風の聖痕(2)

ストーリー

<炎術師>一族・神凪から<無能力者>として追放された一人の若者・八神和麻が<風術師>としての力を身につけて日本に戻ってきてから時を同じくして起こった最初のトラブルが解決を見てからしばらくの時間が過ぎた。しかし神凪の一族が負った痛手は大きく、身内に命を奪われたものが多い中、何かと目障りな和麻はトラブルの元となる。神凪の一族から彼を殺そうとする者までもが現れた。
大神操は八神和麻を家族の敵として暗殺をしようとまでしてしまうが、それを和麻は防ぎきった挙げ句、生かしておく。敵であれば女子供ですら容赦しない和麻の普段の態度との違いに違和感を覚える綾乃であったが、この事件はさらに大きな火種を産む事となり・・・。
魔物・化物・人間達が入り乱れて織りなす、血みどろの戦いを描いたファンタジー作品の第2弾。

相変わらず

神凪とその眷属の醜さ、積み上げてきた過去の負債が表に出てくる話ですね。1巻でもちょっと触れられていますが、この話は神凪一族の滅びの物語なのかもしれませんね。まあ綾乃が元気なので、滅亡とかそういう意味ではないですが、古い因習に捕われた一族の忌むべき過去が清算されていく話とでも言いましょうか。

「風牙衆壊滅を祝って!」
「地獄の釜で煮られている兵衛に!」
『――乾杯!!』

1巻の事件の後でこうした宴を開いて祝える精神を持った連中ですからね。今回のトラブルも当然と言えるでしょうね。

和麻は

やはりと言ってはなんですが、非常にシンプル、ゆえに強く固い精神の持ち主として書かれます。今回和麻を「仇と見なして」暗殺を企てた操が和麻に向かって問いかけるシーンがあります。

「なぜ、お兄様は死ななければならなかったのです!?」
「弱かったからだろ」
和麻は当然のように言い切った。

これに対して激高したのはヒロインの神凪綾乃でしたが、対して和麻は冷静です。なぜ神凪は被害者面をしているのか?なぜ風牙衆が反乱を企てたのか?なぜ風牙衆が虐げられてきたか?和麻は言い切ります。神凪の連中は戦闘力だけを価値基準にして風牙衆を蔑んだ、そこに理由があると。
それに対して綾乃はさらに食い下がります。

「だから――あたしたちが不当に風牙衆を貶めてきたことが原因だから、殺されたって仕方がないって言いたいの?」
綾乃は不満そうに唇を尖らせた。だが、和麻はそれにも首を振る。
「俺は、お前らが間違ってるとは言ってない。強いものが正しい。それは一つの真理だ」
「だったら……」
「だがな、弱者を踏みにじる権利を行使する者は、より強い者に踏み躙られる義務も背負う。殺されたって文句は言えない。自分が同じことをやってきたんだからな」

強者の論理を振りかざしてそこに恩恵を受けていた者が、さらに強者に踏み躙られる事を「間違った事」と断罪する事は出来ない、何様なんだお前らは?という事を和麻は言っています。人を呪うなら、呪われる覚悟をしろと、そう言う事です。だから言います。死んだのは弱かったからだと。痛烈ですね。
・・・まあ、普通の人なら当然のように理解している力の構造ですが、力を持っている事に慣れてしまうとそう言う事が分からなくなる人もいるのかもしれませんね。

今回の綾乃

実は同級生に自分の持っている力を知られてしまうのですが、その時の同級生の反応が面白いですね。

「分かんないかな、あんた別に超能力使わなくてもあたしたち殺せるでしょ? 素手で」
「そりゃまあ……できるけど」
「だったら今さら怖がる理由はないわ。拳銃が大砲に代わったところで『当たったら死ぬ』っていう点では同じなんだから」

「要はあんたを信用できるかどうかってことよ、でもって、あたしは信じてる」

世界外交もこんなにシンプルだと良いですねぇ・・・。

しかしアレです

心の醜い人たちが沢山出てくる話ですね。なんともはや。しかし読んでいくと「やってやられてすっきり」・・・って感じになってしまうのが変な本ですね。ラスト近く、和麻が操を「奢るな!」となじるシーンは実に小気味よかったです。しかしどうでも良いと言えばどうでもいいですが、本当に神凪の一族はこれで大丈夫なんでしょうかね?

全体では

もうちょっとで星4つにするかなって感じの3つ。前作と同じかな。
ちょっと若者向けの説教くさいところがあるんでそこら辺がどーもなんとも。それが良いと言えば良いんですけどね。なにかもう一つ欲しいなと思うところ。でもあんまり思い悩まない信念のある主人公って嫌いじゃないですね。