかね?
え、例えがわかんねえ? じゃあ本棚の抜けを整理整頓していく様子を思い出してくれたらいいかな?
まあとにかく、どうして翔香が和彦とキスをする羽目になっちゃったのか? を知るために読み進めても楽しいんじゃないですかね。うん、青春っていいですな・・・。

*1:コメント欄で爆笑。

*2:こっちは直したw