BLACK BLOOD BROTHERS (S)(6)

BLACK BLOOD BROTHERS(S)6 —ブラック・ブラッド・ブラザーズ短編集— (富士見ファンタジア文庫 (あ-2-4-6))
BLACK BLOOD BROTHERS(S)6  —ブラック・ブラッド・ブラザーズ短編集— (富士見ファンタジア文庫 (あ-2-4-6))あざの 耕平

富士見書房 2008-10-20
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ストーリー

月が、冴え冴えと輝いていた。
その夜の女神の光は、生きとし生けるものにあまねく降り注ぐ。赤い血を持つ生き物に、そして——黒い血を持つ生き物にも。ここは特区。世界で唯一人間と吸血鬼が共に歩んでいる奇跡のような街。
この話はその特区のある日々を「愛」を合い言葉に切り取った物語。
BLACK BLOOD BROTHERS、最後の短編集です。

いやあ

正統派で来ましたね、というのが最初の感想でしたね。
この短編集で切り取られている時間は本編でいうところの6巻のちょっと前の時間ですね。ジローやコタロウはまだミミコと一緒に街で暮らしていて、九龍の一族の侵攻が本格的に始まる前の話です。
嵐の前の静けさという訳でも無いのかも知れませんが——もし、大海の大波の中に漕ぎ出した旅人が振り返ったとするならば、この日々はまるで満ち足りた波止場の優しい夜のように感じるに違いありません。
それはしかし、もちろん何事もないという事ではありません。白刃が煌めき、牙が疾る——しかし、穏やかな日々なのです。

私としても

感慨深く読んでしまいましたね。
我々は彼らに待ち受ける激動の日々を知っている訳で、これが最後の休息だと言うことも知っている訳で・・・いつまでも続けばいいのにと思う傍らで、最高潮に達しつつあるドラマの終着点を求めたりしている。貪欲ですねえ、読者は。
そうそう、この話は「S」のつく短編集扱いになっていますけど、実際の所は短編ではなくて一つの続き物の話です。特区を訪れる一人の古血(オールドブラッド)。ジローの事を知っていて、さらには「カンパニー」から離れたミミコを頼ってやってきた一人の女性。そして彼女を追うようにして現れる暗殺者たちの蠢く話でもあります。
でも、「愛」の話なんですね。どんなに血なまぐさくても、この話は愛の話なのです。

本編に

こんなセリフが出てきます。

「その通りよ。あなたはわたしを愛しているの。わたしがあなたを愛しているように」

なんだかよく分かりませんが・・・読者の作品の関係を何となく思い浮かべてしまいました。私がこの物語を愛するように、この物語にも私という読者を愛して欲しい。そんな風に思ったからです。
私は多分もうこの話に対して失望とかすることは無いのかも知れませんね。完結さえしてくれれば。愛って、きっとそういうものなんだと思ったりして・・・。

ところで

今回も例の書き下ろし短編がついているんですが、いやあ、凄いですよ今回は。

「どれ、ひと口囓ってみるか」

まあなんというかいつも通りのカーサの気まぐれというか、退屈しのぎというか、退屈だからキスでもしましょうというセカンドチルドレン的な何かの結果、まさしくその最中をアリスに目撃されてしまうという——え〜、人間で言えば愛人と一部合体中に奥さんが帰ってきたというか、そんな感じ?

「それで——」
と、あくまでも笑顔のまま視線を手元の紅茶に落とす。


「——いつからなの?」

ひっ、ひいいいいいいいいぃぃぃぃいいいいぃぃぃぃいい・・・・!
なんつっても100年分の疑惑ですからねえ・・・! 読者としてはカーサ→ジローが結構微妙な関係だと言うことを知っているので、この笑顔の質問は鬼のように怖いです。
さて、この浮気疑惑の行き着く先は一体どうなるんでしょうかね・・・って思ったら、おやおや、意外なところに・・・。

総合

星4つかな?
やっぱり本編と比べるとドラマ性という意味でどうしても見劣りしてしまうんですが、それでも十分に面白い。相変わらずというと語弊がありますが、ジロー、コタロウも、ミミコも、ケインも、セイも・・・とにかく特区の面々が実に元気よく動き回ってくれます。
上でも書いているとおり書き下ろしも読み応え抜群だし、不満らしい不満は無いと言っていいですね。
しかし・・・この話があと長編一冊で終わりかと思うと、どうしても惜しくなってしまいますね。いや、幕引きには悪くない時期だとは思うんですよ? それでも別れが惜しくなってしまいます。こういうシリーズにあとどれだけ出会えるかなあ・・・。

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