GOSICK〈2〉その罪は名もなき

GOSICK〈2〉ゴシック・その罪は名もなき (富士見ミステリー文庫)
GOSICK〈2〉ゴシック・その罪は名もなき (富士見ミステリー文庫)桜庭 一樹  武田日向

富士見書房 2004-05
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おすすめ平均 star
star旅立つ者に道は拓ける
star未開の地を訪ねて・・・(;'Д`)ハァハァ  
star夏祭りミステリー

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GOSICK1巻の感想はこちら
桜庭一樹GOSICKシリーズの第二巻。
本編の紹介の前ですが一言。桜庭一樹の文章で非常に気に入っているのが、ピンポイントな言葉を使用しての情景描写ですね。本編ストーリーとは特に関係がありませんが、舞台の紹介も兼ねて一ヶ所引用をしてみたいと思います。

ヨーロッパの小国、ソヴュール王国。
長い伝統を誇るソヴュール王国は、小さいながらも、今世紀初頭に起こった世界大戦を生き抜いた国力を持つ、西欧の小さな巨人と呼ばれていた。国土は塔を思わせる縦に長い形状をしており、フランスとの国境を豊穣な葡萄畑、イタリアとの国境を貴族の避暑地として栄える地中海のリヨン湾、スイスとの国境をなだらかな高原と深い山脈に囲まれていた。

これは物語の舞台となるソヴュール王国についての描写ですが、「塔を思わせる」とか「豊穣な葡萄畑」とか、想像力をかき立てられる言葉を読み込むと、快感です。一冊丸々こうした文章が続くので、一冊分想像力が爆発します。
ただし、これが私が「桜庭一樹がミステリ向きじゃない」と思う所以でもあります(個人的にはミステリがあまり好きでは無いので全く構いませんが)。読者の想像力を刺激する書き方を多用するために、事実としての部分が曖昧になりやすいように感じるのです。ミステリ作家はもっとロジカルで数学的に文章を記述する方が良いのではないかと個人的には思いますが、どうでしょうか。

ところで、GOSICKの二巻では、ヴィクトリカと久条が昔起きてしまった「ある人物の無実の罪」を証明するために学園を出て、謎解きの旅に出る所から始まります。
今回は事件の舞台がある閉鎖された古ぶるしい田舎町で起きるのですが、そこの中世を引きずったような風土や因習などが散りばめられ、全体的にホラー調で話が進んで行きます。この「ある人物」はヴィクトリカと深い関わりを持つ人物で、ヴィクトリカと久条はこの人物の名誉の挽回ために、過去の事件の謎に挑むという事になります。
今回も当然のごとく久条はヴィクトリカについて回るのですが、黙って(ある理由があって黙っている)大荷物を抱えて出かけようとするヴィクトリカを勝手に歯医者に行くと勘違い(しゃべらないから)して無意識にこき下ろしつつ世話を焼く姿が秀逸です。久条の魅力が満載。以下引用です。

「しゃべれないの!?あ、わかった、虫歯だろ?」
「!?」
ヴィクトリカは悔しそうな顔をした。
「そういえばほっぺたがふくれてるよ。右……あ、左も」
それはもともとだ!と言いたそうに、ヴィクトリカが眉間にしわを寄せて歯ぎしりした。
一弥のほうはそんな様子には気づかず、
「歯医者に行くの?それならこんな大荷物はいらないよ。あけてみなよ。うわっ、なんだよ、この荷物。着替えに、大きな鏡に、椅子!?十人分のお茶セットに、君がすっぽり入れそうな大きな花瓶に、あと、なにこれ……簡易ベッドまで!?君はいったいどこに行くんだよ。新大陸に移住する家族じゃあるまいし。こないだより荷物が大きくなっているじゃないか。君ってばほんとにしょうがない人だなあ!」

ヴィクトリカの荷物もどうかと思いますが、本当にどうしようもないのは久条です。心の底からニブチンの称号をあげましょう。それがまた良いのですが。ヴィクトリカもまあ無駄に意地を張っているのですが、そこがまた非常に可愛らしい。しかし久条のこのヴィクトリカに対しての世話焼きっぷりはどうでしょう。本編の間中ずっとこんなスタンスで変わらずいる所が久条の魅力です。そしてヴィクトリカに対してこの勢いでダメだしが出来るのは久条だけです。

もう一つ、本編からヴィクトリカの魅力の一端を引用してみます。

続いて、部屋の中から遠く、ヴィクトリカの声がした。
「おっ、おっ、おっ……」
「……ヴィクトリカ!?」
一弥はあわてて振り向いた。扉を開けて部屋に飛び込むと、耳を澄ます。
と……。
「お風呂が、好きだぁ」
「!?」
「あったまるから〜」
(…………………………歌?)

久条に心の中で「歌?」と突っ込まれてしまうヴィクトリカの歌もそうですが、今回は全編ホラー調なので、この空気が読めない感が堪らなくかわいいですね。冷え性に悩みがちな女性にはお風呂に入って歌い出したくなるヴィクトリカの気持ちがきっと良く分かるのでしょう。とにかく意地っ張りでフリルふりふりでぷっくりとした小さくて可愛いヴィクトリかがとても魅力的です。
ヴィクトリカについてですが、彼女はいわゆる「萌えキャラ」というよりはただ単に「非常に可愛い」と表現した方が実は会っているように感じます。女性(ラノベ読みでは無い!)にこの本を勧めて「ヴィクトリカが可愛い!」非常に気に入られた事があるのですが、これは桜庭一樹の表現力ももちろんあると思いますが、それ以上にヴィクトリカの性別抜きにした可愛らしさによる所が大きいでしょう。

ところで、この作品、マンガの「ローゼンメイデン」が好きな人とかも楽しめるかも知れないですね。ヴィクトリカは動くビスクドールそのものみたいなものですし。どこか抜けている所まで近いです。
謎解き周りは本編の楽しみだから言及するつもりは全くありませんが(ネタバレになってもつまらないし)、ほんのちょっとのアクションを交えて本編の謎解きが進んで行きます。閉ざされた旧い町で、ヴィクトリカと久条が過去の謎にどう立ち向かって行くのか、ぜひ読んで確かめて下さい。おすすめです。
そうそう、それから本編の後半で、このシリーズの続編にまで暗い影を落とす事になる「ある重要な予言」をヴィクトリカと久条は聞く事になるのですが・・・どうなるのでしょう。二人で乗り越えるの事が出来るのか、それとも・・・こちらも今後の見所に間違いありません。

それから、相変わらずイラストのヴィクトリカも最高に可愛いです。パソコン用の壁紙とかどこかに落ちてないかな〜。