レンタル・フルムーン <第二訓>良い関係は良い距離感から

ストーリー

自分にとっての大事な事を「人生教訓メモ」というもので残しているちょっと変な少年・桐島新太。彼が偶然街で見つけた貸本屋「満月堂」に入り浸るようになり、そこの主・満月ツクモの秘密の仕事を手伝うようになってからしばらくの時間が経っていた。
満月ツクモの秘密の仕事。それは世界のほころびである「パンドラ」と呼ばれる存在を観測して本の形で記録し、この世界を治める神さまに提出する「観測者」という役割のことだった。・・・限りなく怪しげなのだが、ツクモのこの仕事が滞ると世界が滅んだりするらしい。ツクモに緊張感はゼロだったが。
今回の事件はしばらくの間パンドラが見つからない日々が続いた後にやってきた。ある場所で大きなパンドラを発見したので回収作業に勤しんでいたところ、ツクモの仕事に横やりを入れてきた別の観測者がいたのだ。本来ならいるはずのないツクモ以外のその観測者は、いきなりツクモに対して宣言したのだった。

「一週間のうちにパンドラを多く記録した方が、この街の『観測者』になるという勝負をしませんか?」

やる気があるんだか無いんだか分からない、才能はどう考えても無いと見た方がいい、そもそも自力でパンドラが見つけられない・・・というツクモに対しての堂々たる宣戦布告。勝ち目のなさそうな勝負に頭を抱える新太だったが、幾つかの行き違いが起こったことによって新太とツクモの心は少しずつ離れていってしまって・・・?
という感じの展開をするシリーズ2巻ですね。

すっきりしてますな

中高生あたりの少年が主人公になるライトノベルで複数の少女から好かれたりするのは珍しくない、というのはご存じだと思いますが。
それに加え、主人公の少年は少女(たち)の気持ちに対して都合良く鈍感だったり、あるいは適度に優柔不断だったりして、結果としてのらりくらりと女の子たちの間をフワフワ漂っているという話をよく見かけます。が、このシリーズではそういうハーレム要素を綺麗サッパリ捨てているところがちょっと物珍しいというか、良い感じです
何故かというと、主人公の桐島新太が「満月ツクモが好き」という事に自覚的だからですね。でもまあ・・・そうは言ってもまだまだ色々と気持ちが定まらないお年頃なのも事実なので、ちょっと可愛い女の子とベタな感じの出会いがあったりすると目尻の一つも下がるわけですが、基本的にぶれません。
昨今のライトノベルとしてはこれはなかなかに思い切った舵取りだと思いますが、これがいい方向に働いているんじゃないかと思いますね。「基本のブレない」一人称の新太の主観視点で語られるためか、物語全体にある種の落ち着きがあるような気がします。

ですが

今回は二人の距離感が微妙な感じになってしまうんですけどね・・・まあ新太が戸惑ってしまうというか。
おいおいなんだよブレてるじゃないかよとか思うかも知れませんが、その「ブレ」というのは、例えば「少女Aと少女Bのどちらを選ぼうか」というような二者択一のブレではなくて、あくまで「少女Aを選びたいけど、本人は許してくれるだろうか」という一択問題の白黒つけるぜというブレなのですね。
「好きな女の子に自分は受け入れてもらえるのだろうか?」という不安なんてあって当たり前でしょうから、やっぱり新太はブレていないのです。多少のよろめきはあったりしますが、その位は仕方がないというか・・・。「自分に対して好意的に接してくれる女の子」と「いつでもクールで淡々としていて好意的とは言い切れない女の子」を一つの天秤にかけている段階でなんというか許してやるべきと言うか、そんな感じです。普通なら前者になびきますもんね・・・。
というかよくよく考えてみると主人公の新太本人が実に健気です。主人公の新太視点で語られるから気がつきにくいですが・・・。作中で健気と言えばもちろんオコジョ少女のクルンですが、新太もかなりのものだと思います。フツーそこまで出来ないって言うか・・・。

でも

こんな要素ばかりだとシリアスな展開になってしまいそうですが、登場人物のことごとくがどこかしら「残念」な感じなので適度に気が抜けて良い感じです。簡単に言うと「手放しで萌えられる少女が一人もいない」という感じですか。例えば、普段から萌えが明らかに足りていないヒロイン(?)のツクモですが、読み進めていくと結局ツクモが一番イイ! という感じになってしまうというのが面白い所です。
一般的なライトノベルだと「今回どれだけ萌えポイントを作れたか」という「加点方式」でヒロインたちが争っている感じですが、この「レンタル・フルムーン」では「減点方式」で話が作られていると言えば分かりますかね。普通は登場シーンが多ければ多いほど「愛されキャラ」になるはずですが、この話の場合そうとは限らないというか。
何気に登場回数の多い某天使代行の人なんてもう・・・なんと言ったらいいやら・・・。可愛いところがあるとは思えますが、萌えるかと言われたら萌えないというか・・・。スワンの人は言うに及ばずですしね・・・。

総合

星4つにしておこう!
序盤から中盤にかけてはこのままシリアスで進んでしまうのではないかと思いましたが、終盤にかけてしっかりと雪崩式に残念な感じになっていくのが実に小気味良かったですね。残念なのに良いというのがなんとも言えず味わい深いですが。この感じは他の作家では出せないかも知れないですね。
読み終えてみれば全体の構成も良く、登場人物の使われ方も上手く、話も一転二転したけど最終的にはピッタリ着地という塩梅です。正直派手さには欠けるとは思いますが、玄人好みの良い仕事をしているんじゃないでしょうか。変ないい方かも知れませんが「フツーに面白い」ですね。次の3巻も期待して待つことにしたいと思います。
絵師はすまき俊悟氏ですね。ベタなところをしっかりベタに描き上げているという印象です。作者と編集の要望通りに絵を仕上げているというか、痒いところに手が届くというか、そんな感じです。うーん、何気に好きかもしれません。