誰かのリビングデッド

ストーリー

プラスは、パン屋の住み込み従業員として働く15歳の少年だ。
今でこそ店の主人に可愛がられて不自由の無い暮らしを送っているが、それまでの暮らしは波乱に満ちたもので、一時は完全な孤児としてその日暮らしの悲惨な生活を強いられていたりした、結構苦労人の少年である。
まあそんな過去はともかく、プラス少年は今日も今日とてパン屋の管理する畑で野菜の世話に精を出しながら、地道な暮らしを送っていた。もちろん暮らしに不満は特にない。パン屋の一人娘(25)のフリーは美人だし・・・。
しかしある日のこと、いつものように畑で土仕事をしていると・・・地面の下から人間の足が出てきてしまったのだった。最悪に不気味なものを掘り当ててしまったプラス少年だったが、そのままにしておくことも出来ない。仕方なくその人間(間違いなく死んでいるだろう)を掘り出してみると・・・。その死体は元気よく

「あ、どうぞお構いなく」

などと口走ったのだった。一見人間と変わらない(顔色は悪いが)その死体は、自分の事をデルと名乗ったのだった。
「ドラゴンキラーあります」シリーズで人気を博した作者による、新シリーズの1巻です。

えー

なんでこのシリーズに今まで手を付けていなかったかというと、その存在を知らなかったという非常にシンプルな理由によるものだったりしまして、つい先日本屋にてこのシリーズの1巻を発見(2巻が発売になっていたのでそれど同時に再入荷したのか?)、即ゲットという流れだったりします。
どうせだから電撃あたりと同じ場所に陳列してくれねーかな〜なんて思ったりもする昨今です。

ところで

本編ですが、ん〜、この話一冊通してシリーズの導入という感じですね。
しかしそうは言ってもキャラクター描写に定評のある作者ですから、ストーリーの動きこそそんなにはなくとも十分に楽しませてくれます。

「あの、あの、フリーさん」
「ん、美少年」
「はぁ?」
「美少年」
「はぁ」
「良いわ。すごく」
「はぁ」
何やらくんくんと匂いを嗅がれた。

突然変なところを引用しましたが(匂いを嗅がれているのはプラスです)、パン屋の親父は頑固一徹な強烈親父ですし、その一人娘も変人入ってますが実に魅力的です。
ちなみにこのパン屋のパン、武器としても使えそうな強烈に固い代物でして(本編とは余り関係ありませんが)、それは店の親父の信念の産物でもあります。

店長曰く、
「健康のために決まってんだろ。根性なしの軟弱なパンを食わせたらがっついちまうだろうがよ。飯ってのはゆっくりしっかり食うもんだ。がっついちまったら量食っちまうから胃もでかくなるし、そうすりゃ太る。パンに根性が入ってりゃそんなことも無えからな。ついでに言えば、顎鍛えると頭良くなるらしいじゃねえか。ほら見ろ。パンに根性が入ってるだけで至れり尽くせりの言うこと無しじゃねえか」

・・・口の悪い親父書かせたら一級品ですな、この作者。

主人公の少年のプラスですが、その出自こそよろしくはないですが、誠実で人の良い少年です。
何故か畑から掘り出すことになってしまった新鮮で礼儀正しい執事然とした死体のデルを、

「ご迷惑ではありませんか?」
「関わっちゃったからね。良く分かんないけど、これが縁って奴だと思うし。だから最後まで面倒見るよ」

こんな風に対応してしまう少年です。
・・・ちなみにプラスの苦手なものは暴力全般と、パン屋の常連のナムという一つ年上の美少女です。
えーナムも元気いっぱいの少女なんですが、口数が多いのでそのセリフの引用はしません。大変だから。でもまあ高いテンションで物語を引っ張ってくれるキャラクターであることは間違いなくて、中々に魅力的ですね。

話の方は

一転二転としまして、導入からは想像もつかないような展開をしていきますが、なんというか無茶苦茶にならないように上手くまとめ上げているという印象を持ちましたね。強引だと感じる部分はありましたが、それでも見せ方が上手いのでしょうかね。余り違和感を感じずにするすると読めてしまいました。
でもラストの展開では、

「むふぁ〜! そうきたか〜!」

ってなりましたけどね。

総合

星4つかな?
最初からシリーズ化することを念頭に置いていたのかラストシーンは微妙に締まらない印象を持ったりしましたが、ストーリー展開がどうこうより、魅力のあるキャラクターの物語を追いかけていること自体が楽しい作品ですかね。
勤労少年プラス、執事然とした死体デル、元気な少女のナム、頑固親父、変人美女フリー・・・とにかく読んでいて飽きさせません。
現在2巻も出ていることですし(ちなみにもう入手済みだったりします)、次の展開が純粋に楽しみですね。
ところで裏表紙に出てくる謎の骨を被ったキャラクターが可愛いですね。なんというか、イメージイラストでしょうか? あ、そうそう、口絵のカラーイラストこそ何故かおっかない骨のイラストですが結構しっかりした筆力で魅せてくれますし、それは本編内の白黒イラストでも同じ事がいえますね。良い感じです。

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