私立!三十三間堂学院!

私立!三十三間堂学院 (電撃文庫)
私立!三十三間堂学院 (電撃文庫)佐藤 ケイ

メディアワークス 2005-02
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いやあ、醜い! これは実に醜いお話ですな! 読んでいてある種のウキウキ感が止まりませんでしたよ! この本の存在を教えてくれたid:spark氏に、感謝。

ストーリー

主人公の後白河法行(ごしらかわのりゆき)は両親が死んでしまい、親戚である千住花音(せんじゅかのん:女の子:美少女)の家に引き取られる事になります。そしてそのまま私立の三十三間堂学院編入する事になるのですが、なんとそこは編入生の主人公を除いて全てが女子生徒だった! もちろん生徒達は「たった一人の男子生徒&良い男」の後白河を放っておかない。その結果盤石だったはずの三十三間堂学院は揺れ始める・・・。
そして女生徒側の生徒会長(生徒会の権力は絶大)・五部浄里(いつつべじょうり)が後白河に対して持ってしまった仄かな恋心を「生徒(自分含む:ただし自覚無し)を惑わす危険なもの」と見なし、後白河に迫る!
「私と交際するか、さもなくば学院を出て行きなさい!」と。
後白河が「良い男」である事から勃発する少女達の闘争! 闘争! また闘争! の物語・・・でいいかな?

こいつぁ醜い!

主人公のキャラクターは実はあまり描かれる事は無くて、そのほとんどを女生徒側の描写に費やされる事になる訳ですが、これがまた、醜いのなんの。「恋の鞘当て」にしているせいでそれ程目立ちはしませんが、主人公の後白河を「飢えた人間の中に放り込まれた唯一の食料製造機」とすると話はとても分かりやすい。幾つかの勢力に別れてこの「美味しい果実」を巡っての争いが起こって行く訳ですね。

生徒会側

五部浄里を中心とした勢力ですが、その元々持っている絶大なる権力と武力によって後白河を手にしようとします。特に生徒会長の五部浄里は自分の欲望を完全に棚に上げ(無自覚なのですが)、「私のものになるか、さもなくば出て行くか」を迫る訳です。理論の脳内正当化もばっちり。
学園の秩序を乱す原因となる後白河が「誰のものにもならず自由に動いている」のが動揺の原因なのであって、それを自分が犠牲になって(つまり自分と付き合う事)によって、他の全校生徒が「ふられる」事となって、また元の秩序が帰ってくる・・・と考えた訳です。自らの欲望を満たしつつ、対外的には一見正統な理由を持った権力者ですね。・・・お前は石油資源を狙うアメリカか! という突っ込みを全力で入れたくなる勢力ですね。たまりません。
また、当然権力と武力構造からすれば生徒会側に付いた方が「何かと都合がいい」と考えている生徒達も多くいて、これがまた日和見主義的で良いです。この辺は日本ですね。

反生徒会側

柴又かずちを代表とした勢力ですが、彼女が生徒会副会長と言う事と、後白河の「幼なじみ」という立場、あと後白河を「生徒会長」のモノにしてたまるか! 私の方がずっと後白河を見て来たんだ! という発想から生徒会長勢力に半旗を翻します。
大義名分的には、「生徒会長は自分の権力と武力を傘にきて、生徒の自由を奪おうとしている! こんな横暴が許されると思うか!」でしょうか。・・・実際の所、それはただ単に「後白河を自分のものにしたい」のと「今まで私が色々と世話を焼いて来たんだから私にその資格がある!」という所でしょうか。
お前は欧州連合か! とやっぱり突っ込みを入れたくなります。表立っては「生徒の自由」を標榜して動いている訳ですが、虎視眈々と美味しい所を取ろうとしている事には替わりありませんね。しかも一枚岩と言いがたい所がまた面白い。「欧州」と例えたのはその辺に理由がありまして、構成員のメンバーがそれぞれ腹に一物持っている訳です。読んでいて楽しい。

中立派

千住花音を中心(?)とした勢力ですが、一見穏健派に見えてえげつないです。結局のところ中立と言いつつも「後白河」を手に入れたいという欲望を持ってはいるけれどもその力がない。だから無名生徒の数によって成り立つ「正統な手続き」をもってしてなんとか「調停と言う名の時間稼ぎ&権力構造の転覆」を狙っている勢力です。言わば上記の列強を除いた国連加盟国の集団とでも言いましょうか。
一応力を持っている生徒の数を立てにした「リコール」を迫ろうという集団です。武力と権力で太刀打ちが上記二者にかなわないので、国連決議を持ってその動きを牽制しようと言う一団ですね。
・・・実は最終兵器の発射ボタンを握っている勢力でもあるのですが、表立ってはそれを使う訳には行かないと思っている集団でもあります。つまり「ボタンは押せるけど、それは今後の自分(達)の事を考えると得策ではない」と思っている訳ですね。

社会の縮図を見ているようだ・・・は言い過ぎとしても

面白い。それぞれの思惑が絡み合い、時に武力衝突し、少しでも有利なポジションを得ようとして暗躍する可憐な少女達。そうそう、最近話題になった「扉の外」と同じようなモノ(あちらは原始的な社会学、こちらは国際政治ですが)をコミカル、そしてキュートなオブラートに包んで書いている作品と言えるでしょうか?
・・・で、主人公の後白河は? と言えば、まさしくそのまま「産油国」です。最終的な決定権(一応の主権)は生徒会長からの通達通り(大義名分的には)彼にある訳ですが、パワーゲームの中で揺れ動かざるを得ない、まあつまり自国の主権のと自由を主張する事が一応許されている産油国でぴったりでしょう。
・・・で、最終的に彼が選ぶ道とは・・・。いやいや、これは世界大戦に発展しそうな火種をぶちまけてくれましたね、って所でしょうか。

星の数は?

4つかな。ドタバタラブコメディとして読むと特に面白いとは思えないんだけど、上記のような視点を持って読み始めたら面白い面白い。
「こいつぁくせーっ!ゲロ以下の匂いがぷんぷんするぜ!」
だがそれがいい、といった感じでしょうか。可愛いイラストに騙されちゃいけませんぜ、これはラブコメ仕立てでぼやかしただけの「人間社会の醜いエゴイズム」をこれでもかっ!  と読ませてくれる怪作ですね。・・・続きが読みたいか? と言われれば実は微妙な心境ですが。この本だけで見ればそんな感じでしょうか。
イラスト? エロ可愛い感じの奴もありますね。・・・というか社会情勢を説明するのにこの「私立!三十三間堂方式」を使ったらどうだろうか? 国民の関心が一気に高まって面白い事になりそうな気が・・・なんて。

感想リンク

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