リリアとトレイズ(3)(4)イクストーヴァの一番長い日

リリアとトレイズ〈3〉イクストーヴァの一番長い日〈上〉 (電撃文庫)
リリアとトレイズ〈3〉イクストーヴァの一番長い日〈上〉 (電撃文庫)時雨沢 恵一

メディアワークス 2006-03
売り上げランキング : 84206

おすすめ平均 star
starまたしても前後編

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
リリアとトレイズ〈4〉イクストーヴァの一番長い日〈下〉 (電撃文庫)
リリアとトレイズ〈4〉イクストーヴァの一番長い日〈下〉 (電撃文庫)時雨沢 恵一

メディアワークス 2006-05
売り上げランキング : 117313

おすすめ平均 star
star面白いけど・・・
star真実はいつも残酷
starアリソン影ウス!トレイズくんもっとガンバレ!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

前書き

……下の方で色々書きましたが、「こんな感じに難しくいや〜な方向に考える事も出来るけど、どう?」ってひねた見方をしてみたかっただけですので。普通に楽しんで欲しい本ですね(じゃあ書くなって話もある)。

ストーリー

本分より引用。

トレイズへ
年末に行ってやる。
リリア

というお話・・・ではさっぱり分からない訳ですが、年末年始休暇を利用してリリアとアリソンがトレイズのいるイクス王国に旅行して、今回はイクス王国のトラブルに巻き込まれて大騒動という感じの話ですね。1、2巻と違って、ベネディクトとフィオナの活躍の多い巻ですが、苦しい展開の話でもあります。また、地元という事もあってトレイズの活躍シーンが増えたり・・・するのか?

相変わらずなんですけどね

今回はトラブルがトラブルなんで、リリアとトレイズの単独行動が目立ちます・・・というか、この話の登場人物ってみんなのっけからアクティブだよなーと思う。旅行、旅行、旅行、トラベル! 移動が多い事多い事。このシリーズってある種の旅行記ともいえる訳ですが、同作者の「キノの旅」なんてタイトルにまで旅って入っちゃってますし・・・なんか取り憑かれているんかいなという感じではあります。
まあそういった見方をしてみると、移動手段(列車とか飛行機とか)の丁寧な描写やら、移動中のトラブルやら、季節感やら、風景やらと言った所が結構細かく書かれている事に気がついたりします。そこら辺りに作者の怨念の様なものを感じないでもないですが、まあ、好きなんでしょうね。旅行。

ちょっと考えてみます

今回テロの話なんですけど、こういう事が起きる事自体はまあどうしようもないですね。
国の策謀や戦いそのものの行く末はともかく、誰が人として正しかったのかといえば——私個人の感覚としては、リリアとトレイズ(トレイズは後半ちょっと怪しいけど)だけと言う事になるんですかね。彼らだけは「組織(国含む)」という正体不明なもののために行動しなかったから。
この話にしても前シリーズの「アリソン」にしても(キノの旅についてもそうですけど)、作者は読者に「?」を投げかけているのかも知れません。

  • 果たして、何が大事な事なのか?
  • 正しいとは、何にとって正しい事なのか?

英雄的行動、ヒロイズム、または「多くの人のために」といえば聞こえは良いのですが、それは同時に「多数のためには少数を切り捨てる事が出来る」という事でもあります。そこにはもちろん、自分も含まれます。
これは自分と他人に「犬死に」を強制するという事です。そして「国という実態の無い枠組みやそこで暮らす顔の見えない人々のために生きる」という事はまさしく「犬死に」をする事に他ならないのです。人間を止めるって事ですね
——今回のイクス王国の二人、ベネディクトとフィオナ、そして王室警護隊の人々ですが、彼らの行動はそのものズバリ英雄的行動ですね。これはある種究極のヒロイズムの表現だと思いますが、そういう決断をする事が出来る様に自分を作り上げてしまった大人達の面々は……もはや素敵に見えても実は歳月と切り捨てたものたちで汚れきった醜い人達なんですね。ある意味、不気味で恐ろしい存在だと言い換えても良いでしょう。
そうした(ひねた)目で見始めると、もはや明らかに英雄的行動のとれる人となってしまったアリソン、ヴィル、ベネディクト、フィオナ。彼らは「人間としての原始的な良心もっているか?」という意味において既に「人をやめています」。怖いですね。

それと

今回の一件は、元を辿ればイクス王家の暗部が生み出した必然と言えます。今回の物語の大本になっている事件についても読者は知っている事になっていますが、同時にこのシリーズの読者は「歴史は影で作られており/真実は闇の中に隠される」という事にも気がついています。
それを考慮した上で果たして読者は、彼ら現在の体制側の大人達の正しさを頭から信じる事が出来るのでしょうか?
イクス王家もそれだけの事を(血の流れない王家なんぞないですから、おそらく)やって来ているでしょうし、そこに個人の良心やら善意やらといったモノが入る余地はなく、そして偽装された事実だけが残る・・・と。
イクス王家を現在の米国、テロリスト達を某国としてみると、話は早いでしょうね。程度の差はあれ、同じ事です。そこにあるのは「強者の論理」だけですね。
さあ、読者は何を信じたらいいんでしょうかね?

と言う風にきたところで

最後の最後に炸裂する「国も陰謀も関係あるか!いいから仲良くしなさい!」の「リリアの一撃」と「リリアを怖がるトレイズ」はそらもう痛快でした。まあ無茶って言えば無茶で、何の解決にもなってないんだけど「ラノベならこうあるべきだね!」などと思ってみたり。この辺りは作者に「やるじゃないか!」と言いたくなりました。やっぱりリリアとトレイズがこのシリーズの主役なんだな〜と思った作品でした。
そう、人っていつまでたってもこうあるべきですね。

総じて

本編はまあ童話的な解決を見てしまうんですけど、リリアキックが素敵なので星4つでしょうか。それからもうちょっと頑張れトレイズ。このままでは本当のへたれになってしまうぞ!