暗いところで待ち合わせ

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

前書き

乙一作品は、えーっと、「失踪HOLYDAY」に「あなたにしか聞こえない」を読んでいたので作風は理解していたつもりだったので、それなりに楽しめるだろうという事で購入。えー、なんか映画化もされているみたいなんで丁度良いかなと。

  • 最初の印象「なんか表紙が怖い」
  • 読んだ直後の印象「表紙のイメージ内容と合ってないよ!」
  • 表紙だけ見ると何かホラー小説みたいですが、全くそんな事は無いです。

3冊読んで

やっとこれらの事に気がつくのもどうかと思いますが、乙一は、寂しいとか、切ないとか、侘しいとか、遣る瀬ないとか、そういった情感を表現するのが上手な作者ですね。何となく優しい気持ちになりたい時には丁度良い作者でしょうけど・・・。
いやつまり何が言いたいかというと、乙一作品には決定的に「萌え要素」がかけ落ちていると思うんですよね。とても読みやすくイラスト付きで(「あなたにしか聞こえない」とか)出版されている割には全く萌えがないですねえ。
いや、無いからダメとか言いたい訳じゃないです。それ以前に別に萌えが無くたって良いじゃんとか思いますけど。

よくよく考えてみると

「寂しい」「切ない」なんてキーワードは「萌え」の正反対の要素の様な気がするんですよね。本質的に。
その割には「寂しい」「切ない」があったりする「GOSICK」の桜庭一樹作品は萌えがあったりするんだけど、なんでだろうと考えてみたら、桜庭作品は作品の根底に、常に「理不尽な物に対する怒り」「理解されない事に対する怒り」があるからか。
「怒り」は強い命の「エネルギー」。つまり「エロス」に通づるって事かな。だから「萌え」もあると。

乙一作品の登場人物達は

  • 「現在弱っている」というよりは「過去から現在まで弱く居続けて来てしまった」人たち

あるいは

  • 「傷つく」よりは「かつての傷を引きずり続けている」人たち

ですかね。
もう消す事の出来ない過去が魂にみっしりと苔のように張り付いている人たちです。基本的に覇気に欠けるタイプが主役を張っていると。間違っても怒りや憎しみと共に戦う人たちではない。だから生命力に欠ける印象を受けます。力強さが無い。だから命の輝きとも言える「エロス」や「萌え」が無いんでしょうねえ。
・・・ただし! 萌えが無い代わりに「寂しさ」「切なさ」の放つ炭火の様な柔らかい明かりと熱があります。眩しく感じる事はありませんが、全身がゆっくり暖かくなる様な。

という訳で

乙一ライトノベルにそろそろ限界を感じて一般小説辺りに手を出してみようかなとか思っている人向けかも知れません。読みにくくもないし。描写は丁寧だし。そういった意味では非常におすすめ。
正直いわゆるライトノベルではないですね。でも誰でもすんなり入って行ける優しさがあります。
僕の場合は一度一般小説に行った後、「やっぱりラノベだな〜」と思って還って来た出戻り組の業が深いタイプの人なので、いまいちでした。ええ、つまり乙一作品はハアハア出来ませんですから・・・。
でも、それでも読ませてしまう辺りが乙一作品の魅力とも言える所なんでしょうね。読んで損したとは全く思いませんから。