学校の階段

学校の階段 (ファミ通文庫)

学校の階段 (ファミ通文庫)

ストーリー

神庭幸宏はこの度高校に入学した一年生。部活に悩んでいた所だが、ひょんなことから「階段部」の部長である九重ゆうこに目をつけられてしまい、階段部になし崩し的に所属する事に。
ただ走る、走る、走る! そこに階段がある限り走る! 少年達の方向性の見えない疾走するエネルギーを描ききった(?)一風変わった青春小説の1巻ですね。

良い所も多いけど不快感も凄い

巡回している感想ブロクさんとか、他の感想でも比較的好意的な意見が多いし・・・私が変なのかなあ・・・この巻き起こる不快感。
以下の文章を「ファンの人は普通に気分を害しそうだ」という理由で最初「続きを読む」にしていたんだけど、いいや! やめた! なんかそれって自分の意見への反発を恐れているだけの卑怯者のような気がする。・・・ただ、ネタバレはネタバレなんで、未読の人はスルー推奨は変わりません。

追記(2007/6/12)

色々アレから考慮した結果・・・以下のようなものを設置しておきます。

読む人によってはここより下は『心の安寧を損なう酷評』になっている可能性が高くなっております。

ファンの人は要注意! この感想が地雷です!

酷評と知りつつ、それでも読まれる場合には、以下の「続きを読む」をクリックして下さい(検索で直接このエントリに来た場合には「続きを読む」は表示されませんのでご注意下さい)。

一点目:九重ゆうこと刈谷健吾がまず不快

九重ゆうこさんですが、まずかなり変です。

「昨日はなんか勢いで入ることにしましたけど、あれってやっぱり変ですよ。明らかに脅迫じゃないですか。そういう卑怯なことをする部になんか、入りません」

これ、神庭幸宏くんの九重ゆうこの行動に対する発言ですが普通に正論です。どう考えても。では、ここに至までの事実関係を整理しましょう。
「神庭幸宏に入部を迫る筋肉集団」から、神庭を九重ゆうこが助け出したのは事実ですが、そのあと見事に脅迫(筋肉連中はクラスメイトだからこの後もつきまとわせられると言っている)しているのも事実ですし、その後その点を「卑怯」よばわりされた事にゆうこが不快に思ってしまって、神庭のカバンを奪って逃走し、その挙げ句に焼却炉に投げ込むとまで言ってしまっているのも事実。
行動をリストにするとこんな感じ。

  1. 筋肉連中から神庭くんを助け出したのは? =「九重ゆうこ」
  2. 選択肢を勝手に二つしか無い状態(筋肉部 or 階段部:これを卑怯という)に追い込んだのは? =「九重ゆうこ」
  3. 二つに選択肢を減らされた状態での決定は無効で、かつ卑怯だという神庭の指摘に勝手にキレたのは? =「九重ゆうこ」
  4. 結果、人の持ち物を奪った挙げ句逃走、脅迫を続けたのは? =「九重ゆうこ」

最初に助けた事実があってもその後コレではただの、ドキュン

その後、刈谷くんが登場してきます。彼は九重ゆうこと神庭幸宏がもめている所にこう発言します。

「とはいえ、お前も少々態度が悪いんじゃないか? 断るにしても礼儀ってものがあるだろう。ゆうこが強行な手に出たのも、癇に障るようなことを言ったからじゃないのか」

確かに九重さんに追いついた後の神庭くんの態度が良く無いのも事実ですが、明らかに癇に障る事と卑劣な行為をしているのは九重ゆうこであり、その無礼な行為について謝罪する前に「お前の礼儀がなってなかったんじゃないか」という発言をしている訳です。
上で列記したような事をやられておいてそれでも「礼儀正しく」なんてする奴はそいつはタマ無しです。なので刈谷の言う事は責める側を完全に間違っています。続けて、刈谷と神庭のやり取りがありますが・・・。

「そ、そんな。憶測でものを言わないで下さい。それに酷いことを言われたからって人の物盗んでいい道理なんてないでしょ。こっちが被害者ですよ」(神庭)
「ああ、うん、ありがちな意見だ。喧嘩は先に手を出した方が悪いと、紋切り型に信じているアホな奴の考え方そのままだな。お前、先に手を出さなければ、どんな罵詈雑言でも許されると、本気で思ってるいのか?」(刈谷

