ヴェイスの盲点

ヴェイスの盲点―クレギオン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

ヴェイスの盲点―クレギオン〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

ストーリー

タイトルにあるように第1巻の舞台となるのはヴェイスと呼ばれる特殊な惑星。
惑星ヴェイスを満遍なく取り巻く前大戦の遺物である「宇宙機雷」がこの惑星の存在を特殊なものにしています。この「宇宙機雷」は一定の距離に近づいた宇宙船に近づき問答無用で爆破するという危険極まりないシロモノ。なので、その惑星ヴェイスに行くのにも、ヴェイスから帰るのにも「ナビゲーター」と呼ばれる特殊な訓練を受けた人物が必要になるのです。
この物語の主役を務めるのは「ミリガン運送」。彼らにあてがわれた「ナビゲーター」は、なんと線の細い印象のある「まだまだ子供」の少女だった!
中年オヤジ社長・ロイドの夢と、腕利き美女パイロット・マージの意地と、ナビゲーターの少女メイ・カートミルの純真が織りなす、素敵なSF作品。

ミリガン運送ですけど

中年オヤジであるロイドに、腕利きの美女パイロットであるマージ。この二人が乗り込むのはポンコツの宇宙船・アルフェッカ。これがミリガン運送会社の全てだったりするんですね。弱小も弱小、最小も最小、全く取るに足らない会社な訳だけど、それが実にいい。妙なリアリティを全力で醸し出してくれます。
そんな彼らを中心に、宇宙を股にかける人たちの夢と希望とか、純情とか、貧乏……とか、失敗……とか、あとまあちょっとした悪巧みみたいなものをコミカルに、時にシリアスに描いたSFの名作(?)だとここの管理人が思っている作品なんですね。
どうやら比較的最近にハヤカワから復刊されたような気がするんで、取り上げてみました。自分の何かのリストでも入れたような気がする・・・忘れた。

キャラクターがいい

例えばヒロインのメイ(マージという美女もいますが)ですが、いわゆる萌えとかでは無いんですけど、なんというんですか、可愛いです。実に純情、実に初々しく、実に素直で、実に優秀(?)なんですね。
精一杯頑張って頑張って、さらに頑張って頑張りたい……でも実力も経験もないのがメイなんですが、それを中年ヒゲオヤジのロイドの持ついたずら心と少年みたいな冒険心と経験が見事にバックアップして、さらに加えて優秀で美人なんだけどなぜかミリガン運送から離れられないマージの気合いと技術とプライドが裏付けして、全員足して3で割ると実に「はちゃめちゃでパワフルで理知的」という謎の印象を作り出してくれます。

全体のストーリーも

実にいいんです。
結局のところ本作は「惑星ヴェイスをとりまく機雷原」+「一攫千金を狙うミリガン運送の二人」+「そこで生きる真面目で純真な少女」の物語と言える訳ですが、実は惑星規模の陰謀なんかもあったりしまして、話を色々な方向から盛り上げてくれます。また、SFとはいいつつも優しい言葉で物理的な事実を説明してくれたりするので、そう言った方面でもおすすめです。
ちなみに全力で文系の私に「コリオリの力」という言葉や現象をやさしく説明してくれたのは本書ですし、ついでに今でも十分最先端な暗号「公開鍵暗号」の基本原理について一番理解しやすい説明をしてくれた本でもあります。個人的には今のところ、「公開鍵暗号」についてこの本以上に楽しく教えてくれた本には巡り会っていません。

とにかく

総合星5つですね。
でも「思い入れのある本ほど上手く感想が書けない」ような気がするのは・・・何故だろう? まあ仕方がない。
SFに多少なりとも興味がある人、「今年の夏こそ宇宙に行きたい!」とか妄想したことのある人、本書を読んだ事のない人には是非とも手に取って頂きたい作品です。この感想自体は昔出版された富士見ファンタジア文庫版を元に書いていますので、復刊版とはちょっと違うかも知れませんが、まあ良いじゃないですか。
富士見版のイラストは有名な弘司氏です。メイが実に可愛いですね。
そういや当時のドラゴンマガジンがまだあって、「ザンヤルマの剣士」繋がりで弘司氏がメイの体操服姿(もちろん名札に「かーとみる」の名前付き)を「ザンヤルマの剣士」のヒロイン・朝霞万里絵と一緒に描いたポスターが付いていまして、隠れ家宝扱いになっていますかね。