レジンキャストミルク(8)

レジンキャストミルク 8 (8) (電撃文庫 ふ 7-14)
レジンキャストミルク 8 (8) (電撃文庫 ふ 7-14)藤原 祐

メディアワークス 2007-09-10
売り上げランキング : 76745

おすすめ平均 star
starついに最終巻です。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

城島晶&硝子、そして彼らと行動を共にする虚軸たちと、無限回廊<エターナルアイドル>の一味との最終決戦を描いた最終巻。
ここまで読んで来たのであれば、細かいストーリー紹介など必要ないだろうと思えるので割愛。

キャラクターについて

全員という訳ではなくて、幾人かピックアップしてみます。

城島晶

ついに・・・遂に最後までこれと言った成長をしなかったなあ・・・というのがまず第一印象。
シリーズ全体で見た時、幾つかのターニングポイントはあったけれども、その結果見つけ出したものは「新しい何か」ではなくて「元々あった何か」とか「既に決まっていた何か」だったなと。

基本的なスタンスが1巻の時から何も変わらなかったのが残念と言えば残念。
いや、「変わらないでいること」というのは実はもの凄くエネルギーを必要とすることなんだというのは正直良く分かるので、それが不満の根っこにある訳ではないな・・・。なんだろう? 彼に関しての「何か決定的な本音」を書かない(隠しきった)ままシリーズの最終巻まで走り抜けてしまったという感じ・・・かなあ?
例えば、硝子の事がどの位まで大事なのか・・・とか。いや、書いているのだけどリアリティを持って伝わってこなかったかな。

城島硝子

城島晶とは対照的に、1巻と最終巻では内面に大きな変化が見られたキャラクターですね。
あるいは「硝子の成長=晶の停滞(退化?)」という構図があるのかも知れませんが、いずれにしても大きく変わりました。

「私は生きたかっただけ……なのに! ただ、生きようとしただけなのに! そんなこと、考えちゃいけなかったんです! 人を殺すために、世界を滅ぼすために作られた、ただの機械が……そんな……人間みたいな……大それたこと!」

1巻の時から考えると、非常に人間的・・・というか間違いなく人間的な思考ですね。この話は単純に彼女の成長物語として見た場合には楽しめますかね。

佐伯ネア

こちらも全く最後まで変わらなかった人。しかし彼女の場合はそれが実にいい。だって「既に完成している」というのが彼女の魅力でしたからねえ・・・。

普段、車の助手席に乗せている、赤インクの滲んだ包帯を巻き付けた熊の縫い包み——ステファニーを、白衣のポケットに突っ込んでいた。
「これでもう万全よ。憎い敵はすべてステファニーが噛み殺してくれるわ。……もちろんステファニーは人間すべてに恨みを持っているから、その後私たちにも襲いかかるけど」

いいなあ・・・ネア先生。

話の展開の方は

そうねえ・・・。

「8巻という長旅を続けた結果、ぐるっと回って1巻に戻って来た」

という感じでしょうかね。
手に入れていたものの再確認と、失ったものの再確認をやって来て、そして時間が経った分だけもっと多くのものを失った・・・という印象。
もの凄く・・・虚無的
さすが主人公が自分のほとんど全てと引き換えに「虚軸」を宿した存在だってだけの事はあります。傷口は決して塞がらず、塞ぐどころか広げてみせて、そして癒される前に新しい傷口が増えていく・・・しかし痛みも悲しみも過去に過ぎ去り、後に残るのは記憶だけ——いや、記憶すら失われていくのがこの物語です。
この物語において唯一の真実は「停める事など出来ない『時間』だけが誰にとっても同じ価値を持っていた」でしょうか。

それから

話作りのほうですが、前半は良かったですが後半の戦闘シーンはかなり冗長に感じましたね。無駄が多かったというか、どこまでも遊びの匂いがしたというか・・・。ラスト付近の展開も唐突すぎて「帳尻あわせ」って印象になってしまいました。
森町芹菜の登場シーン周りの展開もご都合主義的でイヤだったなあ・・・。なにそのあり得ない程の大失敗。流石にここはバカらしすぎるなあと思いましたね。
全体で見た場合には敷戸良司の馬鹿は本当に馬鹿だったんだなあという結論に達し、読者全員が恐らく「アイツに言ってやれ!」と思っていた事を晶が遂に言うチャンスに恵まれますので、その辺りはまあ良かったです。・・・でもコイツ、登場させる意味あったのかなあ・・・?

