円環少女(11)新世界の門

ストーリー

円環世界の謎。メイゼルが地獄に堕とされたその理由。そして暗躍する《協会》の主流派である《九位》が何者なのか。そうした謎がメイゼルの告白によって全て明らかにされた。メイゼルが戦い続ける理由も、その舞台から決して降りない理由も。
武原仁は今や《公館》の《鏖殺戦鬼》ではなくなったが、《沈黙》と呼ばれたその力が失われたわけではない。《刻印魔道師》であるメイゼルと《鬼火衆》を引き連れ彼らの新しい生き方を見いだすために、銃を手に取り血路を開こうと苦闘する。結果として欧州を根城にする《連合》と日本政府、そして《公館》の会合は一定の成功を収めるが、それは大きな代償を支払う結果となった。
倉本きずな。最後の再演魔道師。そして――例え綺麗事であったとしても仁が手を汚させまいと守ってきた少女。その手が血で汚れた。今まで仁を人殺しと罵ってきたきずなが、同じその罪を背負ったのだった。そして最早覆す事の出来ない現実の前で仁ときずなはさらなる過酷な選択を迫られる。それはさらなる煉獄への道だった。
そして冗談のように日本近海の海上に姿を現した島と、そこからメディアを通じて全世界に魔法使いの存在を公にした王子護ハウゼン。それをきっかけとして激しく火花を散らし始める各国の思惑と、《九位》達が用意した核による《悪鬼》の殲滅作戦――。猶予は既にどこにもなく、踏み出したその一歩が戦場であり、手を差し伸べたその先が火薬庫と化した。
間違いなく一つの転換点となる11巻です。

一冊読み進めるたびに

もうこれ以上の危機的状況なんて起こらないだろう・・・と思うんですが、その予想を毎回裏切ってくれるこの物語には本当に驚かされてばかりです。冗談のような前巻の引きがありますから、その後の展開の予想なんてほとんど不可能なんですが、だからといってこうなるとは思ってもみませんでした。
表紙に描かれているのは、いつも通りのメイゼルと・・・銃を持った”誰か”です。本気で最初これが誰なのか分かりませんでした。真剣に新しい登場人物の一人なのだろうとか思いましたが、違いました。前巻がメイゼルの覚醒編だとしたら、本作はきずなの覚醒編なのです。
”卑怯者”でありながらも、唯一人間としての正しい良心を持った「ただの家庭的な少女」であるきずなのその手に一番不似合いなものが握られることになりました。そしてさらに皮肉かつ悲劇的な事に、その繰り出される一撃は常に必殺なのです。
メイゼルにせよきずなにせよ仁にせよ、彼らを襲う運命の奔流はいつも彼らの気持ちや都合を斟酌してはくれません。何かを守るために――いや、最終的にはただ生き残るためだけに戦う事を余儀なくされ、そして彼らは血煙を生み出す事になるのです。一人が生きるために百人をすり潰し、十人が生きるために千人を吹き飛ばす・・・そこにはヒーローもヒロインもいません。善と悪もありません。
血を流さずに済む”落としどころ”を常に求めながらも、それは決して見つからない。ここは《地獄》。神に見捨てられた世界。

流石に

読み終わったときには疲労を感じました。
能動的に「読んでいる」はずなのに、その時の気分と言えば「されるがまま」の一言になってしまうのです。気がつけば物語に押し流されて、いつのまにか読ませられている・・・そんな不思議な感覚を持つ事になりました。目まぐるしく変化する状況、一瞬後には変わっている世界、避ける事の出来ない覚悟、生と死――それらが渾然一体となって同時進行でやってくるのです。物語に呑まれるなという方が無理な話でしょう。
そして、勝利条件の見えない戦いは泥沼を生み出すのだという事がこの物語を読めばイヤという程分かります。多重に重なり合った思惑の前にはいかなる魔道師であっても千里眼ではいられない。一瞬一瞬、今を生き延びたらその次の瞬間を生き延びる――常に先を読みながら走っても、決して先回りが出来ない鬼ごっこを運命を相手にやっているような気分です。厭世的な気分に捕らわれて立ち止まったらその時が死の時となるという過酷な「死のロングウォーク」です。
円環少女」は間違いなくライトノベルのはずですが・・・正直に言って既に「何物とも言えない」存在になってしまっていると思います。善も悪も無く、迷宮の出口はいつまでも見えない。「何故」と問うな。ただ行動せよ。物語を貫く現実はひたすらに苛烈です。

もちろん

息抜きもあるんですが・・・これがなかったらこのシリーズはどれだけ殺伐とした物語になっていたでしょうか。

「お兄ちゃん、ごはんのときはおっぱいを見ない」
「見てないだろ!」
「せんせ、おぎょうぎ悪いからおはしを動かさない。せんせのおはしは、どうしておっぱいのほうを向くの?」
「おまえら変に意識しすぎだ。メシ喰ってる最中だぞ」
朝のうちに運動でもして一汗流したのか、全裸のセラの白肌には玉の汗が浮かんできらきら光を照り返していた。
「服など着るから疑心暗鬼に陥る。いっそ全員脱いで白黒つければよいのだ」
「みんなで脱がなくても、武原さんだけ脱げばはっきりします」
「きずなちゃん、疲れてるんじゃないのか」
微妙にことばの途切れた中、エレオノールだけが無罪だった。
「……どうして黙るのですか、みなさん」
「ここまで言われてなぜ脱がない。《沈黙》よ、おまえは、今、人生の晴れ舞台を迎えているのだぞ」

・・・これだもんなあ! 上の会話、仁以外は全員うら若き乙女という正直言って羨ましくなるような状況なんですが、なんでこうまで変態指数が高いのでしょうか!? セラがおかしいのは今に始まったことじゃないのでもうどうしようもないですが、仁が脱げばはっきりすると言い切るきずなは仁を脱がしてどこを確認するつもりなんでしょうかね?
唯一の救いはエレオノールが相変わらずな所くらいですが、彼女は彼女でこっち方面以外で色々とダメな匂いがプンプンだという事が徐々にはっきりしてきていますし、この後合流する神和瑞希も戦闘では超一流ですが頭が非常に残念です。
・・・ああ、中年の星ケイツ? もちろん11巻も絶好調ですよ。逆噴射的に。

総合

うひー!星5つ。
もう余りにもてんこ盛りなので感想を書くだけで大変極まります。この感想も実はもう3時間も書いているのですがまだ終わりません。書いては消し書いては消し・・・あの表現は上手くないこの言い方はおかしいとか考え出すと、いつまでたっても終わらない夏休みの宿題をやっているような気分になります。誰ですかこんな作家をデビューさせたのは。
しかもラストシーン近くではこの「円環少女」世界を文字通りひっくりかえすようなもの凄い出来事が待っています。誰かが死ぬとかどの勢力が壊滅するとかそんなものじゃありません。そんな事をやってしまって本当に大丈夫なのか心配になるくらいです。あとがきによると遂にクライマックスに突入するとの事ですが、今までもクライマックスだったと思います。というか今までがクライマックスだと思っていなかったのはきっと作者の人だけです。本当に誰ですかこんな作家をデビューさせたのは。
ところで絵師の深遊氏ですが、いいですね。特に223ページの一枚は鬼気迫ります。197ページの一枚も別の意味で鬼気迫りますが・・・いい絵ですね?

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