ダークエルフの口づけ

ダークエルフの口づけ―ソード・ワールド・ノベル (富士見ファンタジア文庫)
ダークエルフの口づけ―ソード・ワールド・ノベル (富士見ファンタジア文庫)川人 忠明

富士見書房 2006-08
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おすすめ平均 star
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starダークエルフの闇と、若者の成長の物語

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各方面で評判が良いみたいなんで、久しぶりに手に取ってみたソード・ワールド・ノベル。

ストーリー

少年アマデオは生まれ育った村を盗賊の一味に壊滅させられた生き残りの一人。その際に一人のエルフに女性にその命を助けられる事になります。彼は復讐を誓い、その復讐をそのエルフ女性に依頼するのでした。そして時は流れ——アマデオは逞しく成長し、貿易商ギルドの警備主任となっていたかつての恩人のエルフ女性・ベラの下で警備兵として働いていました。
陰謀と暴力が支配する暗黒神ファラリスの信仰すら許された国・ファンドリアにおいて語られるファンタジー作品。

ベラが魅力的ですね

血に塗れたエルフの女性ですが、その分と言って良いのか、それ以外の理由によるものか判りませんが、奥行きのある決して揺るがない女性として書かれています。台詞ひとつとして単純な優しさやら好意といった辺りから出て来た感じがしないんですが、だからといって単純な冷血漢なのか?と言われたら「違うかな」と答えられそうな深さを感じます。彼女の台詞で一番印象に残ったのは以下の台詞。

「責任を感じるなら、失敗を取り戻す方法を考えなさい。自ら考え、行動できない者はただの数合わせの駒にしかなりません。しかし、行動してもそれを成功に導く能力のない者は、自らの限界を量れない愚か者です。どちらにせよ、いずれは切り捨てられて屍を晒すでしょう。この国では、そういうことになっているのです」

どこの現代日本ですか。日本はファンドリアですか。社会人としては耳に痛い言葉ですな。でも冷たいようでいて同時にとても親切で優しい言葉でもありますね。その辺りがこのベラという女性に「単純ではない何か」を想像させてくれます。

アマデオですが

ベラに傾倒し、憧れるその気持ちは非常に良く分かりますが、ちょっと流石に青臭すぎるかなとか思いましたね。ファラリス信仰すら許された国においてよくもまあ生き残れたなあと思うくらいに正義漢で優しい男です。話し振りとかも微妙に丁寧ですれていないので、その辺りに妙な違和感を感じましたね。苦労しているはずなのに苦労人の匂いがしないとでもいいましょうか。
あと、ソード・ワールドを舞台にした物語の主人公は自分の事を描写する時に「オレは〜」とカタカナ表記で書かないとイカンというルールでもあるんでしょうか?ロードス島戦記のパーンに感じた違和感再び、って感じでしたね。
まあ何となく悪くは書いていますが、周囲から浮いている感じこそしますけど、アマデオというキャラクターの作り自体は悪くは無いですね。

「一万人でも、同じだ」と、アマデオの色を失った唇が言葉をこぼした。「死んだ人間は、なにも言わない…………なにも、望まない。だから……なにも、応えてはくれない」

復讐にその身を焦がした事のあるいかにも彼らしい台詞でしたね。少しづつでも成長しているという事でしょうか。

ストーリーは

陰謀劇って感じですが、その複雑な組織間の対立状況や、勝手に動き回る下っ端やらが状況を複雑にしてくれて面白いです。本書の巻末には組織間の対立構造や各登場人物の立ち位置などが書かれているので、混乱したらその辺を見れば状況が一発で理解できるというのもとっても親切設計ですね。
あと、あまりにも遠ざかっていたので忘れたかしらんって感じなのが、本書のタイトルでもある「ダークエルフの口づけ」という言葉に含まれる「暗喩」でしょうかね。「必ず殺す」とか「暗殺の刃の一撃」とかって意味だったかしらん?

総合

星3つかなあ。
面白かったけど今イチぱっとしない感じではあったかな。ベラは魅力的だけど、もう一人の主人公とも言えるアマデオがまだまだ未熟と言った感じでしょうかね。しかしこの辺りは彼の成長とともに良くなって行くんでしょうかね。既に出ている2巻に期待したいところです。
椎名優氏のイラストは表紙、口絵カラー、本文ともにそれなりの水準に届いているかなって感じました。雰囲気は結構良く出ているんではないでしょうかね。