銀月のソルトレージュ

銀月のソルトレージュ―ひとつめの虚言 (富士見ファンタジア文庫)
銀月のソルトレージュ―ひとつめの虚言 (富士見ファンタジア文庫)枯野 瑛

富士見書房 2006-11
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2006年下半期ラノサイ杯結果ページ(新人・新作部門)で結構得票数が多かったので、気になって読んでみたんですね。多分普段だったら表紙イラストのせいで決して買わないタイプの作品ですね。
うーん、露骨にファンタジー色を全面に押し出したタイプの表紙で、しかも富士見ファンタジア。うん、きっとどこにでも転がっていそうな作品に違いない・・・という訳です。
実際は違いましたが。

ストーリー

主人公のリュカ・エルモントは目の細いおよそ主人公っぽくない感じの青年で、結構奇妙な経緯をもって成立している学術院都市国家フェルツヴェンに通う学生。
実は結構凄惨な過去を持つ主人公ではありますが、それを補える程のラッキーに恵まれている青年でもあります。つまり、最高に美人の幼なじみ/お隣さんである、美少女・アリスがいるからですが・・・しかしそのアリスのせいでしょっちゅうトラブルに巻き込まれる生活を送ってもいました。
「決闘」
何故かこの古風な風習が未だにこの学術院には残っていて、美少女アリスの「所有権」を巡って学院の男どもから嫉妬まじりの決闘をリュカはしょっちゅう(木刀での戦い)申し込まれているからなのだが・・・いまの所52連勝していた。
まあ、そこそこの強さを持ち、かつアリスからの信頼(思慕?)も勝ち取っているリュカだったが、ある日突然現れた女性にいきなり心臓をさし貫かれて、死んでしまう。しかし、リュカは翌日、何事も無かったかの様に生きていた・・・。
古い旧いおとぎ話の世界から現代に至るまで歴史の裏側に埋もれて来た悲劇の真実と、その戦いに巻き込まれて行くリュカと、その顛末を描いた作品。
紹介が長くなったなあ・・・。

キャラクターが実にいいと思う

一人一人の性格の描写もちゃんと抑えた感じではあるけどちゃんと表現している所が上手い。
結局の所、どんなに設定に凝っていても、登場するキャラクターに「生々しい人間の匂い」を感じない作品というのはどこまで行っても駄作になる訳ですが、この作品はその辺りが最低限の描写できっちり表現出来ていると思える。
実際に登場するシーンは多くないし、目立たないのだけど特に気に入ったのはアリス。ちょっと引用。

「今の、この時間が、いいんです。この距離が、すごく居心地いいんですよ。」

さらりとリュカに対してこんな事を言いつつも、けっして媚びたり、いわゆるデレデレしたりといったありがちな所に落ちない所が実に魅力的。実際の小悪魔って言うのは、こういう娘を言うのでしょう。個人的に魂を狙われたいですねえ。
それに対してのリュカの反応も同じようなものだったり、微妙だったりで、なんと言うんでしょう? 二人の間に漂っている空気でしょうね(アリスが言う通り)、これが実に魅力的です。

上とは別にヒロインがいますが

二人の女性キャラクターがいる訳です(つまり表紙の彼女)ね。
これらの女性も、ちょっと堅苦しい所(あるいは悲しげな所)があるのは事実ですが、内側に秘めた激情というか、愛情というか、後悔というか、ごった混ぜになった挙げ句ひたすら自分の心を締め付けた結果でき上がったようなその人格がまた、良い。おまけに変な人形がついていたりしますが、それ含めて実に良い。人間くささが実にいい。無駄が多くて、失敗が多くて、弱くて、強くて・・・。これが魅力でしょうかね。

総じて

ま、本編は結局の所魔法バトルものと言って良いでしょうか、キャラクターの魅力もしっかりとある作品なので、読み応えがあります。読んで損は間違っても無いですね。流石に沢山の人が投票した訳だわ・・・と、納得の内容でした。
星4つ、ですかね。もう一つ何かあれば殿堂入りです。続きが早く読みたいですね。
イラストも本編内の白黒イラスト含めて、良いですよ。特に口絵のカラーイラスト! 素敵ですねえ・・・。