なんとなく思いついたので追記

一文一文という短い範囲(あるいは一段落)で見た場合、時々もの凄く技巧を凝らしているという印象はありますね。わざと凝ったルビを振ったりとかに始まって、この8巻で言えば主従関係を逆転させたりとか、あるいはラストシーンの一文とか、意味をたっぷり込めて書かれた文章であることは想像に難くありません。
しかし・・・緩急の付け方が非常に悪いという印象ですね。走り出したら止まらない。
時代劇で言えば後半30分は延々とチャンパラを続けていたという印象です。チャンパラシーンはそれはそれで魅力的ですが、長過ぎれば飽きる。それと同じ様な感じを受けました。
映画で言えば・・・「シナリオは良いモノを用意」「キャスティングもバッチリなのが決まった」そして「撮影は絶好調のうちに終了!」したけどフィルムの繋ぎ合わせ(編集作業)で失敗、作品全体で見た場合には微妙なシロモノに・・・という感じかも知れないですね。
本気汁垂らしてもの凄く頑張っているのに損をしている・・・そんな作品(作家)ではないでしょうか。

総合

星3つかなあ。
前半星4、後半星2、間を取って星3つと言う感じ。
後半が色々と釈然としないというか——必然性を感じない展開と言うか——その場の思いつきで進むというか——色々とムチャというか緻密さを感じない展開でした。前半の「心の奥にある深い泉を描いた様な描写」が良いので、余計に後半の「脊髄反射で話が進む」展開に違和感が凄かったです。最終決戦の割には色々と無策すぎるし・・・晶は脳みそを何に使ってたんだ?
決戦の場所を相手に決めさせるなんて愚の骨頂じゃないかと思うんだけど・・・というかそれを許さざるを得ない状況というのがもうダメですよね。情報戦で常に遅れを取っているのがもう負け戦の匂いバリバリです。
だから最後の展開は・・・皆で少しづつ積み上げたものの結果というより「たった一人の閃き」で終ってしまったなあという感じでした。まあそれも積み重ねといえば積み重ねなんですけど、「みんなで」積み重ねたという匂いがしなかったんだよね。それが多いに残念です。
シリーズを敢えて総括すると・・・、

実軸とか虚軸とかのネタを無くして、一般文芸的に物語のテーマを掘り下げた方が良い作品になったんじゃないかな?

でしょうか。微妙にもったいないというか・・・ファンタジックなネタを排したこの人の作った話を一度読んでみたいという感じはしますね。

感想リンク

アクセスログで偶然発見

ほんの少しだったですけど

クリエーターズネットワークという所の、チャットのページで私の書いた先日のエントリ「ラノベ作家が放つ渾身の一撃を味わいたい」について言及している所があったので、リンクしておきます
複数の人の意見が同時に読めるというのはチャットの良い所ですね。一行一行で切れちゃうので、読み難いのがなんですが。
このブログの複数のエントリについて辛辣な評価をされていたりするんですけど、皮肉ではなく楽しく読ませてもらいました。これが本当の「忌憚の無い意見」という奴でしょうか。
ここで、”文学少女”シリーズ5 ”文学少女”と慟哭の巡礼者についてもここで取り上げられていて

ワナビってるなあ

って書かれていて、なんの事か分からなくて調べたら、作家志望の人の事言うのね。そっかー、俺ってワナビってるかー。

というか

コメントで情報を頂いた結果、この発言をした人が実際の電撃文庫の「小さな国の救世主」を書いている鷹見一幸氏である事が分かりました。「時空のクロス・ロード」はまあ面白かったけど・・・同じ作者の人だったのか。今の今まで気がついていなかったよ。
こういう事あると妙に楽しいですね*1。是非次の作品の表紙の折り返しには本人が言っている通り「この程度でいいだろうと手を抜いて生き残る事に必死になっているサラリーマン作家」と書いて欲しいです。
・・・いや、流石にやってくれないかなあ・・・。

ちなみに

コメント欄で本人のブログも面白いよって言われたので覗いてみたんですが、上のリンク先の会話を元ネタにしたエントリが書かれたようですね。一応参考までにリンクしておきます
あ、多分こっちも関連してるかな? これもリンクしておきます

*1:皮肉でもなんでもなく。

刀語 第九話 王刀・鋸

刀語〈第9話〉王刀・鋸 (講談社BOX)
刀語〈第9話〉王刀・鋸 (講談社BOX)西尾 維新

講談社 2007-09
売り上げランキング : 76756

おすすめ平均 star
starどんどんあっさりしていくようです
starうーんうーん
star舞台の割には…?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ストーリー

