ゼロの使い魔(15)忘却の夢迷宮

ゼロの使い魔 15 (15) (MF文庫 J や 1-18)
ゼロの使い魔 15 (15) (MF文庫 J や 1-18)ヤマグチ ノボル

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おすすめ平均 star
starちょ
star思っより良かったです
star利用される「タバサ」と「ジョゼフ王」

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ストーリー

故郷に帰る/帰らないですったもんだしまくった挙げ句、記憶をなくしてさらに取り戻して、元の鞘に収まるどころかさらにグダグダになった感じのあるルイズ才人
戦争中だというのに、あっちでイチャイチャ、こっちでモジモジとしまくって、結果モテないマリコルヌとかの逆鱗に触れまくっていた。でもマリコルヌなんて所詮はふとっちょの非モテマゾ。本編には特に関係はなかった。
しかし、ロマリア教皇ヴィットーリオによる「聖戦」の発動の結果として、戦争は否応なしに続いていた。しかし、ガリアもロマリア、トリスタニアも同じブリミル教を信仰する国・・・同胞への攻撃を歓迎するムードは双方ともになく、川を挟んで睨み合ったまま、膠着状態が続いていたのだった。だからこそ、ルイズと才人につかの間の日常が戻ったとも言えたのだった。
だが、国を股にかけて渦巻く陰謀は彼らを長い間は休ませてはくれない。虚無の使い手が新たに打ってくる手とは・・・?
なんか色々と大変な感じの15巻です。いやあ、長くなりましたねこのシリーズも。

ツンデレ

という言葉が一般人にまで浸透し始めて結構月日が経ちますが、そのクイーン・オブ・ツンデレとでも言うべき我らがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール女史が、新しいステージに入られました。
だってさあ・・・「デレ」で想像できるのはこう・・・なんていうの? 火にかけたチーズが溶けるような感じまでですけど、もうなんかそういうの通り越して形がなくなってグニャグニャのトロトロなんですよ今回。
もうあれよ、あれ。

「ぺるんぺるん」

とか、

「ぷにゅんぷにゅん」

とか、

「てれてれ」

とかそんな感じですよ。デレどころじゃないですよ。
ああ・・・恋に惑うと人間ここまでダメになるのね・・・という実例がここに物語として人目につく姿で結晶しているからヤになりますな!!! なんなの? 何かの拷問なのこれは? 独り者は死ぬの? 独り者を殺すの? 非モテはバカ犬以下なの? てめえらの血は何色なの?

「か、可愛いって。まるでレモンちゃんだ」
「レ、レモンちゃんじゃないわ。というかレモンちゃんってなによ」
「肌がすべすべで、レレレ、レモンちゃんだ」
夢中になって、ルイズの首筋に唇を這わせながら、才人は呟く。脳内はすでに花畑なので、自分が何を言っているのか、才人自身が理解していなかった。
「ばかぁ……。こんなことするサイトなんてキライなんだから……。ちょ、や、やめ……」
「わ。ここはもっとレモンちゃんじゃないか。こ、ここなんかどうしようもないほどにレモンちゃんだ」
「はう。……わ、わたし、よくわかんないんだけど、ほんとにレモンちゃんなの?」
「そうだよ。とりあえず、レモンちゃん恥ずかしいって言ってごらん」
沸いてる、というレベルを光年の単位で超えている才人の茹だったセリフだが、ルイズも根は相当なアレなので、なんだかそれがロマンチックな響きに聞こえた。というか一旦こうなったら、結局ルイズはなんでもいいのだった。その辺の趣味は、才人よりある意味ひどい。
「レ、レモンちゃん恥ずかしい……」

はっはっはっはっはっはっはっはっ!!
はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっあははああああっははははははは!!!
はっはっはっはっははははははははははあああああっふぁはあふぁふぁっはあははあはああははは・・・・・・。
この辺りを読んでいる時ほど自分にハニーがいて良かったと思った時はありません。

まあ

極まった茹で蛸共はともかくとして、今回の世界情勢は緊迫しているのが実情です。
で、あのガリアは才人達の仲間のタバサの故郷でもあるので、今回陰謀に巻き込まれるのはタバサということになります。タバサの中に渦巻くせつない気持ちと優しさが、どうしても彼女を昔の冷静な魔女にさせてくれないのです。

「……どうして?」
「なんでかな。きっと、好きなんだろうな」
「でも、あなたには……」

それはタバサに訪れた、初めての気持ち。
でもそんな気持ちは時に強みとなり、時に弱みとなる気持ちでもあります。タバサの巻き込まれる陰謀は・・・彼女を少なからず傷つけることになります。

しかし

なんですかね。私、単純なラブコメライトノベルとかは正直言って食傷気味なんですけど、それでもこの「ゼロの使い魔」シリーズはもの凄く楽しんで読めるのです。相変わらずというか、より一層というか。
自分なりに考えてみたことは何度かあるんですけど、それはきっと才人やルイズを初めとして、アンリエッタやシエスタ、もちろんタバサやキュルケ、あるいはギーシュやマリコルヌ、果てはコルベールや名もなき一度きりのキャラクターまで、妙に人間くさいからなのかな〜なんて思うんですよ。彼らは確かに単純な仮面を被って描かれますけど、じっくりと眺めていると時々少しだけ本当の顔――とても複雑で分かりにくい――を覗かせるように思うんです。
・・・例えばですが、このシリーズの序盤でアンリエッタがやらかした身勝手な行動や、その後の才人との騒動とかを思い出して、さらには最近の彼女の行動を見て、この最新刊を見ると・・・不思議とちゃんと成長しているように感じるから不思議です。
アンリエッタという女性は瞬間瞬間で見たらみっともなかったり、卑怯なように見えるかも知れませんが、ずっと見ていると決してそれだけのキャラクターじゃないことに気がつきます。もちろんアンリエッタだけではなく、実はみんな狡くって、みっともなくって、卑怯で、身勝手で、臆病で・・・そして勇敢。そんな風に思えるのです。
昔は確かに馬鹿だったでしょう。今も馬鹿かも知れません。でもその「次」が、あるいは「明日」が、彼らの向こう側に透けて見えるのです。ライトノベル的ご都合主義に乗せて。
きっとそんな期待をさせる「何か」に惹きつけられて、みんなこの話を読むんでしょうね。

総合

星・・・4つ、いや・・・5つにしちゃおうかなあ・・・。
この話はいわゆるライトノベルステレオタイプという感じの作品なんですが、それでもその枠からどこかしら足を踏み外している感じがして、とてもいいんですね。

「やれよ。やりたかったら、やれ」

私は、才人にこう言わせるこの物語のとても人間的なところが好きなのです。
神への道が開かれるかも知れない。あるいは煉獄へと続く道が拓けるのかも知れない。でもそれを望んで選ぶのは誰あろう自分自身に他ならないはずだという・・・罪と罰は神や悪魔に仮託して受けるものではないはず。それが人間らしさなのではないでしょうか。
薔薇のマリアの言葉じゃないですが、「愛して、憎んで、生きて、死ぬ」。そう言う姿こそがとても人間の、ひいてはこの話の素晴らしいところだと思います。

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