ゼロの使い魔(17)黎明の修道女

ゼロの使い魔 17 黎明の修道女〈スール〉 (MF文庫J)
ゼロの使い魔 17 黎明の修道女〈スール〉 (MF文庫J) ヤマグチノボル  兎塚エイジ

メディアファクトリー 2009-06-25
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ストーリー

ルイズが失踪した。それは才人とアンリエッタの秘められた想いを見抜いてしまったから・・・。
そして才人はと言えば、ルイズ失踪の現実と、大切なもう一人の友人がいなくなってしまったことに落ち込みまくっていた。それはもう盛大に落ち込んでいた。自分一人では立ち上がれないという事に気がついてしまったから・・・。
しかし微妙なパワーバランスの上で成り立っている現在のハルキゲニアにおいて、「虚無」の使い手であるルイズを失う事は国家単位の一大事である。アンリエッタは即座にルイズ捜索を指揮するのだが、その結果は芳しくないものだった。何しろ何処へ行くつもりなのか、どうするつもりなのかというのが全く見えない相手の捜索するには、この世界は広く、また情報の伝達も半端に過ぎたのだ。
一方渦中の人であるルイズと言えば、ある一人の危険な匂いのする女性と出会っていた。その名はジャネット。ルイズは親しくなった彼女に導かれるようにして国を彷徨うのだが・・・?
前作の平穏が嘘のように緊張感を増しつつある人気シリーズの・・・おお! もう17巻か!? という最新刊です。

とにかく

読んでいて感じたのは、前作が恋することの楽しさと素晴らしさ、あるいは喜びといったものに焦点を当てていたとするのであれば、今作でクローズアップされるのが恋することの辛さとやるせなさ、または苦しみと悲しみといった負の部分に視点があるというところでしょうか。
もちろんこの作品はゼロの使い魔なので、バカみたいにシリアスにはなりきらないのですが、それでも久しぶりに離ればなれになったルイズと才人の心にわだかまる想いは決して楽しいとは言えないものばかりです。

”最低だ”
才人は心の中で呟いた。
”俺は最低だ”
そう思いながらも、目の前の女性に惹かれる自分が、才人にはゆるせなかった。

”当然だわ”
ルイズは、そう思った。
”虚無の担い手などと言われながら、わたしはほとんどそれに値する仕事をしていない。いつも足を引っ張ってばかり。おまけに随分と才人を困らせることもした。愛想を尽かされるのも、当然だわ”

恋とは誤解と錯覚との戦いと言ったりもしますが、想いはお互いに強く相手に傾けているのに、それでも歯車が一つでも狂ってしまうとそれを止める手段が無く、どこまでも負のスパイラルに落ち込んでしまう・・・恋の渦中にいる時には良くあることですね・・・。

でもこう言ってはなんですが

こういった恋のマイナスの側面をライトノベルの枠組みから大きく逸脱しない程度に書いてくれるから、この作品が好きなんですよね。
ルイズにとっても才人にとっても、これはいつかは乗り越えなければいけない壁だったのだと思います。楽しいことばかりではないのが恋であるし、シリアスになりきらなくても辛い思いばかりするのが恋です。それが素晴らしく、またもの悲しいところなのですが。
”相手は自分のことを本当はどう思っているのだろう?”、”私は相手のことを本当はどう思っているのだろう?”
恋とは結局の所それをひたすら繰り返す自問自答の季節でもあります。報われた時には天にも昇るような気持ちになり、裏切られたときには地の底に落ちたような気持ちになる・・・。心の揺れ幅がとにかく大きいのですね。ま、それが私くらいの年齢になると「イイナア・・・若いって」とかになる訳なんですが。

ところで

ストーリーの方はルイズの失踪と才人の焦燥という二本の柱で語られるのですが、もちろんそれだけではありません。
虚無の使い手を取り巻く陰謀は着々と進行しているというのが本当のところでして・・・今までも色々とうさんくさいこと限りなかったあの糞イケメンであるところのジュリオと、その背後に存在する教皇ヴィットーリオの画策する野望が、見え隠れし始め、それは意外な形で現実に近づいていきます。あの決意を強く持っていたはずのタバサをも巻き込んで・・・。
・・・なんというかこう率直にジュリオとかがムカつきますね。何が許せないって言うとちょっと分かりづらいかも知れませんが、「圧倒的優位に立った状態に自分を置いて、その上で人の心を利用し操ろうとするその姿勢」が非常に気に入らないのです。
目的のために無垢な相手の心すら冷徹に分析して利用する彼らの姿は、どこまでも醜い血の通わない大人の論理ではないでしょうか。特にこの巻ではルイズと才人が心の傷から血を流しているような展開ですから、ジュリオたちの冷めた態度がより醜く見えるのですね、きっと。・・・このあたりヤマグチノボルは実に見せ方が上手いですよね・・・。

総合

星4つ。
難しく考えなくとも十分楽しめる作品ですが、難しく考えても十分楽しめる作品となっているところが絶妙です。
バカらしいところは相変わらず多々ありますが、それでも締めるところは締める。物語としてもそうですが、男女の心の微妙な襞までも描いているこの作品は、なんだかんだといいつつも希有な作品なのではないかと思います。ラストシーンのルイズの心の内の描写なんて、まるでライトノベルではないかのような見事なものですよ。
さて、動き始めた陰謀にルイズと才人がどう対処していくのか今後が非常に気になる所ですね。囚われの身になってしまったもう一人の重要人物もいますし、いや本当にどこまで続いていく物語なんですかねえ・・・。今後も期待して待ちたいところです。

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