奇策師・とがめと、鑢七花(やすりしちか)は不要湖での微刀の回収を完了した。
そして次の四季崎記紀の変体刀の所在の手がかりを探してそのまま不要湖での捜索を行ったのだが、手がかりは一切無し。結局彼らは事前に真庭鳳凰から知らされていた情報の通りに出羽へと向かう。とがめにちょっとした心当たりがあるというのでそこへ向かったのだが、なんと大当たり。
出向いた先は心王一鞘流の道場。そこで二人は王刀・鋸を発見する・・・現在の所有者である・汽口慚愧(きぐちざんぎ)と共に。
な〜んか今まで活躍らしい活躍をしてこなかった(?)とがめがなんの間違いが大活躍するお話です。

今回は

敵の汽口慚愧が真人間・・・というか、非常に誇り高いと言うか、刀語の時代背景にあるまじきスポーツ精神を持っていた人物だというのが面白かったですね。これにはハッキリと意表を突かれました。
なにしろ七花が無手で戦おうとしたら、

「わたしに、防具もつけず、刀も持たぬ者を相手に剣を振るえという言うのですか——それこそ心王一鞘流を侮辱している!」

なんというかこう・・・戦国の世なら真っ先に後ろからバッサリと行かれそうなキャラクターなんですが、何となくルックスが大正時代の美人って感じなので許す。いや〜こういうのに脆いな〜俺。
で、結局七花が何故か心王一鞘流で稽古をつけてもらう展開に。なにこの超展開。流石に予測不可だったわこれは。

で、

とがめが大活躍だった、と書きましたが、今回は七花ははっきり言って役立たず状態で、

「いやー、とがめ。今日はいい話を聞いてきたぞ。それにまあ、得手不得手にかかわらず、身体を動かすのは気持ちいいもんだ。おれはなんだかあの道場に通うのが楽しくなってきたよ」

ものの見事に刃を潰されてます。なんというか・・・まあこれはこれで人間味があっていいですが。しかしまあ、それに対してのとがめの反応がまた可笑しいですね。

「じょ、情が移っただと……そなた、またも心変わりをしたと言うのか! ど、道場でふたりきりで何をしておったのだ!? わたしはそなたを信頼して、そなたをあの道場に通わせていたというのに! ええい、もうそなたの浮気性には付き合いきれぬわ!」
「……付き合いきれないのはあんたの嫉妬性だ」

なんというか、そういう常識面で七花に突っ込まれるというのって、なんか色々人として終っている気がしますね。というか「またも」ってなんだ。以前の誤解は誤解のままなんだ?
そしてさらに・・・、

「とがめ、ちょっとやばいかもしれないぞ」
「やばい? いやまあ確かに、よその流派の門下生になれというわたしの命令は理不尽だったと思うし、それで愛想をつかされても仕方のないのかもしれないけれど、わたしにはわたしなりの考え方があってだな、それを聞いてくれてもいいではないか」
「いや、その件についての話はもう終ってる」
「終ってるとはなんだ! まだ話し合いの余地は残っておるだろうが! ふたりで築いてきた関係をひとりで一方的に終らそうとはどういうつもりだ!」

もう完全に男に言いすがる未練タラタラの女性状態じゃないですか。うっわー、なんでそっち方面はそんなにイキナリ下手に出ちゃうかな〜。本物の馬鹿なんだけど・・・それが可愛いんだな。

とかなんとか

やりつつも、本番の汽口慚愧との戦いではとがめの奇策が大炸裂! いやーここまで綺麗に決めた奇策も今までに無いんじゃないですかね。とがめに1本! って感じです。七花の記憶を奪う必殺技とかも繰り出すし・・・一体君らはどういう関係なんだね? ン?

総合

と言う訳で星4つ・・・かな?
とがめの活躍が実に良かったし、おまけに可愛かったのでもうそれでいいや。
もちろん他にも例の否定姫の暗躍とか、真庭忍軍の動向とかある訳ですけど、今回はそっちは本筋ではないのでまあ各自読んで確認しような! って所です。・・・しかし、例のアレにはどうやって対抗するのかなあ・・・?
ところで、いつの間にか表紙のとがめがなんだかミニスカート以上に際どい服装になっちゃってるんですけど、良いのか? いや、良いからいいか? うん、いいか・・・いいな・・・。

感想リンク

booklines.net  Alles ist im Wandel