放課後の魔術師

放課後の魔術師 (1)オーバーライト・ラヴ (角川スニーカー文庫 208-1)
放課後の魔術師  (1)オーバーライト・ラヴ (角川スニーカー文庫 208-1)土屋 つかさ

角川グループパブリッシング 2008-09-01
売り上げランキング : 666


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

奇妙な出来事に出くわした事によって気が動転していた播機遙は校内を自転車で疾走中、一人の少年と出会う。
遙は少年と衝突事故を起こしそうになり、避けようとして結果転倒。空中に放り出された遙だったが、奇妙なことに特に怪我らしい怪我もなく、ふんわりと地面に降り立ったのだった。
何が起きたのかよく分からない遙だったが、少年に助けられたと言うことだけは事実。聞けば少年はこの学園に来たばかりであるらしい。どうやら転校生のように思える彼に恩返しとばかりに校内を案内した遙。少年の名前は秋津安芸と言った。
しかし、遙は安芸と予想外の形で再会することになる。彼は生徒ではなく教師だというのだ! しかもどうやら彼は遙が慌てる原因となった「奇妙な出来事」に関わっているらしいということに気がつき始める・・・。
日常の中に隠れ住む論理魔術師と、それに関わることになった一人の少女が織りなす魔術アクションです。

非常に

完成度が高いという印象を受けましたね。とても新人の作品とは思えないような出来、と断言してしまって構わないのではないでしょうか。
文章の流れというかリズムも心地よいですし、情景描写についても過不足なし、キャラクターについてもそれぞれがよく練り込まれていてちゃんとそれぞれが個性を持っているのがよく分かります。
物語の語り部となるのは基本的に主人公の秋津安芸と播機遙の二人で、この二人がそれぞれの視点から交互に出来事を語ることによって物語は進行していきます。

読んで見ると

分かりますが、この作品は結構世界観というか設定が難解な作品なんです。
・・・・が、主人公の二人、つまり「既に知っている者」と「まだ何も知らない者」を上手く使い分けて、説明不足を避けつつ、同時に無理矢理に説明を詰め込んだという印象になりそうな所を上手く回避していて、結果として読者を物語の中に上手く導いていきます。これは実に見事に機能していると思えましたね。
そうした語りの上手さもあって、するすると読んでいけてしまいまうんです。うんうん、新人賞なのにシリーズの「1」をサブタイトルに付けられるだけのことはあるな、と思いましたね。

でも

なんだろうなあ・・・。好きになりきれなかった。
人物描写は十分、だけど好きになれないと来ればこれはもう単純に「その人物にそもそも好意を持てない」ですかね。
主人公二人のうち、播機遙の方はそれなりに魅力的に感じたのですが、秋津安芸の方がどうしても魅力的に思えなかったんです。その理由は恐らくたった一つしかなくて・・・つまり「若さの欠如」です。
若いのに妙に達観していて、同時に非常に理性的。同世代の少女から見たら格好いいのかも知れませんが、私から見たら一足早く老けてしまった「場違いな少年」に思えるんですね。なんというか・・・エロティシズムを感じないんですよ。若々しい命が必然として持ち合わせている命の瑞々しさ、あるいは迸るような青春のエネルギーと言い換えてもいいかも知れません。
この手の比較はあまり好きではありませんが、「とらドラ!」とかの行間に漲っている「アレ」です。

総合

星3つ、ですね。でも人によっては「期待の新人現る!」という感じかも知れません。
非常に読みやすく、入り込みやすい物語だったのですが、私はこの話から心を動かされるような「何か」を感じませんでした。
比喩として通じるかどうか自信がありませんが「非常に良くできた数式を見た」ような気分になりました。その完成度に「見事」という拍手を送る気にはなります。でももしその数式のとなりに「説明不可能なうねりを持った彫刻」とかがあったら、私は間違いなくそちらを絶賛するだろう・・・そういう事でしょうか。
色々読んでいると分かるんですけど、私という読者は数学的な完成度の高さをライトノベルに求めていないんですね。多少の齟齬があってもいい、文脈上の問題があってもいい、時には矛盾だって許容しましょう・・・その代わりに作品から漲る説明のつかないエネルギーが欲しい、そんな感じでしょうかね。
言われてみればミステリの読者としてはどう考えてもいい読者じゃないもものなあ・・・俺・・・。

感想リンク