福音の少年 魔法使いの弟子

えー、ひょっとしたら反則気味かも知れませんが、大好きな本なので紹介したいと思います。

福音の少年―魔法使いの弟子 (徳間デュアル文庫)

福音の少年―魔法使いの弟子 (徳間デュアル文庫)

2007/6/6追記

復刊されたみたいなんで是非是非手に取ってほしいですね。ただ私はこの復刊された方の本をまだ読んでいないので、どこまで同じなのか(文字数とか)が分かりません。
以前は500ページ超え、今回は300ページ後半でまとまっているみたいですね。ですので以前の1冊が2冊とかに分割されている可能性が大です。感想を読まれる場合は、それを前提で以下の感想を読んで下さい。状況が変わりましたらまた追記します。
以前の表紙はこっちです。

福音の少年 Good News Boy ~錬金術師の息子~

福音の少年 Good News Boy ~錬金術師の息子~

2007/6/12追記

以前の表紙はメグムとエリカ&アナの三人が出ていましたが、今回はエリカだけが堂々と表紙イラストを占拠しています。まあ分冊になった関係でアナの活躍の機会も減っていますし、これは仕方がないかな〜なんて思います。
ちなみに作中、エリカが箒に乗るシーンがあるんですが、この時のエリカは魔女の古来からの伝統に従って「すっ裸」で空を飛ぶんですが、旧版ではこのエリカの「すっぽんぽん飛行シーン」がイラストになってたんですよね・・・まあ後ろ姿ですけど、可愛いお尻が丸出しでして・・・イヒヒヒヒ
って・・・表紙に挟まって気がついてなかっただけで、カラーイラストになってるじゃん! 二度美味しいメに会えました・・・で、いいのか?

ストーリー

時は現代。ただし我々の知っている現代とは一点において決定的に異なった歴史を持つ世界が舞台となった物語です。
それは「来訪」と呼ばれる事件です。
これは19世紀末に「悪魔」と名乗る存在が人類に対してアプローチをして来た事を指し、この「来訪」によって人類は「魔法」を手に入れる事となりました。その後、人類の世界は魔法がある事が当たり前のものとして進歩し、現代に至っている――という歴史観をもった世界が舞台となります。
物語の世界では飛行機もビルもありますが、それと同時に魔女がほうきにのって空を飛び、電子の精霊達(比喩ではなく)がネットワークとして世界中を網羅しており、錬金術師だとか、占い師だとか、呪い屋などが「実際の力を持って」存在して、普通にそれらを職業として暮らしています。この世界は実際の軍事力ではなく、魔法使い達を中心とした権力機構が存在して世界秩序を保っている世界でもあります。
この話の主人公・御厨恵(みくりやめぐむ)は中学二年生、どちらかと言えばぼーっとして、目立たない、しゃっきりしない、ぱっとしないといった形容詞が似合う少年で、父は錬金術師、母は呪い系の術を持った魔法使いです。両親は共に魔法使いとしての才能を(父はそれなりに、母は結構優秀に)持っているのですが、彼自身はとりあえず何の力もありません。
まあそんな息子を見て(俺の息子のくせにモテないんだろうなあ……位の気持ち)何となくいたずら心を出した父、御厨象山(みくりやしょうざん)は、息子にあるプレゼントをする事にしました。発作的に。
ホムンクルス
錬金術師の父によって作られた人工生命体の少女は「アナ」と名付けられて、息子の恵にプレゼントされたのでした・・・が、このほんの気まぐれが引き金となって、とんでもない、冗談みたいに、魔法世界を揺るがす、大事件へと発展して行くのです・・・。

上記で反則気味と書いたのは

これ実は元は「あるアニメ作品の二次小説」としてネット上で公開されたものを、問題のある固有名詞(登場人物の名前など)を取り去って、一冊の本として出版したものだからです。
これは考えようによってはとんでもない事で、二次小説が一次小説にレベルアップしてしまったという事になるでしょうか。しかも元の二次小説は今でも読む事が出来ます。それでも出版社の目に留まって、一冊の本としてイラストを添えて作品として「お金を取れる作品」として出版するだけの価値がある作品だと判断されたという事になると思います。実際に私は原典を読了済みでしたが、つい買ってしまいました。ちなみに元の作品は・・・今でも良く名前の出てくる新世紀のアレです。