刈谷の発言、コレ自体がどう考えてもある種の罵詈雑言です
指摘している自分が同じ矛盾に落ち込んでしまっている段階でただの詭弁です
加えて「罵詈雑言を浴びせる」という事実があったとしても(無いんですが)、「人の持ち物を強奪して脅迫する」という行為とは全く別の問題なので、同列に並べて論じる事自体が不自然です。
それに、ここで刈谷くんが持ち出している「架空の(繰り返しますがそんな事実が無いので)罵詈雑言」は「その事実があった場合」でも「過失」でくくれる類いの「名誉毀損」ですが、九重ゆうこのやった事は明らかな「故意」の「窃盗罪」と「脅迫罪」です。
加えて刈谷君は名誉毀損が確定していない段階で相手を非難しているので「故意」の「侮辱罪」にあたります。過失相殺が可能だとしても、確実に階段部の負けが確定している問題ですね(法律に詳しい訳ではないけど概ねあっていると思う)。

刈谷というキャラクターが持つ変な反骨精神とイヤミと詭弁とでもいいましょうか? 不快感がつのって仕方がありませんでした。・・・ま、その後入部を強制する訳でもなく、見学という妥協案を刈谷は提出してくる訳ですが、それだって変な話なのです。神庭が九重ゆうこに筋肉連中から助けられた(恩がある)のは事実ですが、
それを切っ掛けに階段部への入部の脅迫材料にした段階でどう考えても貸し借りなしだろ
それに気がつかない主人公が唯々諾々とこの状況に従っているのが理解不能でした。・・・ま、結果として自分から入部するんで「終わりよければ全てよし」となってしまうんでしょうが・・・この展開に納得できるのが不思議です。

二点目:短慮な悪者として描かれる中村ちづる

これはもう単純に「階段部」の皆さんの努力不足です。
最終的に活動状況をビデオ上映する事で、「階段部」は正式な部活動として認可される事になるんですが・・・つまり活動状況をちゃんと知ってもらえれば以前の段階から「正式な部活として認可をうけられる可能性があった」訳ですね。
危険な部分はありつつも、マメな掃除活動やら、階段部が守っている「マナー/ルール」などをきちんとした手順で他の生徒達にアピールするべきだったのです。なぜそうした「階段部に対しての理解を深めてもらおう」という努力を怠って来たのでしょうか?

最終的に<陰謀>と作中で明らかな悪意を持った表現されている生徒総会での「階段部」の活動内容を記録したビデオの放送。これを認める事で、刈谷や階段部はそれ(=自分たちの活動内容とそれへの理解を周囲に求める)をようやく行う事になる訳ですが、それは生徒会主導で行われるべきモノでは無く、階段部主導で行われるべき行動だったと思いますし、もっと早い段階で、大々的に、正統な手続きをもってして行われるべきだったと感じます。

生徒会の中村ちづるがかなりの一方的思考の持ち主(刈谷に主に突っかかるので、何か背景があるんでしょうが)なのは事実ですが、それと同じだけ「階段部」側に問題があったのは間違いありません。
説明責任、他者に自分たちの活動に対する理解してもらう活動を行う事を放棄し、一方的にアンダーグラウンドの活動をして、物語上の勢いで上手くいったからという事で「一人の少女を悪者にして」丸く収めていい話ではありません「相互理解への努力不足」こそが問題の根っこにあると思えるからです。
これ、結果として上手くいってしまっただけのテロ活動でしょ?

「無理を通せば道理が引っ込む」ことがしばしば起こるのがラノベですし、そこに楽しみがあるのもラノベだったりしますが、このような状況で中村ちづるのような分かりやすく醜い悪役を利用することでしか盛り上げられない話なんぞ嫌です。
無理を通す前に「人事を尽くして天命を待つ」のが正しくは無いですか?

三点目:人間関係に正解はない

自分が心配されている事を知らない神庭幸宏くんは、家族に向かって言ってはいけない事を言ってしまいます。

  • 一番上の姉には馴れ馴れしいと
  • 三番目の姉には迷惑だと
  • 四番目の姉には卑怯で最低だと

実は、彼女達は幸宏に対しての愛情を表現しているつもりだったり、上手く表現できないだけだったのですが、幸宏はそれを見事にうっとおしがったり、勘違いしたりする訳ですね。で、まあ二番目の姉が木刀片手に乗り込んで来て、幸宏くんがボッコボコの折檻の挙げ句、まあ仲直りとなるんですが・・・これも理解に苦しんでしまいました。

「あんた何様のつもりよ? 一人じゃ何もできないガキのくせして、偉そうに喚きやがって。よくも姉さんを、美冬を泣かしてくれたわね。二人がどれだけあんたのことを心配してくれているのか、わかってんの? わかってないんでしょう、ガキだから」

