ミミズクと夜の王

ミミズクと夜の王 (電撃文庫 こ 10-1)
ミミズクと夜の王 (電撃文庫 こ 10-1)紅玉 いづき

メディアワークス 2007-02
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おすすめ平均 star
starあのね、あのね…
star夜の王にたいして「あなた」はないかと
starほんわか

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読了後、一晩経ってから追記しています。

電撃小説大賞<大賞>受賞作品だそうですが。正直「電撃文庫メディアワークス」のラノベに対する良い意味での貪欲さと懐の深さを感じた一冊です。こういう作品が<大賞>を取れるのであれば、今後も電撃文庫は大丈夫でしょう。ラノベの将来に対する不安すら吹き飛ばす事が出来そうな作品ですね。

ストーリー

ミミズクという女の子が魔物が棲むという夜の森を訪れる。両手を繋ぐ鎖がジャラリと音を立てる。
「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」
夜の王は言う。
「人など食わぬ。反吐が出る」

大人のための童話

と言ってよい作品だと思います。ミミズクの半生と、終わらせようとする決意、そして誕生、再生。夜の王の過去と今と、未来。正直に言って、いわゆるラノベの範疇を超えた何かを心に生み出してくれる作品です。
作品の捉え方によってはこの話は愛の話とも、再生の物語とも、誕生の物語とも、癒しの物語とも、優しさの物語とも、醜さの物語とも捉えられる作品ではないでしょうか。一言では説明しきれないような要素が山の様に詰まった作品です。

ミミズク、まだ生まれていない娘

私の場合、登場した直後のミミズクという人間は「醜い」と思ったのだけど、読み進めるにつれて徐々にある種の美しさを感じる様になった(これは多分結構変わった感じ方だと思う)。
彼女は登場した段階で何一つ間違っていない、間違う自由すら許されなかった哀れな娘。作り出された聖者の様に、原罪の汚れすら作る事が出来なかったようなその人生が、ただただ悲しくて哀れで美しいと思った。
その後、自分の命を手に入れて、人としての喜び、悲しみ、怒りを手に入れて(つまり「生きる」「愛する」という命の甘くて苦い果実を手に入れる)行く事で完全な存在から「人」に堕ちて行くとも表現出来るであろうミミズクも同時に愛しいと思える様になった。それは絶対に間違っている事ではなかったけれども、やっぱり美しくて悲しくて哀れな事だとも思った。

どうにもならない事だらけでも

人の数だけ愛があり、現実があり、過去がある。どうにもならない事だらけだ。ままならない。本当にままならないのが人生なのだ。その中でミミズクは生まれ、生きてしまって、終わりを望んで・・・そして再生して生きていく。
この話の中にある「生きる事」は尊いとか、美しいとかとは単純には思えなかった。どうしようもない奪い合いの現実の中で、何かをつかみ取って行こうとする人々の姿がそこにあるだけだと思う。しかし生きている事は素晴らしい。それだけでも十分に素晴らしいのだ。
「生まれる」「生きる」そして「愛し」「求める」という事がこの本ではストレートに描かれる。その姿は皆それぞれ違う。だから何一つとして「誰にとっても正しい」という類いの事はこの本に書かれていない。そしてまた同時に何一つとして「誰にとっても間違っている」という類いの事も書かれていない。
だから読者としてはただひたすら、祈らずに、願わずにはいられない。全ての愛と命よ、等しく輝けと。

さて、評価ですけど・・・

私はこの作品を単純にラノベとは捉えられなかったので、星は付けません。5つ星にしていますが、便宜上付けているという感じです。正直うまく感想が書けたとも思えません。読了感は良いですので、ぜひ一読を勧めます。
「大人のための童話」と表現していますが、世代を超えて色々な人に読んでほしい作品だと思いますね。この本に関しては沢山の人の感想を読んでみたいと思いました。

イラストですが

イラストは本編内には一切ありません、表紙のカラーのみです。しかし、これはもう大正解だと思います。表紙の赤い花と月の中に描かれたミミズクの姿が、正直読み終わったあと見返して胸を打ちました。絵にするとしたら、ここしかないという情景です。これ一発で十分、不足も余りも無いと思えました。見事。

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