世界観が実に良い

一般的なファンタジー小説ではあるのですが、「魔法」というものが現代社会にどのように溶け込んでいるのか、また歴史を通じてどのようにその魔法が認められて行ったのか、魔法使い達による権力構造がどのように構築されて行ったのか、などなどがじっくり、たっぷりと説得力を持って説明されており、その辺りの設定に広がりというか、幅があってとても心地いいです。
その辺りだけでも十分読み応えがあるので、手に取って欲しいです。

キャラクターが実に良い

確かに作品の創造過程が二次小説でしたので、元の作品の匂いをある程度各キャラクターから感じる事は出来るのですが、その辺りは作者の頭の中で完全に一度消化されてしまっているので、只の劣化コピーに陥っていない所が素晴らしいです。
新しいキャラクターとしてしっかりと肉付けがされており、その過去から現在に至るまで新しく作り上げられていますので、全く別のキャラクターと見る事が出来ます。・・・というか、読んだ感想としてはこの程度の類似性なら当時のあのアニメに影響を受けた作品は沢山ありますので、些細な問題と言い切ってしまって良いと思っています。
そしてその上で主人公級の少年少女達の「ちょっと一風変わった」成長物語として読む事が出来ます。

で、メインキャラクターですが

御厨恵

上でも書いた通り、へたれで、普通で、まあえっちな事とか考えて翌朝一人でパンツを洗ったりしている少年ですが、まあよくも悪くも普通です。特に大きな望みを持つ訳でもなく、だからといって夢を持たない訳でもなく・・・つまり、本当に普通です。まあちょっと瓶詰めホムンクルス少女の「アナ」に、もの凄く入れ込んでしまう辺り、ちょ〜っち、暗いですが・・・。
もっとしっかりしろやい! と言いたくなるような少年ではありますが、破れかぶれになりきれる訳でもなく、また暖かく家族に支えられて、少しづつ、ゆっくりですが成長して行く様を見る事が出来ます。

アナ

瓶詰めホムンクルスで御厨象山の気まぐれで作り出されてしまったちっちゃい少女(手乗りサイズ)です。簡単にキャラクターを説明すると、「アナはメグムのことがすき」「メグムがあそんでくれないとつまらない」「メグムとふれあいたい」とか平仮名で書かれるのが丁度いい感じのキャラクターです。瓶から出てしまうと死んでしまうという運命を背負った、ちょっと切ないキャラですね。可愛いですけど。
純真無垢ながらにしてある意味とっても分かりやすくストレートに微えっちな少女で、なんと言いましょうか・・・色々と困った所のある女の子ですね。

大場エリカ

御厨家にホームステイする事になる優秀で強気な魔女。恵と同じ年齢ながら<上級魔女(下級と中級もある)>として認められた才女で、かつ美少女です。まあ、恵の事を見下しているような、世話を焼かねばいけないかなとか、どうしようもない奴、と思いつつもまあ放っておけない/無視出来ない、というか・・・まああれですね。なんとなく、分かりますよね?
この娘は素直ではありませんが、とても優しく、とても意地っ張りで、そしてとても勇敢な少女です。ラスト近くで彼女の見せるはっきりとした宣言は、なかなか格好いいですね。

とにかく

星5つ付けておきます。
日常的な出来事が連鎖反応を起こして行って、話がどんどん広がっていく過程とか、各キャラクターの内面とかが非常に丁寧に描かれていて、とても好感がもてます。とにかく結構な分量の話なのですが、私は原典の小説を一晩(完徹)で読んでしまいましたし、こちらの出版された本も一晩で読み切りました。
元は二次小説なのですが、元のアニメ作品とは世界観含めて完全に異なった展開をして行きますので全く別の作品という事が出来ると思います。もちろんオリジナルのキャラクターも大量に出てきます。そういう意味ではキャラクターのイメージだけを少し拝借した全くオリジナルの作品という事も出来るでしょう。