いえ、この言い分に問題がある訳ではないんですが、これ繰り返しになりますが「相互理解への努力不足」ですよね?
幸宏くんがガキなのは事実ですが、彼女たち姉妹にも問題があるんです。どう考えても。相手がまともな情動を持っている人間を相手にした関係において「片方だけが一方的に非難されて終わる関係」なんてものは存在しないはずなのです
実はここには、主人公の神庭幸宏も、4人の姉達も「相手の事を考えずに勝手に空回りして振る舞った挙げ句、知らないうちに相手を傷つけたり、いやな思いをさせていた」という事実があるだけです。そこに善悪はありません。
お互いを理解しようという事に関して、それぞれの努力不足があるだけです。こう言うともっと分かりやすいです「お互いに知らないうちに相手をいら立たせたり、傷つけあっていただけ」と。
なのになぜ、幸宏くんだけが折檻されるんでしょうね?
当事者の一人でもある次女がその折檻を出来るんでしょうね?
この展開に納得できる主人公が完全に理解できません。確かに誤解があったのは事実ですが、彼は一方的に断罪されねばならない人物だったのでしょうか? 私にはこの作者の気持ちが判りません。

「階段部をやめさせたいけれど、自分にはそんな力も権利もないって嘆いていて。それで姉さんは、とにかくあんたの話を聞いてみようと呼んだんじゃない! それを何? 一人で勝手にキレてんじゃないわよっ。あんたの方こそ姉さんを、美冬を信じていないじゃない。嫌ってんじゃない。いい加減にしなさいよ、このガキ!」

確かにその通りですが、お互い様です
誤解の種をお互いに蒔きまくっていた関係において、正しい立場などありません。そこには一人一人に「相手を思いやる行動が欠けていた」という事実があるだけです。
心配している? 優しい? 気を使っている?
そうした気持ちから出た行動はあらゆるものを差し置いて正当化できるのか?もちろん出来る訳がありません。そんな理由で一方的に正当化できる行動など一つもありません。もし正当化できるならアメリカのイラク占領政策だって簡単に正当化できるでしょうね。
相手に伝わらない、相手にとって意味の無い、相手にとって余計でしかない、相手にとって不快でしかない行為はどんな思いから出た行動であってもただの独りよがりの行為でしかありません。親の歪んだ愛が時として子供を壊してしまうように。
私なら翌日には出て行きますね、この家。・・・とにかくココでも一人の悪役を作る事で問題の解決が図られた事になってしまいました。安易過ぎやしませんか?

追記:一晩寝て起きて

さらに不快感の根っこが分かって来たような気がします。
ルールを破ろうとするライトノベルの主人公は結構いますが・・・幾つかのパターンがあります。

  • 作品内にルールがそもそもあるようでない。

コメディとかはこの典型ですが、「ドクロちゃん」とかも完全にコレですね。
学校の階段」はこれにはあたりません。

  • 作品内に一般的に知られているルール以外に隠されたルール(世界の裏のルール)があり、それに従わざるを得ない場合。

例えば「フルメタル・パニック!」の相良宗介がコレにあたります。ルールを破っているようでいて、破っていないパターンですね。彼の中には人と違う真実と法体系に対しての知識と理解があり、それに忠実に従っているし、従わざるを得ない(でないと自分の存在や権利が脅かされる)それだけです。学園異能系含め、大抵のラノベはここに引っかかります。「アスラクライン」の物語全体とか「涼宮ハルヒの憂鬱」のハルヒ以外の登場人物とか「悪魔のミカタ」もちょっとこれに引っかかります。
しかし「学校の階段」はそうではない。一般的な学校が舞台になっています。

  • 作品内にルールがある事を知りつつも、自らそれと戦う事を決めて、自ら実際に戦うもの。

例えば「涼宮ハルヒの憂鬱」のハルヒはこれにあたります。だから自分で行動し、奇天烈と言われても自分の行動に対しての最低限の理解を周囲に求める事を忘れません。それはバニー衣装だったり、チャイナドレスだったりしますが・・・。
あるいは「悪魔のミカタ」の堂島コウもここですね。彼なら目的の達成のために「今自分に出来る可能性を全て試みよう」とするでしょう。それは自分のPRも含めて、可能な限りの戦いを自ら行うでしょう。そしてまた、彼らは(特に堂島コウのようなシリアスな作品では)自分の背負うべきリスクや罪を人に預けてしまったり、無かった事にはしないでしょう(ハルヒの場合には背負いたくても背負えないという所があったりしますが・・・)。
やはりココでも言えますが、自分から戦う事を行わなかった「階段部の面々」とは違いますね。

