悪魔のミカタ(2) インヴィジブルエア

悪魔のミカタ〈2〉インヴィジブルエア (電撃文庫)
悪魔のミカタ〈2〉インヴィジブルエア (電撃文庫)うえお 久光

メディアワークス 2002-04
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おすすめ平均 star
star見えないことの恐ろしさ
star無題
starまだまだまだまだまだまだまだまだ。

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ストーリー

1巻で「悪魔のミカタ」として生きて行く事を誓った堂島コウですが、その「悪魔のミカタ」としての最初の事件がこの事件です。彫刻<マリア・ドール>の消失事件でした。アトリが四ヶ月ぶりに堂島コウの元を訪れる。「知恵の実」を使用して願いを叶えた「契約完了魔力」を察知したと。
かくてみすてりぃサークル、通称「みークル」の2度目の謎との戦いが幕を開ける——。

のっけからやってくれる

いきなり1巻の主要なメンバー。真島綾のありきたりで、ほんのちょっとした、だけどとっても重要なエピソードから入る所がとても上手さを感じる。1巻での被害者とも言える彼女の動向はなんとなく気になってもいたし、その心の移ろいも気になるところで・・・。まあ、こういう小ネタを組み合わせるのが上手い作者ですね。
そして、堂島コウ、舞原イハナ&サクラ、そして小鳥遊、アトリなどの現在の「立ち位置」を抑えつつ、意外にスロースタートな印象ですが・・・特にイハナとサクラのエピソードが個人的には良いです。サクラがとても怖い

登場人物もどばっと増える

上記の真島綾もそうなのですが、「赤毛の美しい女」朝比奈奈々那、舞原家の私設部隊の紹介とその主要な位置に立つジィ・ニー初登場でもあります。

さて・・・

何となくまだ作者に「ミステリーとして話を作ろう!」という気持ちが見え隠れしているような気もしないでもないこの2巻ですが、「インヴィジブルエア」という超常の存在が出現している事で既にミステリーとしては完全に破綻していますが、それでも登場人物の魅力と「知恵の実」の力でぐいぐいと引っ張ってくれます。

お気に入りキャラですが

この巻での個人的なお気に入りは・・・

ジィ・ニー!

もちろんその「裸体(見えそうで見えない口絵カラーイラスト参照)」も素晴らしいですが、なんといっても最高なのはその性格でしょうか。以下引用。

「はうあ!」

なにをもって「はうあ!」と言ったのかは本編をぜひ参照して下さい。ちなみに大興奮の挙げ句の台詞です。可愛いといったら本人は「無礼な!」とか言いそうですが、やっぱり可愛いキャラクターですね。

じゃあ嫌なキャラですが

朝比奈奈々那!

彼女の言う「赤毛の美しい女」としての誇り、プライド、そして強さ。これらの全てが彼女の内側から出て来たものではなく、母からの譲り受けたものです。それは「子供だけが持つ、ちっぽけで根拠のない自信」にしか思えません。
彼女は自分の事を良く知っていて、そして自分は「こうあるべきだ」という事を非常によく理解し、そしてそれを実際に行動に移せる人物でもありますが——その根拠には何もありません。
なぜなら彼女はまだ「赤毛の美しい女」ではないから。なろうとしている最中だから。「大事なものをなくした事がない」恐れを知らない愚かな子供と言った方が良いかも知れません。ある意味若さの醜さをこれでもかっ!と表現した人物でもあります。見ていて反吐が出るとはこの事でしょうか。
彼女のプライドが根元からへし折れて、ずたずたになった挙げ句、髪の色すら失って——その上でそこから必死になって立ち上がろうとする姿を見たいものです(暗い笑い)。その時こそ彼女は(たとえ髪が真っ白になっていようとも)「赤毛の美しい女」として、それ以上に朝比奈奈々那として、強く、固く、恐るべき存在として現れるのでしょう。コウのように。

コウのように?

「堂島コウは子供だ」と言ったのは1巻の感想ですが、朝比奈奈々那との決定的な違いは、彼が「恐怖を知っている」人物だという事なのです。その上で子供で居続ける事を自ら選択しているという所です。
失う事、奪われる事、絶望する事、失敗する事。
「子供の自分の手ではどうにもならない現実/恐怖が絶対な程確かに実在する」という事を「妹の消失」と「冬月日奈の死」によって嫌という程知っているのです。その上で彼は今のままの「子供の欲望」を持ったまま「その現実と戦い、勝利する」事を選択した少年なのです。
恐怖を知り、それと闘う。
それこそが真の勇気/強さと呼べるものではないでしょうか。気になる人は「ノミっているよなあ」から始まる某有名漫画の名台詞を参照して下さい。

さて・・・

コレ一冊で見たら、星4つ位かな?
ま、結末は言わなくても分かるかと思いますが、この話で堂島コウの戦いは「なんとか」終わる事はありません。彼の戦いに楽なものは一つとしてありませんので、その辺を今後もやっぱり見守る事にします。

ちなみに

この「悪魔のミカタ」を書くにあたって、作者のうえお久光スティーブン・キングの名作「IT」に影響を受けているのはほぼ間違いはありません。全4巻の大作なのですが・・・傍点を多用する描写、時々太字で台詞や情景を表現する書き方。「IT」の日本語版を読めばそこには1巻の時のうえお久光の姿を見る事が出来ます。
この作品のある部分に、おそらくこの「悪魔のミカタ」の作品のテーマ「らしきもの」だと勝手に私が判断している部分があります。そして堂島コウの最後の敵として立ちはだかるものが「何なのか」分かっているつもりでもあります。
・・・ま、実際にうえお久光がこの話を「IT」のどちらの側面を書いているのかによって結論は大きく変わりそうなんで、あくまで分かった気になっているだけですが・・・。