レジンキャストミルク(8)

レジンキャストミルク 8 (8) (電撃文庫 ふ 7-14)
レジンキャストミルク 8 (8) (電撃文庫 ふ 7-14)藤原 祐

メディアワークス 2007-09-10
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おすすめ平均 star
starついに最終巻です。

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ストーリー

城島晶&硝子、そして彼らと行動を共にする虚軸たちと、無限回廊<エターナルアイドル>の一味との最終決戦を描いた最終巻。
ここまで読んで来たのであれば、細かいストーリー紹介など必要ないだろうと思えるので割愛。

キャラクターについて

全員という訳ではなくて、幾人かピックアップしてみます。

城島晶

ついに・・・遂に最後までこれと言った成長をしなかったなあ・・・というのがまず第一印象。
シリーズ全体で見た時、幾つかのターニングポイントはあったけれども、その結果見つけ出したものは「新しい何か」ではなくて「元々あった何か」とか「既に決まっていた何か」だったなと。

基本的なスタンスが1巻の時から何も変わらなかったのが残念と言えば残念。
いや、「変わらないでいること」というのは実はもの凄くエネルギーを必要とすることなんだというのは正直良く分かるので、それが不満の根っこにある訳ではないな・・・。なんだろう? 彼に関しての「何か決定的な本音」を書かない(隠しきった)ままシリーズの最終巻まで走り抜けてしまったという感じ・・・かなあ?
例えば、硝子の事がどの位まで大事なのか・・・とか。いや、書いているのだけどリアリティを持って伝わってこなかったかな。

城島硝子

城島晶とは対照的に、1巻と最終巻では内面に大きな変化が見られたキャラクターですね。
あるいは「硝子の成長=晶の停滞(退化?)」という構図があるのかも知れませんが、いずれにしても大きく変わりました。

「私は生きたかっただけ……なのに! ただ、生きようとしただけなのに! そんなこと、考えちゃいけなかったんです! 人を殺すために、世界を滅ぼすために作られた、ただの機械が……そんな……人間みたいな……大それたこと!」

1巻の時から考えると、非常に人間的・・・というか間違いなく人間的な思考ですね。この話は単純に彼女の成長物語として見た場合には楽しめますかね。

佐伯ネア

こちらも全く最後まで変わらなかった人。しかし彼女の場合はそれが実にいい。だって「既に完成している」というのが彼女の魅力でしたからねえ・・・。

普段、車の助手席に乗せている、赤インクの滲んだ包帯を巻き付けた熊の縫い包み——ステファニーを、白衣のポケットに突っ込んでいた。
「これでもう万全よ。憎い敵はすべてステファニーが噛み殺してくれるわ。……もちろんステファニーは人間すべてに恨みを持っているから、その後私たちにも襲いかかるけど」

いいなあ・・・ネア先生。

話の展開の方は

そうねえ・・・。

「8巻という長旅を続けた結果、ぐるっと回って1巻に戻って来た」

という感じでしょうかね。
手に入れていたものの再確認と、失ったものの再確認をやって来て、そして時間が経った分だけもっと多くのものを失った・・・という印象。
もの凄く・・・虚無的
さすが主人公が自分のほとんど全てと引き換えに「虚軸」を宿した存在だってだけの事はあります。傷口は決して塞がらず、塞ぐどころか広げてみせて、そして癒される前に新しい傷口が増えていく・・・しかし痛みも悲しみも過去に過ぎ去り、後に残るのは記憶だけ——いや、記憶すら失われていくのがこの物語です。
この物語において唯一の真実は「停める事など出来ない『時間』だけが誰にとっても同じ価値を持っていた」でしょうか。

それから

話作りのほうですが、前半は良かったですが後半の戦闘シーンはかなり冗長に感じましたね。無駄が多かったというか、どこまでも遊びの匂いがしたというか・・・。ラスト付近の展開も唐突すぎて「帳尻あわせ」って印象になってしまいました。
森町芹菜の登場シーン周りの展開もご都合主義的でイヤだったなあ・・・。なにそのあり得ない程の大失敗。流石にここはバカらしすぎるなあと思いましたね。
全体で見た場合には敷戸良司の馬鹿は本当に馬鹿だったんだなあという結論に達し、読者全員が恐らく「アイツに言ってやれ!」と思っていた事を晶が遂に言うチャンスに恵まれますので、その辺りはまあ良かったです。・・・でもコイツ、登場させる意味あったのかなあ・・・?

なんとなく思いついたので追記

一文一文という短い範囲(あるいは一段落)で見た場合、時々もの凄く技巧を凝らしているという印象はありますね。わざと凝ったルビを振ったりとかに始まって、この8巻で言えば主従関係を逆転させたりとか、あるいはラストシーンの一文とか、意味をたっぷり込めて書かれた文章であることは想像に難くありません。
しかし・・・緩急の付け方が非常に悪いという印象ですね。走り出したら止まらない。
時代劇で言えば後半30分は延々とチャンパラを続けていたという印象です。チャンパラシーンはそれはそれで魅力的ですが、長過ぎれば飽きる。それと同じ様な感じを受けました。
映画で言えば・・・「シナリオは良いモノを用意」「キャスティングもバッチリなのが決まった」そして「撮影は絶好調のうちに終了!」したけどフィルムの繋ぎ合わせ(編集作業)で失敗、作品全体で見た場合には微妙なシロモノに・・・という感じかも知れないですね。
本気汁垂らしてもの凄く頑張っているのに損をしている・・・そんな作品(作家)ではないでしょうか。

総合

星3つかなあ。
前半星4、後半星2、間を取って星3つと言う感じ。
後半が色々と釈然としないというか——必然性を感じない展開と言うか——その場の思いつきで進むというか——色々とムチャというか緻密さを感じない展開でした。前半の「心の奥にある深い泉を描いた様な描写」が良いので、余計に後半の「脊髄反射で話が進む」展開に違和感が凄かったです。最終決戦の割には色々と無策すぎるし・・・晶は脳みそを何に使ってたんだ?
決戦の場所を相手に決めさせるなんて愚の骨頂じゃないかと思うんだけど・・・というかそれを許さざるを得ない状況というのがもうダメですよね。情報戦で常に遅れを取っているのがもう負け戦の匂いバリバリです。
だから最後の展開は・・・皆で少しづつ積み上げたものの結果というより「たった一人の閃き」で終ってしまったなあという感じでした。まあそれも積み重ねといえば積み重ねなんですけど、「みんなで」積み重ねたという匂いがしなかったんだよね。それが多いに残念です。
シリーズを敢えて総括すると・・・、

実軸とか虚軸とかのネタを無くして、一般文芸的に物語のテーマを掘り下げた方が良い作品になったんじゃないかな?

でしょうか。微妙にもったいないというか・・・ファンタジックなネタを排したこの人の作った話を一度読んでみたいという感じはしますね。

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