イスノキオーバーロード

イスノキオーバーロード (一迅社文庫)
イスノキオーバーロード (一迅社文庫)貴島 吉志

一迅社 2009-05-20
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おすすめ平均 star
star羊の皮を被ったロリとメイドと暗喩

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ストーリー

サングリア商王国と呼ばれる国があった。そして平穏に治められたこの国に一組の兄妹が仕えることとなった。兄の名はスティロス。妹の名はユスハ。兄は剣士として姫の護衛を、妹はメイドとして姫のお世話を、それぞれ国の中枢とも言える部分で働くことになったのだった。
しかし、仕え始めてから徐々に分かりはじめるこの国の中枢の不可思議さ・・・それは仕えるべき姫であるヴェセルの奇妙な行動や言動にも現れていた。なにしろ姫に仕えるべく城塞に急いでいたスティロスが出くわしたのは、ヴェセルが城塞の窓から飛び降りた場面だったのだから。
奇妙なのはそれだけに留まらない。サングリア商王国から「出土」する数々の現代技術を越えた奇怪な「オーパーツ」。かつて人々は空からこの大地に降り立ったのだという伝承――。兄妹はヴェセルに仕えていくうちに、忠誠心を育みながらこの奇妙な国と姫に深く関わっていくことになるのだが・・・という世界観で語られるファンタジー作品です。

ちょっと特殊な

キャラクターの関係性はなかなか楽しいですね。
姫でありながら随分と無防備で我がままで甘えん坊・・・なのに知的で健気で義務感に溢れている姫・ヴェセルがまず魅力的で、そのヴェセルと関わることになるスティロスとユスハの描写がいきなりボーダレスな感じで面白いです。
まずスティロスですが、窓から壕に飛び込んでいきなり心肺停止状態になっていたヴェセルを助けるべく、色々とした結果、ヴェセルに罵倒されまくりですね。

「こいつはあろうことか一国の姫の唇を奪って! あまつさえ服まで脱がして! あんなこんな! あんなこんなヴァー!」

こんな姫と臣下の出会いがあるもんか? と思いつつもその後の展開もちょっととんでいます。

「君が、姫? 何をいっているんだ? 姫というのは、もっとおしとやかで可愛くて……ああ、確かに可愛いかと言われたら可愛いかも知れないな」
「ちょっ……な、な、何をそのような――」
「だが、可愛いだけで、他の何もかもが足りないし、そもそも伴ってないじゃないか。ええと、なんというか、その……なんだ?」

ヴェセルがトンデモ姫なら臣下になる予定(これは出会いの1シーンですから)のスティロスもどこか外しているというか・・・そんな関係がちょっとユルユルで面白いです。

兄が兄なら

妹のユスハの方もヴェセルに対する接し方がとんでいますね。

「おでこちゃんもぷにぷにしてそうで、とっても可愛いですね」
「ばっ、は、話をそらすでない」
「おでこどうしてすりすりっ」
「や、こ、こら、やめんか、ユスハっ」

イヤといいながらユスハにすっかり懐いてしまっている(ちなみに姫に仕えたのはユスハの方が一ヶ月早い)ヴェセルが可愛いですね。姫なんですが、姫らしいところがない・・・という感じから話がスタートします。

が、話が進むと・・・?

実際にはヴェセルがかなりの重責を背負わされていると言うことが分かってきます。
サングリア商王国に隠された古代技術の遺産を保護するために、ヴェセルがそれこそ血の涙を零しながら日々を過ごしていることが明らかになってきます。そしてそれを狙う敵の多さも。結果として必然的にスティロスもユスハもその闘争の日常に巻き込まれていくことになります。
しかし、一本気で裏切りを少しも感じさせない兄妹の姿は読んでいて安心感を与えてくれますね。また、ヴェセルの周囲を固める臣下も信頼の置け、かつ有能な人物ばかりで色々な側面からホッとさせてくれます。

ただし

話のタイトルにもなっていますが「イスノキ」という謎の存在に纏わる世界設定をうまく生かし切れていないという感じがありますね。
説明はされているんですが、その説明が下手というか・・・ある意味でこの話はSFチックなところがあるんですが、その辺り設定とファンタジー設定の融合が上手くいっていないというか・・・見せ方が下手、という感じがします。
超技術によって色々と不思議な出来事が起きたり起こしたりするんですが、それに関する具体的な説明というか・・・分かりやすく納得できる説明が欠けているので、読んでいる側としては「とりあえずそういうもんなの?」という位にしか設定を飲み込めません。
この辺りがもう少し上手くいっていれば・・・あるいはもう少しページを割いて小出しでも情報を整理してくれたりすると良かったかも知れません。

総合

星・・・3つかなあ・・・。
キャラクターなどの見所は十分ありますし、今後面白くなっていく可能性もプンプン感じますが、現時点では星3つ以上は付けられないといったところでしょうか。
全体的な印象としては・・・うーん、ページ数が足りない? そんな感じを受けました。キャラクターの描写に文字を割いた結果、世界観に関する説明が放置気味になって、ちょっと食い足りないというところですね。
ただ、ヴェセルとスティロスの仄かな恋のような、あるいは本当の兄妹のような関係は見ていて微笑ましいですし、同じようにヴェセルとユスハの関係も楽しいです。姫と護衛の戦士、姫とメイド・・・立場は全く違う二組の組み合わせですが、その関係は心地よいですね。
まあとにかく今後に期待というところなんでしょうね。うん、そんな本でした。

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