彼女は戦争妖精

彼女は戦争妖精 1 (ファミ通文庫)

彼女は戦争妖精 1 (ファミ通文庫)

ストーリー

10年近く音信不通、生死不明の父から、一つの大きな荷物が少年・宮本伊織の元に届いた。
差出したのは七年も前だったらしいのだが、何かの手違いで運送屋の倉庫に眠ったままになっていたらしい。元々何かの研究で世界各国を飛び回っては得体の知れない資料や品物を送りつけてくる父だったので、どうせまたその手の物だろうと伊織は思ったのだが、開封された巨大な木箱から出てきたのは・・・棺。そしてその棺の中で眠りについていた一人のビスクドールのような小さな少女だった。
少女は生きたまま棺の中で眠っていたのだが、棺が開くと自分はクリスタベルだと名乗り、そして「ウォーライク」なのだと説明した。
一体何のことだか全く分からず、何が起こっているのかも把握できない伊織は混乱するが、一見普通の少女にしか見えないクリスタベル——クリスを放り出す訳にも行かず、人間の少女と同じように世話をすることにする。
しかし、クリスが現れたことによって伊織の穏やかな日常は崩壊することになる・・・黄昏の世界、そして襲い来る他の「ウォーライク」達・・・伊織はなし崩し的に奇怪な戦いの世界へと身を投じることになる・・・。

この話の

導入部分についてもの凄くぶっちゃけて説明してしまうと、漫画の「ローゼンメイデン」ですね。
もちろん登場人物の性格や設定や世界観のの違いはありますが、それ程の違いはない・・・んじゃないかな〜と思います。少なくともそう思っていれば理解が早まると思います。
さらにぶっちゃけると、戦いに巻き込まれるという意味でも「ローゼンメイデン」ですね。もちろん戦いの種類は全然別物ですし、雰囲気も違いますから別物なんですけどね・・・。

この作品

ヒロイン(?)のクリスタベルはとても魅力的なキャラクターです。

「ミヤモトイオリ、お茶は?」
「は? お茶?」
「お茶は飲まないの?」
「……ガキのくせにアフタヌーンティーの催促までしやがる」

クリスタベルは最初こそ真紅・・・じゃなかった生意気な感じですが、話が進むにつれてそのお子様全開な所を見せるようになります。

「イオリー!」
伊織の言葉も終わらないうちにがらりと扉が引きあけられ、中からクリスが飛び出してきた。
「ん〜〜〜〜〜!」
伊織の腰にがしっとしがみつき、まるでタオルで顔でも拭くみたいに、伊織の腹に顔を押し当ててぐりぐりと左右に振る。

まあつまり子供です。ちょっとおしゃまな子供です。何しろ食事で服を汚さずに食べきれないような所がありますから。でも優しくて可愛らしい娘なのですね。そういうのが好きな人なら一発でやられそうな感じではあります。

「イオリにはクリスがいっしょにいてあげるからね」
「上から目線だな、いきなり。逆じゃないのか?」
「いいの! とにかくイオリにはクリスがついててあげるの!」
「ずっとか……それはちょっと——」
「え〜? もしかしてイヤなの、イオリ!?」
「イヤとはいっていない。……が」
「が?」
「……おまえ、ある日突然グラマラスな美女に変身したりしないのか?」
「しない〜」
「……ちっ」

こんな感じです。

まあ

主人公の伊織とクリスタベルのやりとりというか関係は、上の引用でおおよそ分かってもらえたと思います。
クリスタベル、実に可愛らしくて良い感じですね。ロリコンの人ならこんな妖精が家にやってきたら狂喜乱舞ですね。うんうん、クリスタベルは実に良かったのです。
でも・・・でもですね、私は主人公の伊織くんがあまり好きになれなかったのです。
本編を読んでもらえれば分かるんですが、主人公の伊織はその家庭環境から常に孤独に晒されてきた少年として描かれます。そしてその孤独を御するすべを幼いうちに身につけてしまい、孤独を嫌う余りに逆に人を寄せ付けない——失うことの怖さ故に何かを手にしない——性格を醸成したのです。
捻くれていると言うよりは、老成している——つまり彼は人より一歩先に精神的に大人にならざるを得なかった。それは悲しい適応とも言うべきものなのでしょう。
そこがでも、好きになれないのです。

私という

読者がライトノベルに求める物は、やっぱり少年少女の瑞々しい感性や、根拠のない自信や、理由のない不安や、恋愛に翻弄されたりという思春期特有の「熱さ」なんですね。
その「熱さ」がこの伊織には無いんです。ただ、そのように感じさせてくれる程には伊織はよく書かれているキャラクターですね。
もちろんクリスタベルとの出会いによって伊織は今後変わっていく可能性が大いにあります。だから現時点でこの本自体がつまらないとかどうとか言うつもりは——特にありません。
そうそう、伊織という少年の在り方が分かってから、上記のクリスタベルと伊織の会話を見ると、幼いクリスタベルこそが伊織の持つ悲しい孤独を直感的に理解しており、そして傍にいようとしている姉や母のように読めるから不思議です。

総合

星・・・うう〜ん、4つか3つかで悩むけどとりあえず3つにしておこう。
私は上記のような理由でいまいちに感じたのですが、この感じ方は世代が変われば当然変わるはずなので、ちょっと手にとって読んでみて欲しい本ですね。
物語の基本的な骨子は、クリスタベルという戦争妖精と、それを狙って襲ってくる他のウォーライクとの異能の戦いを描いた物です。その辺りはシンプルな構成ですね。
また、伊織達を導く存在として早瀬薬子(はやせくすこ)とエルクドゥーンという別のコンビが出てきます。彼らも人間臭く(妖精臭く?)て良くできたキャラクターですので、その辺りも楽しめるのではないでしょうか。
とりあえず1巻の数字が振られていますので2巻が出るのは期待して良いのでしょうね。2巻は出たら買います。とにかく伊織がこのままだと・・・なんだか彼が寂しすぎるので・・・。その彼の寂しさの埋め合わせはクリスタベルに頑張ってもらうことを期待しましょう。

感想リンク