追記:また

結果論的に彼らは「罰を受けないこと」に上手い具合になってしまいましたが、彼らは「罰を受けないこと」になっただけで「それまで犯して来た罪そのものが」消え去っている訳ではありません。ラストの生徒総会では「今までの罪が許された」訳ではなくて「罰が無くなったので罪そのものが無くなったように何故か全員錯覚している」だけです
また、別の観点から言えば、「今まで殺人をしていたけれど、殺人事件を起こした後に『殺人は合法』という法が出来たので、法が出来る前から殺人行為をし続けていた連続殺人犯が罪に問われないようになってしまった」という理不尽な状況と同じです。
普通こんな事がまかり通ってしまったらメチャクチャな事になりますから(逆を言えば「飲酒行為そのものが死刑という法律が今国会で出来たので、今まで酒飲んだ人間は全員死刑」という事態が起こりうるという事です)法の大原則として「法の立法された以前の行動は罪として問えない(罪という事実が発生しないから)」という前提がありますが、これはその逆の事態が起きてしまった「新法が立法されたので以前は罪だった件についても問わないし、問えない」になってしまっただけですね。意味が分かりませんし、これを平気で書ける作者も分かりません。
この「罰が無いから罪もない」という展開で納得してしまえる彼らは口ではどう言っても「悪い事をしていた自覚」などありませんし、この事実に気がつかない周囲も異常です。私が「階段部」でこういった展開(誰も彼らを罰しない状態)になったのなら「部活動として認められたかわりに、今までの罪を償うべく何らかの罰を自ら負う」でしょう。半年〜一年の活動停止とか。
また、本編中で彼らが虐げられる存在として書かれるためそちらに感情移入しやすくされていますが、これは単純な情報操作以外のなにものでもありません。

結論

完全に不快でした。
あと、作中にこんな台詞もありましたね。

「悪いことをしてるってわかってるよ。廊下を走ったり、階段を駆け回ったり、はた迷惑で危険なことだってわかってる。しかもバイクの暴走行為や何かみたいな悪いことじゃなくて、小学生レベルのものだ。本当にガキだよ」
「……」
「でもなあ……」
雑巾の水がバケツの中に落ちる。
「走らずにはいられないんだよ」

迷惑で、危険で・・・程度の違いこそあれ無許可でやっている以上バイクの暴走行為と全く同じだと思うけどね? でも自覚が無い人もいるみたいです。例の珍走団が「すみませんでした!」って言いながら走っていれば皆さん問題無しにするんですかね?この理屈、奴らと多分全く同じですよ?
上の方で書いた3つの不快感も「ドキュン的解決と理屈」という風に名前をつけてしまえばアラ不思議、全く違和感が無くなる所が面白いです

星は3つにしてたけど2つに訂正!1.5があったらそれでもいい。
行き場を見つけた青春のエネルギーをぶつけた先が暴走行為だった・・・って、まあヤンキー漫画やらなにやらで沢山あったりするしね。
まあつまり、イラストが可愛らしく書かれていて、なんとなくぼやかしているだけで、これはただの暴走族ラノベと認定する事とする。星が少なくなるのも仕方がない。珍走団、嫌いだし。
・・・まあ、そうはいっても私にも青春時代はあった訳で、そう考えると彼らの行動が全く理解できない訳でもないんですけどね。恋を原因としたレースバトルや、ラストの生徒総会の展開などはなかなか読ませる感じでしたし、主人公が「階段部」にのめり込んで行く過程は実に青春って感じだったからですね。熱い!確かに熱い!でも力づくの迷惑話ですか。相性が悪かったで片付けるべきか・・・なんともはや。
イラストは・・・ヤンキー系のイラストにしたら?

感想リンク

ウパ日記  今日もだらだら、読書日記。  ラノベ365日  booklines.net

コメント欄にコメント頂きましたが、id:sparkさん、「イニシャルD」とかは読めます。見つかったら普通に道路交通法で逮捕されるだけですから。彼らはなんだかんだ言ってリスクをしょっている訳ですしね。「バキ」やら「ホーリーランド」やら「エアマスター」とかも読めますよ。普通に傷害罪で捕まりますが、やっぱりリスクを自分でしょい続けているわけですし。
id:tonboさん、いやはや、なんともはや・・・我ながらみっともないというか・・・本当、無理しないで別の方行に進む事にしますね。

追記の追記

id:kim-peaceさんの「平和の温故知新」の方でこの感想を取り上げて頂いたので、ただいま色々な人にこの感想を読んで頂いているのですが、しかしkim-peaceさん、客観的でオトナで素敵だ・・・。しかも指摘が概ね当たっているような気もします。
私は結果として酷評する事しか出来ませんでしたが「まったく異なった見方がこうして出来るよ」という内容をこの感想を元に書かれていらっしゃいますので、もしご覧になられていないようでしたらぜひ読んで頂けたらと思います。