狼と香辛料(10)

狼と香辛料〈10〉 (電撃文庫)
狼と香辛料〈10〉 (電撃文庫)支倉 凍砂

アスキーメディアワークス 2009-02
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おすすめ平均 star
star起承転結が掴みづらいペースな話
star相反するもの
star新たな展開があるけれど、どこに行くかはまだ分からない

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ストーリー

港町一つを揺るがした騒動をなんとか乗りきったロレンス一行は、その足を海の向こうへと伸ばしていた。
船に乗り海原を越えてまで目指したその先に待っていたのは・ウィンフィール。雪深くつつまれた王国であるそこには、あの聖遺物である「狼の骨」があるという・・・。ホロのためにその噂を追って島に辿り着いた一行は、聖遺物を持っているであろう大修道院ブロンデルが意外なほどの経済的な窮地に立たされていることを知る。
そしてウィンフィール王国には現在、修道院の持つ資産を切り取らんと群がる商人の姿が街にはあったのだった。その名もルウィック同盟。各国に名をとどろかせる経済同盟である。
ケルーベの街ほどではないにせよ、緊張感を漂わせた街で狼の骨の情報を手にするべく動き出すロレンスだったが、事態はやはりそう簡単に進むはずもなく・・・?
狼と香辛料シリーズの最新刊、出版時期に合わせたか、雪深い島国を舞台にしての一篇となります。

今回は

意外にスロースタートでしたね。
序盤から中盤にかけては色々な出来事が起こりつつもちょっと「当事者意識に欠ける」出来事が中心で、緊張感という意味では前の<対立の街>に劣りますね。まあ逆に言えばそれだけ前巻が刺激的だったと言うことでもありますが・・・。
しかし、中盤に「ある事実」が明らかになることによって、ロレンスは本来他人事であったウィンフィールとブロンデルでの出来事に深く足を「踏み入れざるを」得なくなるのですね。
この辺りが実に上手いなあ・・・なんて思いました。

その理由というのが

これですね。

「お前は、この……心優しき風変わりな人にすがりつく。私は、同じように神にすがりつくだけだ……」
「わ、わっちはっ! 別に……わっちは……」

あの賢狼ホロをここまで動揺させる出来事が起きてしまうのですね。そうなるともうロレンスの道行きは決まったようなもの・・・というのは読者だったら予想の範囲内ですけどね。

しかし

しみじみと思ったのは、本当にこの本に出てくるキャラクター、とりわけホロというキャラクターの引き出しの多さ、というか奥行きの広さですね。何しろ動揺を一つするだけで物語を大きく動かす力があるんですから。
というかこの本を買わせる「あと一押し」がもし必要だとしたら、上の引用だけで十分なんじゃないですかね〜なんて思ったりしました。ホロの見たこともない顔が見られるんですよ。ほ〜ら、読みたくなってきた・・・でしょ?

総合

星4つかな。安定感抜群という感じです。
しかしいよいよ物語も逼迫してきましたね。ここまで来て遂にヨイツに関する重大な情報も出てきたっぽいですし、今後の展開もやっぱり要注意です。というか自然と続きも買ってしまうんでしょうね、この本。
今回の儲けは一体どの位なのかちょっと分かりませんでしたが、ロレンスの懐も(作者の懐も?)話が進むに従って潤っているに違いありません。でもやっぱり次が読みたいと思えるような話を安定して作ってくれるのは嬉しいものですね。
しかし・・・今回は羊の話再び、という感じだったので、2巻に出てきた羊飼いのノーラを思い出すのと同時に、ついつい「ばけらの!」の一節を思い出してしまったのは・・・多分私だけじゃあないはず・・・ですよね?

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