カラミティナイト ーオルタナティブー

カラミティナイト-オルタナティブ- (GA文庫 た 6-1)
カラミティナイト-オルタナティブ- (GA文庫 た 6-1)高瀬彼方  ひびき 玲音

ソフトバンククリエイティブ 2009-01-15
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ストーリー

中学時代を不登校で過ごした少女・沢村智美は、高校生になって生活を一変させるべく努力し、めでたく私立榛名学園に入学することが出来た。
引っ込み思案で地味な智美は中学時代には親しい友人の一人もいなかったが、高校入学早々に出来た陽気で元気な友達・櫻井優子に引っ張られるように新しい生活に馴染み始め、高校での毎日は上々の滑り出しを果たしたと言えそうだった。中学時代の慰めと言えばWeb上で公開している自作オリジナルのファンタジー小説のみ。そんな状態から智美は遂に抜け出ることが出来たのだ。
そうして新しい日々を送っていた智美だったが、ある朝通学電車の中で一人の美しい少女と出会うことになる。優雅な金髪、透き通るような碧眼を持ったその少女は偶然にも智美と同じクラスに属することになったのだった。少女の名はホリィ・ブローニング
智美は自分の書いている小説の登場人物のイメージにそっくりで、しかも孤独な雰囲気を湛えたホリィに惹かれるものを感じていたのだが、噂によるとホリィは「呪われた女」なのだという・・・。
という感じで始まる学園異能ストーリーの1巻です。

な、なんて

感想を書きにくい話なんだろうか・・・というのが現在の心境だったりします。
いわゆるステレオタイプなキャラクターを登場させて取りあえず話を牽引するというのがありますが、そうした言わばライトノベルではありがちでお約束じみたことをこの作品では一切やっていません。主だった登場人物は上のストーリー部分に載せた3人なのですが、その内面や行動が丁寧に丁寧に描かれていくことになります。
なんというか物語を非常に繊細に扱っているという印象を受けましたね。読み進めていく上でライトノベル的な分かりやすい楽しさは無いのですが、キャラクター描写が丁寧かつ魅力的なので、ついついページをめくってしまう・・・という不思議な作品に仕上がっています。

結果として

メインキャラクターが非常に魅力的ですね。
記号的ではなく人間的な丸みをしっかりと帯びた3人の少女達に対しては、いわゆる萌えだとかいう印象を受けることはあまり無いんじゃないかと思いますが、それを補って余りある魅力があります。派手さは無いので目を引く感じはないのですが、質実剛健とでも言うべき良さがありますね。
ある意味で現在多く出版されているライトノベルとは正反対の位置につけているような作品じゃないかと思います。なんというか・・・一般文芸作品とライトノベルの中間に位置するような作りですね。熟練の職人の仕事に感じるような作品構成の妙もあって、楽しい本に仕上がっています。

しかし

残念なのが・・・ページ数が足りないことですね・・・。
一般的なライトノベルではさっさとやっつけてしまう部分で手を抜かない結果として、物語が大きく動くのは終盤になってからという事になっています。それまでの展開がつまらないと言うことは無いのですが、手軽かつ刺激的なものを求めがちなライトノベルの読者層からすると、スロースタート過ぎるかな?。
個人的にはこの作者に最低10冊くらいの長編を書かせてみたいという気がしますね。その点だけがとても勿体ないという印象を受けました。続きさえ順調に出版し続けることが出来て、巻数を重ねれば確実に面白くなるであろう作品だと思うのですが、そこまでもってくれるのか・・・? という不安感が頭をもたげてしまいました。

総合

でも面白い、星4つです。
思春期の少女達の複雑な心の動きや、彼女たちの心を揺り動かす出来事などをぼかさず逃げずに描いているところは非常に好感触でしたし、話の進め方も隙が無いです。上でも言いましたが職人の仕事ですね。
これでもう一つ爆発力を持った”何か”があれば星5つまで行ったと思うんですが、序章という印象もあるので星4つになっています。現時点で2巻が出ているところまでは確認していますので、とにかく続きを読んでみたいと思います。
あ、あと個人的に残念に思ったのが、イラストでしょうか・・・。上手いと思うんですが、なんというか女性向けの絵柄なんですよね・・・コバルト文庫とかそっち方面の。特に表紙と口絵カラーイラストでその印象が顕著だと思います。
そのせいでこの本自体が「少年と少女、どちら向けの作品なのか」が分かりにくくなってしまっている感じがします。まあ読んで見るとどちらでも読める作品になっているんですが、もうちょっとあざとい位にやった方が手にとってもらいやすかったんじゃないかなあ、なんて思いました。

感想リンク